第5話
「それじゃあ、話そうか。」
少し緊張した様子で話を始める誠司君の横顔をじっと見つめた。
「横山さんは伊佐咲の話はどういうこと知ってる?」
「10年に一度、8月31日、伊佐咲神社に女の子を『伊佐咲の乙女』として祀り、災害を防ぐ者として扱われてきた。っていう話だよね。」
「あと確か、伊佐咲の乙女は神社に祀られると裕福な暮らしをできるとか…」
「そうそう。でも実際は違うんだ。」
「おとぎ話のような話だけど、実際にあった事なんだって。」
そう言って彼は語り始めた。
「この地域、昔隕石が落ちてくることが凄く多かったんだって。死人もたくさんでたみたいなんだ。ある時、隕石は小さな女の子を攫った。落ちてきた隕石が眩しく光って女の子をどこかへやってしまった。不思議な事に、その子が消えてから隕石は降らなくなったんだって。ただ10年後、再び隕石が降ってきてしまったらしいんだ。だから10年に一度、女の子を祀るようになった。」
「というのが本当の伊佐咲の伝説なんだ。」
「…祀られた子ってどうなるのかな。本当に優雅な生活をするのかな。そもそも、祀るって言い方がおかしく感じるのは私だけなのかな…」
「…眠らされるんだ。強力な薬で。」
「眠らされる…?」
「もう二度と起きないように。隕石の被害が起きないように。とかけているみたい。」
「…なんでそんな話知ってるの?」
「昔知り合いから聞いた。神社の関係者で。」
「そうなんだ。」
そしてまたあの時の悲しげな表情をして話し始めた。
「…十年前、祀られた子の話をするよ。」
「祀られた子…?」
「うん。祭で初めて出会った子なんだ。」
「丁度俺らが今居るこの辺りだったかな。会った場所。」
「泣いてたんだ。伊佐咲の乙女になっちゃった。って。」
「その子はその時眠らせれることを知らなかったと思う。確か、友達と離れるのが辛いって言ってた。」
「そっか。家族とも友達とも離されるんだもんね。まだ幼いだろうに。」
「花火のタイミングで行かないといけないって。その後、神社の人が来て、俺にさようならって言って行っちゃったんだ。」
「…辛いね」
「当時、こっちまで悲しくなってきたよ。それと…これは知る人ぞ知る話なんだけど、十年前に祀られた子、神社の中に連れていかれて、そのまま姿を消したらしいんだ。」
「…どういうこと?」
「眠らせた後、光に包まれてパッと居なくなったみたいなんだ。」
「じゃあ…最初に隕石が連れて行った女の子とまるで同じ…」
「でも、関係者はそれをどう処理したの?居なかったら大騒ぎになるんじゃ…」
「それは新しく誕生した強力な伊佐咲の乙女なのかもしれないって、そのまま中で祀ったかのように思わせたみたいだよ。」
「言ったでしょ?知る人ぞ知る話だって。隠蔽すれば神社に居ることになるからね。大勢が覗きに来る訳じゃないし。」
「…ちなみに、この話俺が知ってるのはじいちゃんから聞いたからなんだ。じいちゃん神社の関係者でさ。詳しいことは知らないけど。」
「そうだったんだ…その子の証言以外にもだからこんなに詳しく知ってるんだね。」
「じいちゃん、そういう都合のいい大人の話を結構隠さずに言ってくること多かったんだ。」
「…そうなんだ。」
「…俺さ、その子が戻ってきたのを目の前で見たんだ。」
「…え?」
「その子と話した後、しばらくしたら俺の目の前に光がバーッと輝いて、その子が縮こまって泣いていたんだ。」
「さっきさようならを言ったばかりで、突然目の前に現れたこと、全てが意味がわからなくて、大丈夫?って声を掛けた。そしたら『君は誰?』って言われたんだ。」
「もうすっかり理解が追いつかなくて、その子からしたら俺のこと知らないようだから『迷子になっちゃったの?』って聞いた。そしたら
『ともだちとはぐれちゃった。』って。さっき話した時は伊佐咲の事で泣いていたのに。不思議でたまらなかった」
「とりあえずその子を友達のところへ連れて行ってあげようと思って、人混みの多い方へ連れて行ってあげた。」
「そしたら友達が目の前から来て、その子とはしっかり別れた。」
