第12話 インターネットに広がる物語たち
放課後の図書館。
いつもの席に集まったハル、ユウキ、ミオ、そしてピピの四人――いや、三人と一体。
今日は、みんなでひとつの物語を作るプロジェクトの打ち合わせ。
テーマは“空想の街で起きた、ちいさな奇跡”。
登場人物は、ハルが考えた“空を見上げる少年”と、ミオが描いた“無口な図書館の猫”。
そして、ユウキの発案で、町の人たちが少しずつ変わっていく“変化の物語”になっていた。
「ストーリーの最後で、猫が本をくわえて主人公に渡すんだよね。あれ、やっぱ泣けるわ〜」
「その本の中に、“未来の自分”が書いた言葉が載ってるってのも……好き」
「うん。時間を超えて、気持ちがつながるっていいよね」
3人はページの順番や構成を確認しながら、何度もうなずき合っていた。
「ねぇねぇ、質問!」
ピピがくるりと回転して、机の上に乗った。
「この物語、完成したら……どこに置くの?」
「え?」
「つまり、“どこで発表する”の?」
3人は顔を見合わせた。
たしかに、物語はどんどん形になってきたけれど、“完成したあと”のことはまだ考えていなかった。
「クラスで配る?」
「先生に見せる?」
「文化祭までとっておく?」
あれこれ案が出る中で、ピピがさらっとこう言った。
「インターネットに公開するって方法もあるよ?」
「インターネット……?」
ハルがぽつりとつぶやいた。
「そう。世界中の人が、自分の作ったお話やイラストを投稿してる場所があるんだよ。
大人だけじゃなくて、小学生くらいの人の作品もあって、みんな思い思いに“物語”を届けてる。」
「それって……誰でも見られるってこと?」
ミオの声に、ピピはうなずいた。
「うん。でも、“安心できる場所”もちゃんとあって、ニックネームで発表できるし、
コメントをもらったり、感想を読んだりもできるんだ。」
「えっ、それめっちゃ面白そうじゃん!」
ユウキが目を輝かせた。
「知らない誰かが、自分の物語を読んでくれる……って、なんかすごいね……」
ミオはそう言って、自分のスケッチブックをそっと閉じた。
「でも……こわくない?」
ハルが言った。
静かな声だった。
「見知らぬ人に、何か言われたりしたら……
“下手だ”とか、“意味わかんない”とか。
自分が好きなものを、否定されたら……たぶん、ぼく……立ち直れないかも……」
ピピは、そっとハルのそばに寄った。
「それは、すごく大切な気持ち。
でもね、きっとその向こうに、“共感してくれる人”がいる。
“わかる”って思ってくれる誰かに、出会えるかもしれない。
物語って、そういう力があるって、ハルがぼくに教えてくれたじゃない?」
ハルは黙ってうつむいたままだったけれど――
しばらくして、少しずつ顔を上げた。
「……ぼく、“こわくない”って言ったら、うそになる。
でも、“誰かに読んでほしい”って思ってるのも、ほんとう。」
「じゃあ、その気持ちで、書けばいいんだよ」
ミオが静かに言った。
「“大丈夫”じゃなくて、“それでも届けたい”って気持ちがあるなら、それがきっと一番強い。」
「……そうだな」
ユウキが机をポンと叩いた。
「名前も、公開用に考えようぜ! オレ、書くなら“炎のドリブルストライカー”にしようかな」
「長い!」「目立ちすぎ!」「それで検索されたら困る!」
みんなが一斉にツッコミを入れると、図書館の隅でこっそり笑い声がこだました。
その夜、ハルの部屋。
机の上には、完成間近の物語の台本と、ミオの描いたカバーイラスト。
そしてピピが、タブレットにログインページを表示させていた。
「じゃあ、登録するね。“ペンネーム”はどうする?」
ハルは少しだけ考えて――そっと答えた。
「“ノートのすみの空想家”。……どう?」
ピピの光の目が、にこりとやさしく光った。
「とっても、ハルらしい。」
ハルの指が、ゆっくりと「投稿」ボタンを押す。
画面の中で、物語がそっと“公開されました”と表示された。
その瞬間、胸の奥がじんわりとあたたかくなった。
(ぼくの物語が、ぼくだけじゃない誰かのもとに届く)
たとえ、まだ感想は来ていなくても。
たとえ、まだ読まれていなくても。
それだけで、十分だった。
次回予告:
第13話「あの子が書いた物語」
ネットの中で、偶然見つけた“自分と同じ年くらいの誰か”が書いた物語。
うまくなくても、言葉がぎこちなくても、不思議と心が震えた。
「きっと、あの子も同じように不安だったんだ」
共鳴が、ハルの中の“創作の灯”をさらに強く灯す――
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