第6話
「将来の夢?」
花火の音と賑わう人を背景に、彼は話し始めた。
「…俺、高校を卒業したら、都会の方へ引っ越して、自分の店を持ちたいんだ。」
真剣な眼差しに変わって、私は黙々と話を聞いた。
「自分の店?何をやりたいの?」
「カフェを経営したい。もっと広い世界に出て、たくさんの人と交流したいんだ。」
少し苦笑いのようで、可愛らしい微笑みのようで、覚悟のような真剣な眼差しが見えた。
「いい夢じゃん。応援してるよ。」
「ありがとう。でも、横山さんに無理に着いてこいなんて言えないじゃん?」
「俺だけの夢だし。君との恋はとても大切だよ。でも諦めたくないんだ。」
ああ。彼の中には二つの迷いがある。
私という恋を取るか、夢を取るか。きっと、誠司君はどちらかを捨てることで後悔するだろう。なら私が出す答えは一つだけ。
「私は…もし誠司君がその夢を叶えたいなら私はそれを受け入れるしついて行くよ。」
「…本気?今からバイト代貯めれば何とか家賃くらいは払えるだろうけど、その他が大変だよ?」
誠司君は焦りのような、驚いたような表情を浮かべて訴えかけた。
「私、捨てたくない。十年の恋を。」
「…高校出たらすぐここを出るつもりだけど…本当に?」
「それでもいい。ずっとついて行きたい。だから、私と付き合ってください。」
「しっかりとした告白は俺からさせてよ…」
少し呆れたような、でも暖かい表情で受け答えをしてくれた。
「…もちろん。俺もずっと前から好きでした。」
「…とは言っても、あと二年もあるんだよね…」
「まぁね。それまで俺らは青春するのみよ。」
「そうだね。…あー明日美咲になんて言おうかな〜」
「北条さん?」
「そうそう。ずっと相談乗ってもらってたりしてたんだよね。昔から仲良いし。」
「もしかしてはぐれた友達って北条さんだったりする?」
「そうそう。びっくりするだろうな美咲。あの時の少年が誠司君だったなんて。」
「本人達でさえまだ混乱してるってのに、他の人理解追いつかないんじゃない?」
「そうだね…笑多少濁して伝えるつもり。」
「…さて、横山さんは何時まで居られるの?」
先程とは空気がうってかわり、リアルな心配をしてきた。
「…うーん。早めに帰ってきて〜ってお母さんは言ってからな〜」
「そりゃあいくら祭とはいえ女の子だから心配するよな。」
そういえばお母さんには友達と行ってくる〜なんて伝えただけだもんな〜それに男の子って言ったし。
「…それじゃあそろそろ帰る?花火も終わりそうだしね。」
「そうしよっか。家まで送るよ。」
「ありがとう。でも今日タクシーで来たんだ…」
すると誠司君は困惑したように私に伝えた。
「え?もうこの時間になるとタクシー走ってないと思うよ。」
「え?!行きはたくさん走ってたのに…」
「もっと早くならまだ走ってたかもね〜第一ここ田舎だし。」
「自転車の後ろ乗る?送ってくよ。」
「夜じゃ二人乗りバレないから。」
「じゃあ…お願いします…」
「しっかり掴まってて。」
その時、多数の花火が打ち上がった。
「あ。フィナーレあるの忘れてた…」
「ね。…伊佐咲の乙女はもう…」
「亡くなった訳じゃないからね。ただ、呼吸が止まるその時まで眠らされている。それが辛いんだけどね。」
「…伊佐咲の乙女に選ばれた子は、親に一言言って、その後神社の手前でその後の話をさせられるんだって。」
「伊佐咲の本当の伝説を?」
「そう。それと今から薬を飲むこともね。」
「よし。浴衣巻き込まれないようにね。」
「誠司君も浴衣だけどよくここまで漕げたね。」
「自転車のプロなんでね。家知らないしとりあえず学校向かうわ。」
しばらく風に揺られ、幸せな時を過ごした。だって、好きな人がこうやって自転車の後ろに乗せてくれたんだもの。
「今日はありがとう。その…話も聞けたし。」
「こちらこそ。」
「……夏海って呼んでいい?」
「…もちろん!」
「これからもよろしくね。夏海。」
「こちらこそね。誠司。」
それから家に戻り、朝を迎え、真っ先に話しかけてきたのは美咲だった。
「な・つ・み」
「美咲!おはよう!」
「しばらく会ってなかったね〜私旅行行ったりしてたんだ〜」
「そうなんだ!美咲は美咲で満喫したようだね〜」
「元気そうじゃん?どうだったかきっちり話してもらうよ!!!」
「…まず結論から話すと誠司と付き合うことになった。」
「…うっそ…おめでとうすぎる!!しかも呼び捨てになってる!!!」
自分の事のように喜ぶ美咲は心から本当にいい子なんだと思った。
「…付き合えた経緯は?」
「実はさ、十年前の祭、迷子の私を連れていってくれたのは誠司だったんだ。」
「え?どどういうこと?」
予想通りの困惑具合だった。
「私はあの当時の誠司に恋をした、その時誠司も私に恋をしていた。お互い引きずりに引きずった十年間の両片思いが実ったってわけ。」
「…こんなことあるんだね。運命って存在するんだ…」
「私もびっくりしたよ。あともう一つ言っておくね。」
「高校を出たら誠司の夢を近くで見守りたいから都会について行くことにした。」
「…そうなんだ…色々衝撃だよ〜」
美咲は驚いているようだけど、いつもの笑顔を絶やさずに会話を続けてくれた。
「そうだよね、突然凄い話をしちゃったからね…笑」
「…あとそれから…いや。この話はやめておこう。」
「えー君ら二人だけの秘密ができちゃったの〜?」
「…夏海。お幸せにね〜」
いつものニヤニヤした顔で私の恋を応援してくれた美咲には感謝しかない。踏み出さなくちゃいけないことを教えてくれた親友だもの。
あの時、私は伊佐咲の乙女だった事、そしてあの日の話は私と誠司の二人だけの思い出とする。
あの当時の身内はどう思ったのか、はたまた記憶があるのかは分からない。でもこの気持ち記憶は内緒にしておきたいと思った。例え全てを知っていたとしても。
平和な世界で、伊佐咲の乙女は必要だと思わないけれど、もし、本当に隕石の被害を抑えているのであれば、私もこの十年間ここに貢献できたと思う。
そして最後に、この辺りは少しおかしいと思った。だって伝統のために人を捧げても泣いて喜ぶ人が居るから。
そして、私の長く短い恋と祭は永遠を約束して、これからも生き続けるだろう。
長く短い恋と祭 宮世 漱一 @soyogiame-miyako2538
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