第68話 秘密
あたしはナハトラさんに連れられて校舎を歩いた。いつもの学生の喧騒と――、それに混ざって外部から招かれた人が楽しそうにして行き交っている。
教室や廊下も普段とは違う飾り付けがされていて、見慣れたはずの学校がなにかよく似た異世界のようで新鮮だった。
ナハトラさんとやって来たのは、学校の隅にある予備の演習場――、といっても雑草の生い茂る単なる「広場」だ。
「ここらには今、他の学生が入らぬよう見張りを付けている。ふふっ……、たまには『ブルーメ』の権力に頼ってみるのも悪くはないな」
いつも凛とした表情のナハトラさんが珍しく悪戯っぽく笑った。こちらの緊張を解こうとしているのかもしれない。
「さて――、リンツ。時間は限られている。手短に話そう」
「ええっと、はい……。一体、どんなご用件で――」
「君に――、いや……、私の身に一体なにが起こった?」
ナハトラさんの迷いのない問い掛け。あたしは思わず息を呑み込んだ。周囲の雑音が一瞬消えて、まるで時が止まったかのような錯覚に陥りそうだ。
「……ナハトラさん? ごめんなさい、仰られてる意味があたしにはよくわからないのですが?」
「今回のモリーナの件、リンツのおかげで私は救われた」
「いやー……、一歩間違えばあたしが大惨事を起こしてたかもしれませんが、運がよかったっていうかなんていうか――」
「もう隠さなくていい。私はリンツの『力』を――、『固有魔法』を知っている。今回のこともこうなると知っていたのだろう?」
そうか、やっぱりそうなのか……。ナハトラさんはなぜかわからないけど、あたしの能力に気付いているんだ。
前に話した時だってそんな片鱗を感じた。でも、一体どうやって気付いたのだろう? いや、気付けないはずなんだ。あたしの能力は、そういう能力だから。
「リンツが話してくれないのなら……、私の方からタネ明かしといこうか? なぜ私が君の能力について知っているか、の?」
うん、これはハッタリじゃなさそう。ナハトラさんは間違いなくあたしの能力に気付いている。
だったら――、まぁ、いいか。きっとナハトラさんになら知られても大丈夫。万が一、万が一にも知られたらマズいお人だったとしても無かったことにできるんだから。
「――わかりました。あたしからお話します。ですので、その後に教えてくれませんか? ナハトラさんがそれに気付いた理由を」
あたしの問い掛けにナハトラさんは無言でゆっくりと頷いた。
わざわざ公爵家の権力を使って人払いまでしてくれたんだ。他の人の耳に入ることはきっとないだろう。
だから、あたしは初めて自分以外の人に話す決意をした。あたしに備わった最高で、最強で、最悪の魔法――、「アザー・キャンディ」について……。
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