第4話
それから私は速攻課題を終わらせ、ひたすらに祭の日を待っていた。
しかし、祭は夏休み最終日の日なのでそれまでゆっくりと過ごそうと思う。
たま〜〜〜〜〜に誠司君にメッセージを送ってみた。
内容は「課題終わった?」「今日○○部は大会らしいよ」などの、他愛ない会話だった。たったそれだけでも、とても満たされた気持ちになる。
そして美咲の愚痴に付き合いながら、あっという間に当日を迎えることとなった。
「よし。行こうか。」
あれ。メールが届いてる。
確認すると美咲からだった。
「ファイト💪🔥私は寝る😪🌛💤学校でどうだったか聞かせてネ‼️」
相変わらずな調子の彼女に少し心を柔らかくさせられ、緊張が少し和らいだ。
「行ってきます。」
私は意を決して家を飛び出した。
今日のためにしっかり着付けをしてきた。…自分でやったから崩れないか心配だけど。
待ち合わせは八時。私は伊佐咲神社へと急いだ。田舎でも、この時期になるとタクシーが数台走っているため、乗り込んだ。
「随分早く来ちゃったな…」
遅れないか心配で、待たせてしまっては嫌だから、それよりもこれから始まる祭への楽しみという気持ちが大きくなり、家を出る時間が早く、時間を見ると待ち合わせより三十分も早く来てしまっていた。
「…しょうがない。このまま待つか」
それからベンチに腰掛け、約二十分ほど経った。
すると私に声が掛けられた。
「ごめん。十分前でも早いかと思ったんだけど、先に来てたみたいだね。」
「いや大丈夫。楽しみで早く来すぎちゃったんだよね〜」
誠司君は浴衣を着ていた。綺麗な顔に良く似合う。
「浴衣、似合うね。」
「ああ、ありがとう。横山さんも凄く可愛いよ。」
「…ありがとう」
今凄く顔が赤くなった気がする。心音も凄い。
「それじゃあ、花火の時間まで屋台を回ろうか。」
「そうしよっか。」
花火開始は八時半。今年は伊佐咲の乙女が祀られる為、派手な祭になるだろう。
「りんご飴、好き?」
「めっちゃ好きだよ!誠司君は?」
「俺、昔からこの祭では端の方にある屋台でりんご飴買ってたんだよね。」
「今は無くなっちゃってるみたいだけど。」
「そうなんだ…あ、あそこにりんご飴の屋台あるよ。思い出の味じゃないかもしれないけど、せっかくだし買っていかない?」
「本当だ。じゃあ買おうか。」
彼の浴衣姿が眩しくて。屋台や星空の光なんて霞んでしまう。
しばらく食べ歩きをしていると、異変が起きた。
「痛っ…」
「どうしたの?」
「いや…下駄が壊れちゃったみたいで…」
「大丈夫?そこで休もうか。」
「ごめんね…」
「いいよ。気にすることないよ。丁度、この辺からだと花火が見やすいし、終わるまでここに居ても大丈夫だよ。」
「ありがとう。ごめんね…」
しばらく沈黙が流れ、私は新しい話題をふった。
「…私、人混みが苦手なんだ。でも、お祭りの人混みは何故か平気なの。私ね、お祭り特有の会場の一体感がたまらなく好きなんだよね。多分、私がこの場は平気な理由がこれなの。花火が綺麗に上がる瞬間、失敗した瞬間、会場全体が同じ気持ちになる。あの感覚が好きだったんだよね。」
「十年前の時より祭をこんなにしっかり楽しんだことは無かったな。」
「わかる。祭は花火や屋台そのものを楽しむ文化だけど、それに込められてるなにかには特別な気持ちを感じるね。」
「そうそう。やっぱり誠司君とは感性が合うな〜」
「ね。あ、そろそろ八時半になるよ。」
「花火上がる時間か!楽しみだね。」
「うん。…ねぇこの前話したこと覚えてる?」
「この前?あぁ。伊佐咲の事を教えてくれるんだよね。」
「そう。これから話す事は全部昔聴いた話なんだ。俺の伊佐咲での特別な思い出。」
誠司君の顔は少し覚悟が決まったかのような、悲しいような、あの時の表情に見えた。
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