第44話 特訓
ロイドからの提案を聞き、俺たちは練習に取り組んでた。アオイも初めは難色を示していたけど、今は何とか聞き入れてもらっていた。
「さて、やってみるか」
俺は〈
目の前にあるのは、本番と同じ構造を持つ練習用のノード。細長い棒状の装置で、表面は複雑な術式に覆われ、完全に封じられている。正しく解除できれば、その棒は内部から三本に分かれて展開し、封印が解けたことを示す仕組みになっているという。
「まずは、内部構造の把握だ」
ノードにそっと手を当て、内部の構造を探る。なるほど。思った以上に複雑な魔術式が組み込まれているな。俺はそれを一つひとつ正確に読み取り、ゆっくりと解除を進めていく。隣には砂時計が置かれ、時間が静かに落ちていく。
話によれば、このノードの解除には平均して三分ほどかかるらしい。なら──まずはその平均を超える。それを目標にしよう。
「よし。解除できた」
まずは三分強で解除を終えることができた。俺はノードを元に戻し、すぐさま次の練習に取りかかる。ノードの魔術式は解除のたびにランダムに組み替えられるため、繰り返し挑戦できるのはありがたい。
結局のところ、これは反復練習あるのみだ。それに本番では、相手の妨害も加わることは間違いない。その中で冷静さを保ち、解除を続けられるかが勝敗を分ける。練習でできないことは、本番ではなおさらできないだろう。
そうして俺はひたすら没頭し、指先で魔術式を解き続ける。そして──ついに、計測は二分台を示した。
「ふぅ。まずはこんなものかな」
「あんた。本当に魔術式への干渉力が高いのね」
「え?」
背後に立っていたのはアオイだった。微かに汗を流しているようで、アオイもきっと練習していたんだろう。
「いつからいたの?」
「ちょっと前から。アレン、集中し過ぎでしょ」
「あはは。まぁ、大切な役割だからね」
「それにしても、驚いたわ。伊達にメンバーに選ばれたわけじゃないのね」
「そうかな?」
「えぇ」
アオイに褒められるなんて、不思議な気分だった。普段は敵意むき出しで睨まれるばかりなのに、今はその気配がない。こうして普通に言葉を交わすのは──考えてみれば、これが初めてかもしれない。
「これならロイドの作戦もいいかもね。まぁ、私としては殲滅戦だけが良いけど」
「でも、戦略性には幅を持たせないと。相手が解除戦に全力を注いだら、こっちも不利になるよ」
「うっ……まぁ、それは分かるけどね」
アオイは眉を顰めた。どうやら戦略的に物事を考えるのは苦手らしい。
「でも、アオイのことは頼りにしてるよ」
「ふん。私に勝っておいて、よく言うわよ」
「あれは、奇襲的な要素もあったから。本気で戦ったら分からないよ」
「ふぅん……」
アオイは「なら私と勝負しなさい!」と言い出すと思った。けれど、そうはならなかった。ただ静かに、探るような眼差しで俺を見つめてくる。
「アレンは……下層出身なのよね?」
唐突に放たれた問い。
俺は少し戸惑いながらも、素直に頷いて答えた。
「そうだよ」
「下層って……やっぱり大変なんでしょ?」
「そうだね。少なくとも、上層ほど豊かじゃないよ」
「じゃあ、アレンはどうして──
その瞳は真っ直ぐに俺を射抜いていた。探るようでありながら、どこか答えを欲しているようにも思えた。
アオイの胸にどんな感情が渦巻いているのかはわからない。俺は思っていることを、そのまま言葉にした。
「下層は過酷だよ。略奪もあれば、殺しもある。飢えて死ぬなんて珍しくもない。……でも俺には、魔術の才能があった。だから思ったんだ。その力を、いつか下層を変えるために使いたいって。そのために、俺は上に来たんだ」
「えっ……変えるって、下層を……?」
「うん。だって、あそこは俺の故郷だから。どれだけ荒んでいても、俺が生まれ育ち、そして大切な人たちが残っている場所なんだ」
その瞬間、アオイの表情が固まった。驚き、信じられないという色が浮かぶ。けれど次の瞬間には、どこか遠いところを見るような瞳でぽつりと呟いた。
「そう、なんだ。逃げてきたわけじゃないんだ……」
それは俺に向けられた言葉というよりも、自分に言い聞かせるような響きだった。まるで、彼女自身が抱え込んでいるものを否応なく照らし出されたかのように。
「アレンは強いね」
「どうだろう。でも、強く
「はは。そっか。私とは大違いね……」
俺はここで──思い切って訊いてみることにした。アオイがこれまでどんな人生を歩んできたのか。そして、どうして〈
「アオイは、これまでどんな道を歩んできたの?」
「私?」
アオイは小さく笑う。それは少し自傷めいた笑いだった。
「有名な話だから、アレンだって耳にしたことくらいあるでしょ?」
「アオイの口から聞きたいんだ。ダメかな?」
一瞬だけアオイの瞳が揺れる。ためらうように唇を噛み、それでも観念したように肩を落とした。
「……そう。まぁいいわ。あんただけに語らせるのは、フェアじゃないしね」
その声音には、どこか開き直りのような強がりが混じっていた。やがて、アオイはゆっくりと過去を語り始める。
「私は幼い頃、誰よりも才能があったの。魔術を覚えるのも、剣を振るうのも、誰より速くて正確だった。家の誰もが、私こそが一族の未来を背負うって信じて疑わなかった。〈特級魔術師〉のお姉ちゃんよりも、私の方が優れているって、みんな口を揃えて言っていたくらい」
そこまで言った彼女の声が、かすかに震える。
「けれど、運命は私を呪った。あの時。あの一瞬で、私の全ては変わってしまったの──」
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