23 運命の出会い!?
大通りから噴水広場へ移動するとアルバさんがいました。
お菓子の販売でしょうか。
神殿の
近づくと、在庫の補充をしていたアルバさんがこちらに顔を向けます。
「おう、ロゼッタさん。どれか買ってくか? ちょうどいま焼き上がったばかりのやつもあるぜ」
「かわいいクッキーですね。アルバさんが作ったんですか?」
「まあな。神殿のチビたちと一緒にな」
アルバさんいわく、例年祭りの折にはフィーティア神殿からも屋台を出すんだそうです。
地域のみなさんとの交流を図るため?
うまくいくことを祈ってます。
「で? そっちの……お兄さん? は誰だ」
「なんでそこ疑問形なんだよ! ノルさんだよ、ノルさん! 今日は人間の姿に化けてんの! つーかさっき俺広場にいたし。なんで気づかねぇんだよ……」
それからちゃんとお兄さんだから! と『お兄さん』の部分を強調して叫ぶノルさんに、アルバさんが渋い顔で考えこんでしまいました。
「……どういう理屈なんだ、それ? 物体のかたちを変える魔法か?」
ほんとですよね。
わたしにもわかりません。
そこは『星霊なので』で片付けたいと思います。
なお、ノルさんによるとすべての星霊が人型を取れるわけではないそうです。
格が違うんだよ、格が。
とのことでした。
「ところで、このお祭りは夜まで続くんですか?」
「そうだよ。むしろ夜がメインだ。焚き火を囲って歌ったり、踊ったり。まあ、私は神殿に戻らなきゃなんねぇから参加はできないけど……。あんたは日没後にでもまたここに来るといい。見ておいて損はないぜ?」
と、可愛らしいウサギのクッキーを渡してアルバさんはおすすめの屋台を教えてくださいました。
あちらの串焼き屋さんですね。覚えておきます。
◇
「このあとどうすんだ? いちど店に戻るのか?」
「そうですねー」
ちらりと空を見れば、太陽の位置は西寄りの上。
つまり、午後の三時前後といったところでしょうか。
夕方までまだ少し時間がありますね。
わたしとしては夜の祭りに参加せずにこのまま店に戻ってもいいんですけど、ノルさんが『夜は
わたしたちは王都の南東方面にある住宅街へと向かいました。
ここは、城で働く兵士さんや、研究所の職員さんたちが多く住んでいる区画だそうです。
白衣を着た男性とすれ違い、師匠に白衣もアリだな、なんてわたしが妄想にふけっていると、とつぜんノルさんが走り出しました。
「俺、メロンフロート!」
「こらノルさん、そう走っては!」
うさぎの姿になったノルさんは、ぴょんぴょんと路地を駆けて行きます。
そして、角を曲がった時のことです。
「ぶっ──!」
「うわぁ⁉」
角から出てきた少年とノルさんが衝突。
両者転倒ののち、少年の腕からバサーッと大量の紙がこぼれて宙を舞いました。
わたしの足元に、ひらりと落ちてくる一枚の紙。
拾うと、どうやらなにかの資料のようでした。
「ああっ! いけない、論文がっ!」
少年は慌てて書類をかき集めると、風で飛んで行ってしまった数枚の紙を眺めて、『ああ……』と消沈した顔で呟きました。
「す、すみません! ノルさんが!」
わたしも資料拾いを手伝います。
そして、最後の一枚というところで、
「「──あ」」
互いの指先が触れあい、少年がぱっと紙の上から手を放しました。
ほんのり赤く染まった頬。
恥じらう彼にわたしはあわあわと慌てます。
まずい。
これはいわゆる、王道の展開です!
黒パンをくわえた下町娘と、旅人風の青年(のちに某国の王子様だったと判明)が、王都の曲がり角でどしんっ!
『もう、なんなのよぉ』からの『大丈夫?』と差し出された手に下町娘が顔を上げると、互いにかちりと合う視線。
そうしてふたりは恋に落ちるのでした──
と、いうやつですよ。
ここから始まる恋物語ですよ。
王子様との秘密の溺愛ルートキター! ですよ。
……なんて冗談さておき。
もしもこれでフラグが立ったらどうしてくれるんですか、ノルさん。
わたしは全力で折りに行きますよ。
フラグクラッシャー上等です。
抗議の目を向けると、ノルさんはきょとんとしていました。
口には先ほど購入したかわいいウサギのクッキーが。
ふむ、つまり。
このロマンスの主役はノルさんであり、これはノルさんと少年の出会い、というわけですか(パンじゃないですけどクッキーもアリということで)。
まふもふのウサギさんと黒髪少年の組み合わせ。
うーん、悪くはないですけどふつうです。
赤薔薇が舞い飛ぶ中で出会うふたりのシーンを想像しながらわたしが書類の束を渡すと、少年は「ありがとうございます」と微笑み返してくれました。
子犬系。
若干気の弱そうな少年は、ノルさんに目を向けると『ひぃぃ!』と悲鳴をあげました。
「う、うううさぎ⁉ なんでこんなところに? 街中なのに……」
ガクガクブルブル。
少年は頭を抱えてすみっこにしゃがんでしまいました。
あまりのビビられようにノルさんが前足をわたわたとさせて、わたしを見上げています。
「ええっと……」
「兄さーん!」
「──サラさん?」
路地の奥からサラさんが駆けてきます。
わたしに気付いたサラさんは笑顔で一礼すると、ノルさんを見て「ああ」と苦笑しました。
「すみません、ロゼッタさん。兄は動物が苦手でして」
「動物が? ──す、すみません! すぐにノルさんを下がらせるので」
「いえ、大丈夫ですよ。いつものことですから。それよりご紹介しますね。彼はわたしのひとつ上の兄で、ユーリ、といいます」
サラさんから紹介され、お兄さん──ユーリさんは恐る恐るといった様子で立ち上がると、ぺこりと会釈しました。
兄。言われてみれば、目鼻立ちがまあまあ似ています。なるほどご兄妹でしたか。
ちなみにサラさんにはユーリさんのほかに、妹さんが一人いるようで、いまは隣国に留学中なんだとか。
ユーリさんは妹さんのお世話と遺跡の調査のため、普段は隣国にいらっしゃるようです。
今回は祭りがあるからと、一時的に帰国したとのお話でした。
というかサラさん、十五才だったんですね。
アルバさんの一個下だといま知りました。
「兄は考古学者のタマゴなんですよ~。いくつもの学会で論文が認められて、お偉い先生方から将来有望だと期待されています! ロゼッタさんの恋人にいかがですか?」
「サ、サラ……」
ユーリさんが困惑しています。
いきなり見知らぬ相手をつかまえて『どうですか』と言われても戸惑いますよね。わかります。わたしもちょっと考えてしまいます。
だってこの人、ノルさんにビビリまくりですし。
べつに動物嫌いの彼氏がダメというわけではないんですけど、うーん、これはナシで。
だって、ウサギですよ?
モフモフですよ?
いちいちウサギ相手にここまで怖がっていたら、こっちの身が持ちません。
街道でオオカミの群れに遭遇したらこのひと卒倒するんじゃないでしょうか。
「──あ、すみませんロゼッタさん。そろそろ祖母を迎えに行かないといけないので失礼しますね」
「はい。今度ぜひ、お兄さんといらしてください」
最後までノルさんを見て震えていたユーリさんを連れてサラさんは去っていきました。
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