第22話 解錠師とふしだら女騎士、和解(?)する。



 

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 それから俺たちは戦闘を停止させた。

 これ以上戦ったところで無駄だからだ。


「勝負は決した。さて、どうしてやろうかのぉコイツらは?」


 ポーションで傷を癒したアイザは、腕を組んだ状態で襲撃してきた二人に詰め寄った。

 

 エリスは俺たちの前で正座して座り、グレンの方は全身を痺れさせる神経毒を食らった影響で、倒れたままだった。

 

 二人をどうするかについては色々と話したいところだけど、とりあえずグレンというをどうにかしてやりたい。

 流石に地面に伏した状態は可哀想だし。


「まぁまぁ、落ち着けよアイザ。とりあえずグレンが受けた毒をどうにかしてやろう。ペロコ、どうにかできないか?」

「わぅ〜……?」


 たくさん戦って遊んで疲れたのか、ゴロゴロしながら寝ていたペロコに尋ねる。

 雰囲気的に、何を聞かれているのかわかってないみたいだ。ウトウトしてるし。

 

 う〜ん、せっかく人の姿になれるんだから、そろそろ言葉とか覚えさせた方がいいだろうか?


 そんなことを考えていると、どこからともなくダンディな声で『私にお任せください』という声が聞こえてきた。……え? 誰この声。


「……む? おお、『スネイク』ではないか! お主ぜんぜん喋らんから死んでおるのかと思っておったぞ!」


『アイザ様、お久しゅうございます。死んでなどおりませんよ。私は、我が主である『魔獣神王ジゴクノバンケン』様の意識が朦朧としているときにしか話すことができないので』

 

「……え???」


 どこから声が聞こえてくるのかと思ったら──ペロコの尻尾だ。


 

 ………………いや、そこのヘビ喋れるの!?

 


『はじめまして……でよろしいのでしょうか。私はスネイク。『魔獣神王ジゴクノバンケン』様の「尻尾」を務めさせていただいております。以後お見知り置きを』


 そう言ってスネイクが頭を下げた。

 

 尻尾って務めるものなんだ……。っていうか、ペロコは話せないのに尻尾は話せるってどうなってるんだ?

 

 そこがかなり気になるが、それよりもまずはグレンだ。話が通じるというのであれば、尻尾スネイクに聞くしかない。


「スネイク、グレンが受けた毒をどうにかしてやりたいんだけど、出来るかな」

 

『毒ですね。お任せください』


 スネイクはそう言って自分のカラダをニョロニョロと伸ばして、グレンにがぷりと噛み付いた。


「ちょっ……! わたくしのになにをしているんですのこのヘビ! ぶっ殺して差し上げますわ!!」


 負けたことに落ち込みを見せていたエリスが、自分の弟が噛まれたことに怒りの声をあげた。

 

『エリス殿。どうか落ち着いてください。これはです』

 

「解毒!? これがですの!?」

 

「そうじゃ。ペロコの尻尾であるスネイクには、毒を消す──というより『毒を吸い取る』ことができるんじや。ペロコには体内にいくつか毒袋があっての。吐いて生成することの他に、スネイクが噛み付いて毒をすることもできるのじゃ」


 しばらくのあいだグレンの頭をカミカミしたあと、グレンはガバッと体を起こした。

 まさかペロコにそんな特性があるなんて思いもしなかった。すごいな尻尾のヘビ。


『毒を解毒しておきました。では、私はこれで』

 

「ああうん、助かったよ。ありがとうスネイク」


 スネイクはそれだけ言い残してグデっと倒れる。


 その代わりに、毒を回収して元気になったのか、ペロコが起き上がって「わん!」と元気よく鳴いた。


 スネイクの解毒効果、あれってペロコが吐いた毒以外にも有効なのかな? 今度聞いてみるか。


 まぁ、今はそれよりも──。


「さて。グレンも元気になったことだし、キミたちには色々と話を聞かせてもらうよ」



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 俺たちの前でひざまずく二人。

 エリスはどこか不機嫌そうな顔を浮かべており、グレンは申し訳なさそうに顔を伏せていた。

 

 二人に聞かなければならないことがある。


 まずは天災セレスターについてだ。

 

 世界に10人いるらしいんだけど、エリス以外にも天災セレスターは動いているのか、そこが気になっていた。


 他には「封印されていた厄災ディザスターの件」についてだ。

 

 俺がアイザを解錠アンロックした後に、その他5体の厄災ディザスターの封印が解除されたらしいけど、それが本当なのかどうか。


 う〜ん、色々と聞かなきゃならないことがたくさんあるんだけど……まずは俺が今一番気になっていることを聞くことにした。


「なぁ。グレンって女の子じゃなくて『男の子』なの?」

 

「え?」

 

「いやそこからなのか!?」


 アイザが大袈裟に驚きの声をあげた。

 いやだって、ずっと女の子だと思ってたのに、エリスが「弟」って言ったから気になって……。


「まぁ、はい……私は男です。顔からしても女みたいなので、よく間違われますが」

 

「お主の場合、顔だけじゃなくて身につける服のせいもありそうじゃけどな」


 アイザと同じく褐色の顔が、薄いしゅに染まった。


「こ、これは私たちの故郷、エクスノーメンの正装というか……。『軽装こそが、剣の実力を一番に発揮できる』と信じられているので」


 軽装が剣の実力を発揮できる……?

