第36話


波打ち際に座っている私。


それさえも、忘れてしまうくらい月に照らされた海は、綺麗で幻想的に思う。


波の音だけが、静かに聞こえる。



「君は」



私の耳元で、小さく囁いた琥珀。


【葵】と言う名前を教えてくれたのは琥珀なのに、やっぱり名前を呼んでくれない。



分かっていた……?


それは……何故……?



「すぐに忘れる」



そう言葉にした琥珀の温もりが私から離れていく。


待って。と言葉に出来ない。



私が、すぐに忘れるの……?



それは、どうして……?



琥珀に、抱きしめられている間、痛む事のなかった頭の中が、再びズキズキと痛み出す。



「琥珀」



名前を呼び、ゆっくり振り返ると、もう琥珀の姿がなかった。


ズキズキと痛み出した頭の中が、ガンガンと鐘を鳴らした様に痛み出した時、私は暗闇に飲み込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る