ページ6『豊穣祭』
21 豊穣祭です!
王都は観光客で溢れ、それはものすごい人の数です。
人、人、ヒト。どこに視線を向けてもわいわいガヤガヤうるさいことこの上ありません。
まさに人がゴミのよう。
ふははははと高笑いをキメて、フィーティア神殿前の階段上から人々を見下ろすわたしです。
「今日はお世話になります、ロゼッタさん」
振り返れば、金髪の男性が神殿の中から出てきました。
リックくんのお父さんです。
名前はリリック。
息子さんと名前が似ているため、ややこしいですけど親子ですからね。
がんばって間違えないようにお呼びしたいと思います。
「今日は、ジェシカさんへのプレゼント選びとのことですが──」
今日は、年に一度の豊穣祭。
このユーハルドでは四半期ごとの節目に大きな祭りが開催されるのですが、いま王都で開かれているのは火の祭り。
今年いちねんの実りを祈り、これからやってくる夏の訪れを祝う祭りなのだと、以前師匠が話されていました。
そして、今朝早くに店にいらしたリリックさん。
今日はリリックさんとジェシカさんが出会ったいわゆる『記念日』というものらしく、ジェシカさんへ渡すプレゼント選びに付き合ってほしい、とのことでした。
日頃のお礼もありますからね。
今日は特別価格でお受けすることにしました。
銀貨一枚。赤字覚悟の大サービスです。
「ジェシカさんのお好きなものを贈るのはいかがでしょうか?」
「それがですね。お恥ずかしいことに妻の好みがよくわからず……、一般的に女性はなにをもらったら喜びますかね」
リリックさんは困ったように笑うと、ぽりぽりと指で頬を搔きました。
喜ぶ……そうですねぇ。
「やっぱりお金……」
「え?」
いえ、冗談です。
ごほんと咳払い。
「恋人や旦那様が一生懸命考えて選んでくれたものなら、何でも嬉しいものですよ」
わたしはきらきらとした笑顔で言いました。
もちろん嘘です。すみません。
『あなたが選んだものなら何でも』というのはあくまで方便であって、実際には『わたしの欲しいものを察して贈ってこいや』が正解です。
それが世の女性……いえ、
「なるほど。それなら……」
リリックさんはこちらの真意には気付いていないご様子で、歩きながら空を見上げてつぶやきました。
「じゃあ、シャベルがいいかな……」
なんでそうなるんですか?
このひと、頭沸いてんですか?
「ええっと……理由をお聞きしても?」
「実は妻はあれでけっこう庭をいじるのが好きでして」
「庭を」
「ええ。それでよく、庭で採れたハーブを使ってパンを焼いたりするんですよ。だから日常的に使えるものがいいだろうと思いまして」
それでシャベルなんですね。
喧嘩になります。
却下です。
わたしは頬を引き攣らせて、精いっぱいの作り笑顔を浮かべてみせました。
「そ、そうですね……シャベルも素敵な贈り物ですが、どうせならもっと、普段から使えるものを選んではどうでしょう」
「普段? ですからシャベルを。──ああ、もしかしてジョウロや鎌のほうがいいですかね?」
「……」
そうじゃねぇんですよ。
仮にもふたりの記念日に、シャベルだのジョウロだの鎌だの園芸道具を贈られて、喜ぶ女性がいると思いますか、って言ってんですよ。
もしいたら、かなりのレアケースです。
相当園芸好きな人か、はたまた園芸道具のコレクターか、よほど心根の優しい人だけです。
わたしなら間違いなくそのシャベルで穴を掘って相手を埋めて差し上げます。
……まあ、プレゼントをくれる相手がいないんですけどね。
「はあ……。そういうものはせめて誕生日とかにですね……」
「ああっ!」
「?」
こちらのげんなり顔など見ていないリリックさんは、通りすがりの女性を見て、ぽんと手のひらを打ち合わせました。
おそらく観光客なのでしょう。
つばの長い、青い帽子を被った品のいい女性のうしろ姿でした。
隣に並ぶ男性も洗練された都会人という印象です。
リリックさんは言いました。
「そうだ、帽子なんてどうでしょう? 最近は陽射しも強くなってきましたし、彼女は肌が弱いみたいで、この時期になるとよく日傘を差しているんですよ。帽子なら、手も塞がらないですし、ちょうどいいかもしれません」
なんだ、やればできるじゃありませんか。
むしろなぜ最初にその回答へと至らなかったのか。不思議です。
さっそくわたしたちは帽子店に向かいました。
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