第11話 放課後の小さな文芸部

「……このページのセリフ、すごくいいね。」


「うん。“声を出すよりも、想ってることが届くときがある”ってとこ、ぐっときた!」


「このキャラ、わたし、描いてもいい?」


放課後の図書館。

窓の外では夕日が傾きかけ、ガラス越しに街がオレンジ色に染まっていた。

静かな空気の中、本棚のすき間にある小さな丸テーブルを囲んで、3人が座っていた。


ハル、ユウキ、ミオ――そして机の真ん中には、ハルの「ふしぎな物語ノート」。


ノートはすでに、ハルだけのものではなくなっていた。


ページの余白には、ミオが描いたキャラクターの表情がスケッチされていて、

吹き出しの中には、ユウキが考えたセリフが追加されている。


「ここ、“おれにまかせろ”じゃなくて、“背中は守ってるから”の方がかっこよくね?」


「わかる。でもそれ、リナっぽくないかも。言葉より行動って感じだし……」


「なるほど……じゃあ、行動で示すように描くか。影で、剣を構えてるとか。」


そんなやりとりが自然と交わされていく。


かつて、誰にも見せたくなかったこのノート。

ひとりで描き、ひとりで完結させていた世界。

それが今、少しずつ“開かれた物語”へと姿を変え始めていた。


「……なんか、こうやってると、ちょっとした“文芸部”みたいだね。」


ミオがつぶやくように言った。


「“創作クラブ”って感じもするな!」とユウキ。


「正式な部活じゃなくても、放課後に集まって“好き”を語れる場所って、いいよね。」


ハルはその言葉に、そっと頷いた。

誰かと一緒に、安心して創作の話ができる――

それは彼にとって、想像もしていなかったことだった。


図書館の隅には、他にも何人かの生徒がいたが、

この小さなテーブルだけが、まるで“物語の世界”の一角のように温かく満ちていた。


「ねえ、ぼく、そろそろ登場しないの?」


ピピが、バッグの中からひょこんと顔を出した。


「おおっ、来た来た。丸いヤツ!」


ユウキが笑って手を振ると、ピピの目がにこっと光る。


「はじめまして、ミオさん。きみの絵、ぼく、とても気に入ったよ。線の流れが“やさしい”って、感じた。」


ミオはちょっと驚きながらも、すぐに笑った。


「ありがとう。ピピも、すごく表情が豊かだね。まるでキャラみたい。」


「キャラじゃないよ、れっきとした“サブ主人公”だよ!」


ピピが軽快にくるくると回ると、みんなが笑った。

笑い声はすぐに図書館の静けさに包まれて、また心地よい沈黙が戻ってくる。


「……ねえ。」


しばらくして、ミオがぽつりと切り出した。


「いつかさ、みんなでひとつの物語、作ってみない?」


「え?」


「ハルくんがストーリーを考えて、わたしがイラスト描いて……

ユウキくんは、セリフとか演出とか? 動きがあるの、得意でしょ。」


「おお、それ、楽しそうじゃん! セリフ回しとか、読者の“ドキッとするポイント”とかさ!」


「ぼくも協力するよ。文章構成の整理とか、情報整理は得意だし!」


それぞれの“できること”が、まるで自然に合わさっていくのが、なんだかうれしかった。


ハルは、少しだけ考えてから、静かに言った。


「……やってみたい。」


その言葉に、ふたりがにっこりと頷いた。


「タイトル、どうする?」

「テーマは? 冒険? ファンタジー? それとも日常系?」

「ページ数は何枚くらい? クラスの人にも見せられるようにしたいよね!」


思い思いに意見が飛び交う中、ハルはそっとノートを開いた。

新しいページに、“物語のはじまり”を書き始める。


その一文字目は、まるで新しい世界の鍵のように輝いて見えた。


次回予告:

第12話「インターネットに広がる物語たち」

ある日、ピピがふと口にした言葉。「世界中の人が、自分の物語を発表してる場所があるんだよ」

そこには、まだ知らないたくさんの物語と、同じように“描きたい”“伝えたい”と願う仲間たちがいた。

自分の物語が、ページを飛び越えて世界へ向かう瞬間が、近づいている――


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