第40話


あれは、満月の夜。


何気なく覗いた他人の家の窓。


視線の先に、血を流し倒れている男と、怪しく笑い、髪を振り回し、独り言の様に呟く女。



『曼珠沙華は、血の色』



『人の血を吸って、曼珠沙華は、赤く染まるのよ』



微かに聞こえてきた言葉。



『葵は、良い子。

だから、良い物をあげるわ』



女は、自分が持っている血に染まったナイフを、幼い少女の右手に握らせた。


顔を上げたまま、女を見上げる幼い少女の瞳は、俺が長い間、探していた赤い瞳だった。



やっと死ねる。


そう思う気持ちとは、裏腹に部屋の中に、忍び込んだ俺は、幼い少女の手からナイフを取り、女の胸に刺した。


1度ではなく、何度も刺す。


返り血が、俺の顔や身体に飛んでくる。


どうせ、俺は捕まる訳がない。


俺は、生まれた時から、吸血鬼と呼ばれている化け物。


それより、赤い瞳の少女を、連れ出すのが先。


『逃げよう』と声をかけ、幼い少女の手を握った。


俺達、吸血鬼は、赤い瞳を持つ人間に出会ったら、死を意味すると、遥か昔、婆さんから聞いた。


それが、本当なのか、まだ分からない。


答えが知りたくて、2人で逃げた。

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