「役立たず」と追放された私、辺境で【祝福の調合】スキル無双始めます!

天照ラシスギ大御神

「役立たず」と追放された私、辺境で【祝福の調合】スキル無双始めます!

「エリアナ・フォン・クライフォルト! 本日をもって貴様との婚約を破棄し、王宮からの追放を言い渡す!」


 玉座の間。

 きらびやかなシャンデリアの下、婚約者である第一王子アレクシス様の声が、冷たく響き渡った。

 その隣には、これみよがしに寄り添う男爵令嬢のリリアンヌさんが、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

 周囲の貴族たちは、私――エリアナに嘲笑と侮蔑の視線を向けていた。


「アレクシス様、お待ちください! 私に一体何の咎が…!」

 私は必死に訴えたが、アレクシス様は鼻で笑うだけだった。

 「咎だと? 貴様の存在そのものが咎だ! 宮廷錬金術師でありながら、まともなポーション一つ作れん無能めが!」

 無能。その言葉が、私の胸に深く突き刺さる。


 確かに、私が作るポーションは地味なものばかりだった。

 回復薬も、効果は穏やかだが即効性はない。攻撃魔法の触媒も、威力は低い。

 華々しい成果を求めるアレクシス様や他の宮廷錬金術師たちからは、いつも「役立たず」と蔑まれていた。

 でも、私には秘密があった。私の持つユニークスキル【祝福の調合】。

 このスキルで作ったポーションは、ただ効果があるだけでなく、服用した者の潜在能力を引き出したり、素材の持つ力を最大限に増幅させたりする特殊な効果を秘めているのだ。


 しかし、その効果はすぐには現れない。

 じっくりと、時間をかけて発揮されるものだから、目先の成果しか見ない彼らには理解できなかった。

 そして、この【祝福の調合】スキルは、先祖代々クライフォルト家に受け継がれてきた秘密の力。

 むやみに公表することは禁じられていた。だから、私はずっと耐えるしかなかったのだ。


「もう貴様の顔も見たくない! 即刻、王都から立ち去れ!」

 アレクシス様の最後通告。

 私は唇を噛み締め、深く一礼すると、逃げるように玉座の間を後にした。

 背後でリリアンヌさんの甲高い笑い声が聞こえた気がした。


 クライフォルト家は没落貴族。後ろ盾のない私に、王宮で味方してくれる者はいなかった。

 荷物をまとめ、宛がわれたオンボロの馬車に揺られ、私は王都を後にした。

 行き先は、王国の最果てにある「忘れられた谷」と呼ばれる辺境の村。

 事実上の、追放だった。


 数日後、ようやく辿り着いた忘れられた谷は、その名の通り、寂れた貧しい村だった。

 痩せた土地、古びた家々、そして何より、村人たちの顔には生気がなく、疲弊しきっているように見えた。

 村長だという初老の男性、ギリアムさんに挨拶をすると、彼は深いため息と共に村の窮状を語った。

 「見ての通り、この村は長年、謎の病に苦しめられておるのです。作物は育たず、人々は次々と倒れていく…もう、神に見放された土地なのやもしれませぬ」


 謎の病。宮廷では聞いたこともない病名だった。

 私は、錬金術師としての知識と、そして秘密の【祝福の調合】スキルで、何かできることがあるかもしれない、と思った。

 追放された身ではあるけれど、困っている人を見過ごすことはできない。

 「私でよければ、お手伝いさせていただけませんか? 錬金術の心得が多少ありますので」


 ギリアムさんは驚いた顔をしたが、すぐに藁にもすがる思いで頷いてくれた。

 私は村の一角に小さな小屋を借り、早速薬草の収集とポーション作りを始めた。

 王宮では「効果が薄い」と馬鹿にされた私のポーション。

 だが、【祝福の調合】スキルで作られたそれらは、この村では予想以上の効果を発揮し始めた。


 まず、病に倒れた村人たちに、滋養強壮のポーションを飲ませた。

 王宮の基準では「気休め程度」の品だったが、数日後、寝込んでいた人々が次々と床から起き上がれるようになったのだ。

 「な、なんということだ…! エリアナ様の薬は、まるで魔法のようだ!」

 村人たちは驚き、そして心からの感謝を私に伝えてくれた。


 次に、痩せた土地を改良するための特殊な肥料を調合した。

 これも【祝福の調合】で効果を増幅させたものだ。

 それを畑に撒くと、枯れかけていた作物がみるみるうちに青々と生い茂り、やがて豊かな実りをつけた。

 「信じられん…! この土地で、こんなに見事な作物が穫れるなんて!」

 村は、少しずつ活気を取り戻していった。


 私のポーション作りの噂は、すぐに近隣の村々にも広まった。

 多くの人々が、私の助けを求めて忘れられた谷を訪れるようになった。

 私は寝る間も惜しんでポーションを作り続け、人々の笑顔を見ることが何よりの喜びとなっていた。


 そんなある日、一人の青年が私の小屋を訪ねてきた。

 カイルと名乗るその青年は、ぶっきらぼうな態度だが、どこか寂しげな瞳をしていた。

 彼は村の猟師で、以前は騎士団にいたが、訳あって故郷に戻ってきたらしい。

 「あんたのポーション、大したもんだな。お袋も助けられた」

 ぶっきらぼうな口調だが、その言葉には感謝の響きが込められていた。


 カイルは、私が薬草を採りに行く際に護衛を買って出てくれたり、重い荷物を運んでくれたりするようになった。

 最初は警戒していた私も、彼の不器用な優しさに触れるうち、次第に心を開いていった。

 彼と話す時間は、ポーション作りで疲れた私の心を癒してくれる、大切なひとときだった。

