第35話


「………い…」



ボーと海の水面を見ていた私の耳に、囁いた様な小さな声が聞こえ『えっ?』と漏れた私の声。


琥珀の声なのは分かるのに、胸の奥が、どうしようもなく切ない様に感じたのは、私の錯覚……?



「君の名は、あおい」



月の明かりに照らされた砂の上に【葵】と言う文字を書いた琥珀。


だけど、その文字は、すぐに波にさらわれた。


凄く知りたかった自分の名前なのに、知ると全てを失う様な気がして、身体が微かに震えた。


私の身体を後ろから抱きしめてくれる琥珀が居るのに、何故か遠くに感じてしまう。


胸の奥が苦しくなって、静かに溢れ出す涙が私の頬を伝う。



どうして……?

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