第5章 リンツ・シュバリエと最高の魔法

第67話 文化祭当日

「ああ、忙し忙しっ! ごめん、ラビー! 3番テーブル、注文聞いて来て! あたしは今入ったお客さん案内するから!」


 文化祭当日――、ナハトラさんへの危機が去ってあたしたちは無事に「普通の文化祭」を迎えていた。

 あれからモリーナの処遇がどうなったかは耳に届いていない。


 彼女は一体何者だったのか?


 どうしてナハトラさんを襲おうとしたのか?


 それらは明かされることがあるのだろうか?


 そして、仮に明かされる、もしくは明かされていたとして――、あたしが知ることは果たしてあるのだろうか?


 シルヴァくんのお父さんも、ナハトラさんの周囲が具体的にどうした理由で危険なのかはお話してくれなかった。ひょっとしたら知っていて黙っていただけかもしれないけど、今更改めて聞くなんてできない。


 結局、あたしはなにが起こっているのか、起ころうとしていたのかよくわからないまま、とりあえず自分の身に降りかかった危機とナハトラさんを守ることにだけ成功したようだ。


 けど、それで十分。きっと今回は間違ってない。



 もう一時したらカフェの店員は他の子と交代の時間だ。そしたら自由時間になってラビーと一緒に学校を巡る予定だ。

 はてさて今年の文化祭は一体なにが目玉なのだろうか――、今日までなにかと忙し過ぎて自分たち以外のところがなにをやっているかをあたしはてんで知らなかった。



「リンツさーんっ! リンツ・シュバリエさーんっ!」



 あたしが空いたテーブルを片付けていたら同級生から大声で呼ばれた。ホント、素人運営のカフェなのに絶え間なく人が入るんだから有名学校の文化祭ってのは恐ろしいものだ。



「リンツさん、休憩! あとはこっちでやっとくから早く出て!」

「はい? えっと……、あたし交代までまだちょっと時間ありますけど……? それにラビーがまだ――」


「いいから交代! ほらっ、さっさと行って! 向こうで待ってらっしゃるの、ナハトラ様が!」


 ――は……? ナハトラさんが待ってる? なんだか理由はわからないけど、状況は理解できた。ナハトラさんがカフェここを訪ねてあたしを呼んだのだろう。だから、交代の時間はまだだっていうのに代わってあげるよ、と……。


 ナハトラさんと事前に約束があったわけじゃない。釈然としないあたしだけど、同級生の勢いに負けて半ば強引に店員を交代した。

 そして、お店のある教室の外――、人の行き交う喧騒から少し離れたところでひとり立っているナハトラさんの姿を目に入れた。


「……あの、ナハトラさん?」

「ああ、忙しいところすまないな、リンツ。今日はこの時間しか予定を空けれなくてな。君の予定もあるだろうから――、あまり長く時間をとるつもりはない。ただ、について、早いうちに話しておきたくてな……」



 そう言われたらあたしも断れない。こっちはこっちで聞きたい、知りたいこともあるわけだし。

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