 これが恋…なのかもしれない、と淡い期待を抱き始めた頃。


 一方、私を追放した王国では、大変な事態が起きていた。

 私が王宮を去ってから数ヶ月後、隣国との間で緊張が高まり、小規模な戦闘が頻発するようになったのだ。

 王国軍は、私が密かに供給していた高品質な回復ポーションや強化ポーションがなくなったことで、みるみるうちに劣勢に立たされた。

 【祝福の調合】で作られたポーションは、騎士たちの能力を底上げし、負傷からの回復を早め、結果として王国の軍事力を支える重要な要素となっていたのだ。

 その事実に、アレクシス王子も、他の宮廷錬金術師たちも、ようやく気づいたのだった。


「エリアナはどこだ! あの『役立たず』が作っていたポーションが、これほど重要だったとは!」

 アレクシス王子は玉座で怒り狂っていた。

 リリアンヌ嬢も、戦況の悪化で贅沢ができなくなり、不満を募らせている。

 「あんな女、さっさと連れ戻してポーションを作らせればいいじゃないですか!」

 彼女の無責任な言葉に、王子はさらに苛立ちを募らせた。


 王国の使者が、慌てて忘れられた谷にやってきたのは、そんな時だった。

 使者は私を見つけると、土下座に近い勢いで懇願してきた。

 「エリアナ様! どうか王宮にお戻りください! 国が、あなた様のお力を必要としております!」

 その言葉を聞いた私は、静かに首を横に振った。


「お断りします。私はもう、王宮の人間ではありません。この村で、私を必要としてくれる人々のために力を尽くしたいのです」

 私のきっぱりとした態度に、使者は顔面蒼白になった。

 「そ、そんなことを仰らず…! アレクシス王子も、深く反省されております!」

 反省? あの傲慢な王子が? にわかには信じられなかった。


 使者がすごすごと帰って行った数日後。

 今度は、なんとアレクシス王子自身が、リリアンヌ嬢を伴って忘れられた谷にやって来た。

 やつれた顔の王子と、不機嫌そうなリリアンヌ嬢。その対照的な姿が滑稽だった。


「エリアナ! 戻ってきてくれ! 君がいなければ、この国は…!」

 アレクシス王子は、以前の傲慢さはどこへやら、必死の形相で私に懇願した。

 「君のポーションがなければ、戦争に勝てないんだ! 君のスキル、【祝福の調合】が、これほど強力なものだったとは知らなかったんだ!」

 ようやく私のスキルの本当の価値に気づいたらしいが、もう遅い。


 隣でリリアンヌ嬢が甲高い声で喚いた。

 「そうよ! さっさと戻ってきてポーションを作りなさいよ! 平民の分際で、王子に逆らう気!?」

 その言葉に、カチンときた。

 私は静かに、だがはっきりと言い返した。


「リリアンヌ様。私はもう平民ではありませんわ。この忘れられた谷の、正式な名誉錬金術師ですの。そして、私のポーションは、私を必要とし、私を尊重してくれる人々のためにのみ作られます」

 私の言葉に、リリアンヌ嬢は顔を真っ赤にして絶句した。

 ざまぁみろ、とは言わないけれど、胸がスッとした。


 アレクシス王子は、それでも食い下がろうとした。

 「頼む、エリアナ! 君が戻ってきてくれるなら、何でもする! 再び婚約者に…いや、正妃に迎えてもいい!」

 その言葉に、私は思わず吹き出しそうになった。

 なんて虫のいい話だろう。


 その時、私の隣にそっとカイルが立った。

 彼はアレクシス王子を真っ直ぐに見据え、低い声で言った。

 「エリアナは、俺が守る。あんたたちの都合で、彼女を振り回すのはもうやめてもらおうか」

 カイルの堂々とした態度に、アレクシス王子は怯んだように見えた。


 そう、私にはもう、守ってくれる人がいる。

 そして、私を心から必要としてくれる人々がいるこの村が、私の新しい居場所なのだ。

 「アレクシス様。私はここを離れるつもりはありません。どうぞ、お引き取りください」

 私の最終通告に、王子は力なく膝をついた。


 結局、アレクシス王子たちは、失意のまま王都へと帰っていった。

 その後、王国は隣国との和平交渉に踏み切り、多額の賠償金を支払うことで戦争を終結させたと聞く。

 リリアンヌ嬢は、王子の寵愛を失い、実家も没落したそうだ。自業自得だろう。


 私は、忘れられた谷で錬金術師としての活動を続けた。

 私の【祝福の調合】スキルで作られたポーションは、村だけでなく、周辺地域にも広まり、多くの人々の生活を豊かにした。

 忘れられた谷は、いつしか「祝福の谷」と呼ばれるようになり、多くの人々が訪れる活気ある場所へと変わっていった。


 そして、カイルとは…?

 彼は、あの日以来、より一層私を大切にしてくれるようになった。

 ぶっきらぼうな態度は相変わらずだけど、時折見せる優しい笑顔や、不器用な気遣いに、私の胸は高鳴るばかり。

 ある月が綺麗な夜、彼は私に、震える手で小さな野の花の指輪を差し出した。

 「エリアナ…俺の、そばにいてほしい」

 その言葉に、私は涙を浮かべながら、何度も頷いた。


 王宮を追放された時は、人生のどん底だと思った。

 でも、あの追放があったからこそ、私は本当に大切なものを見つけることができた。

 私の力【祝福の調合】を本当に必要としてくれる人々。

 そして、心から愛せる人。


 今、私は世界で一番幸せな錬金術師だ。

 この祝福の谷で、愛する人と共に、人々の笑顔のためにポーションを作り続ける。

 それこそが、私にとって最高のハッピーエンドなのだから。




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