 そんな話聞いたことないけど、どういうことなんだろう。

 疑問に感じていると、グレンがその話について教えてくれた。


「私たちの国では『神=聖剣』と考えられており、エクスノーメンに暮らす人々は神の使徒、いわば『の子』なのです。剣は何も身につけていないときが一番輝き、そして実力を発揮できる……。そうした考えの元、われわれ使徒も『身につけるものが少なければ少ないほど強くなれる』と信じられてあるのです」

 

「…………………………なるほど」


 世界には、色んな考えの人がいるよね。うん。

 正直言ってる内容はぜんぜん理解できなかったけど。


「そこのデカ娘がアホみたいな格好をしておる理由がわかったじゃろう? イカれてるんじゃよ、あそこの国は」

 

「イカれてなどいませんわ!! わたくし達は人である以上に剣なのです!! 剣が服を着ますか!? 着ないですわよね!? つまりそういうことですわ!!」


 いやどういうことですわ?

 まぁいいや。他の質問をしよう。


「エリス以外の天災セレスターも、厄災ディザスターの封印が解除されてることに気づいているの?」

 

「もちろんですわ。今ではおそらく、各地に散らばっている天災セレスター達が一堂に会し、この世界に解き放たれた厄災ディザスターをどうするか話し合ってるはずですわ」

 

「それ、お主はいかなくて良かったのか?」

 

「いちいち集まって話し合うよりも、さっさとぶっ殺しに行ったほうが早いですわ!!」


 フンスッと鼻息あらく答えるエリス。

 なるほど、殺意の高さだけで言えば、確かに「剣である」と言えるのかもしれない。

 

 それにしても、やはり他の天災セレスターも動き出しているのか……。これは、早急に対策を考えなければまずいな。


「……他の厄災ディザスターについてなんだけど。本当に封印が解除されてるのか?」


 対策云々についてはのちのち考えるとして……気になるのは天災セレスターだけじゃなく、他の厄災ディザスターについてもだ。

 

 確かに俺はアイザという厄災ディザスターの封印を解いたけど、彼女だけだ。

 他の厄災ディザスターについてはまったく知らないし、どこで封印されているのかもわからない。

 

「本当にされているのかって……アナタ、自分の周りに何がいるのかわかっておりませんの?」


 エリスに問われ、どう答えるのかを考える。

 

 彼女は俺が解錠師であることに気付いている。

 そしてアイザとペロコが厄災ディザスターであることも。


 俺はそこまで考えて……これ以上隠しても意味はないと、真実を語ることにした。


「……そうだね。ここで隠したって仕方がないか。確かにキミのいう通り、俺は厄災ディザスターの封印を解錠アンロックしている」

 

「やはりッ……!」

 

「おいロック……」


 真実を語ろうとする俺を、心配するアイザだったが、俺は首を振って「大丈夫だ」と告げた。

 

「けど、俺が解錠アンロックしたのはアイザだけだ。他の厄災ディザスターについては知らない」

 

「嘘ですわ!! では何故、そこにもう一匹厄災ディザスターがいますの!? それに各地で感じられたこの邪悪な気配……! これが厄災ディザスターでないというのならなんだと言うんですの!?」


 エリスは寝転がるペロコを見ながら言った。


 なんでペロコまで解錠アンロックされたのかは、俺にもわからない。

 

 同じ厄災ディザスターであるアイザすらもわからないというのだから、少なくとも現時点でわかることは何もなかった。


 けど、俺は別にウソをついたワケじゃない。

 これは嘘偽りのない「真実」なのだ。


「……他の厄災ディザスターについてはわからない。けどウソは言ってない。俺はアイザだけ解錠アンロックしてペロコは勝手についてきた。それだけだ」

 

「うむ」

 

「そんなの信じられるワケが……!」


 尚も食い下がろうとしてくるエリス。

 

 まぁ、天災セレスターである以上見過ごせないのもわかるけどさ……


 

「──面倒くさいな」

 


 これ以上俺たちの後をつけられるのも、他の天災セレスターに告げ口をされるのも非常に面倒くさい。


 だからと言って「殺す」という選択肢は取りたくない。

 

 そこまで考えて俺は、あまり気乗りはしないけど、少々荒っぽい作戦に出ることにした。


 

「面倒くさいって、アナタがウソをつくから──あッ!?」

 

「エリスお姉様!?」

 


 ひざまずきながらもわめくエリスにスキル【施錠ロック】を発動する。

 

 エリスの全身を白い光輪が縛り付け、バランスを崩したエリスはそのまま倒れ込んだ。


 俺はそんな彼女を顔を見下ろしたまま密やかに告げる。


 

「──これ以上俺たちの邪魔をするのなら、今この場で殺す。死にたくなければ黙れ。わかったな?」

 

「ッ……!!」

 


 俺の発言とともに、ビクビクと体を揺らすエリス。

 

 しれっと体の封印を【解錠アンロック】して魔力を放出させたから、それなりに驚かすことはできただろう。

 

 これで黙ってくれればいいんだけど──そんなことを考えていると、エリスは何故か顔を赤くしながら、体をくねらせて俺のもとに擦り寄りつつ、


 

「……あ、あのっ……今のお言葉、もう一度わたくしに言ってくださいませんか……?♡ それももっと、ゴミを見るような目でもう一度……♡」


 

 ──こんなことを言ってきた。


 もしかして俺、この人の余計な癖を解錠アンロックさせちゃった?


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