何故だろう。この会話に聞き覚えがある。
「別れ際だったか、途中だったか、花火は誰と見るの?って聞かれた。でも俺は神社の様子が気になって、他の用事があるんだって伝えたね。」
「……そんなことがあったんだね。でも記憶が消えたのに花火のことは知っていたの?」
「きっと普通の祭だと解釈したんだと思う。その子は浴衣を着ていたし。」
「なんだか不思議なそんな事があって浮かれてたのか、その子に一目惚れしたんだ。」
私はここで聞いた。誠司君の核心を突くことを。
「…その子が今も好きだった言うの?」
「…まぁ。そうだといえばそうかな。この祭でまた新しい乙女が祀られる。彼女を思い出してしまうだろうと思って、横山さんの誘いを断ろうとした。好意的に接してくれるのに傷つけてしまいそうで嫌だった。でもこの機会に忘れようと、そして」
その瞬間、大きな花火が打ち上がった。
「誘いを押された横山さんに惚れてしまったから」
「横山さんと恋がしたいと思った。」
「あ…え?」
「横山さん。本当は気づいているんでしょ?」
「君は十年前、俺と出会っていたということを。」
「…うん。途中から何となく。」
「あの時迷子の私を連れていってくれたのは誠司君、あなただったんだね。」
「伊佐咲の話は記憶があるうちの人生で何度も聞いた言葉だけど、私が伊佐咲の乙女だとは思わなかった。」
「そりゃそうだ。一度は祀られた身だからね。」
「どうして私があの子だと思ったの?」
「なんだか横山さんにその子の影があった。徐々に本当にあの時の子なんじゃないかって思い始めてた。」
「それに…その首元の傷。その子も光に包み込まれてから横山さんと同じ傷が出来てたんだ。だから確信したね。」
「てっきり木の枝か何かでかすったものだと思ってた。」
「…もし私があの時の私じゃなかったら、この話はしなかった?」
「何も変わらないよ。この話を誰かに伝えたかった。区切りをつけてしまうために。それが俺の恋した横山さんだったって話。」
「なんか、この短時間で色んなことがありすぎてあんまり頭に入ってないな…笑」
…当時のお母さんお父さんはどう思ったんだろう。
「…乙女になる子の親に、自分の娘がそうなるよってこともちろん伝えられるよね?」
「…?そうだけど」
不思議そうに誠司君は答えた。
「…なんでお母さん達は不思議に思わないんだ…?」
「ああ確かに。まぁ古い考えなんじゃない?」
自分達の娘が祀られることに喜びを見せる親がほとんどだ。ここら辺は伊佐咲に対して少し…
だけどその娘が戻ってきたら?
「…そういえば両親共々私に伊佐咲に話してきたことなかったな。」
「友達とかからしか聞いたこと無かった。」
「…その話はちょっと分からないな。なにか別の事情があるのかね。」
当時伊佐咲の記憶はまるっきり消えたものの、現在は周りの話もあり、全てを知ってしまったわけだ。この話はお母さん達に伝えるべき?いや。そもそも知っている可能性がとても高いわけで…
お互い疑問が残りながらも、私は祭の肝心なことを言葉にして伝えた。
「…花火、綺麗だね。」
話が大事すぎて、花火を楽しむことを忘れてしまっていた。
「ね。垂れるのが美しい。」
「その裏の真実は綺麗なものでは無かったけれど。」
「もしかしたら隕石のことを表してたりするのかな。」
「まぁ、横山さんとの昔の思い出は綺麗なものだったと思うよ。これまで祀られた女の子達のことを思うと少し考え深いけど。」
「候補して祀られに行った訳じゃないもんね。永遠に眠らされてしまうし。」
「…で。横山さんは俺の事どう思ってる?」
「え…そりゃあ二人きりの祭デート誘ってる時点で察してよ…」
「ごめんごめん。一応確認したかった。」
「…てことは…」
「…本当はここでビシッと付き合ってほしい。と伝えたいんだ。」
「でも、俺、将来夢があってさ、その話をしてから横山さんに決めてほしいんだ。」
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