20 菜園の完成です!
「すまなかった!」
「い、いいえ。そのように謝っていただかなくとも」
数日後。
レンガを並べて菜園造りに取り掛かっていたわたしとノルさんの元に、これまた風のように現れたペリードさんが開口一番「ごめん!」と叫んできました。
どうやら、魔獣との戦闘は想定外。
まさか森に魔獣が出るなんて。
そんな報告は上がっていなかったはずなのに、くそっ、僕はなんて依頼をキミにしてしまったんだ! という謝罪でした。
どうでもいいですけど、メガネキャラ(男性)ってふつうクール系だと思うんですよ。
例えばほら。
普段はやたらとプライドが高くて、『キミのことなんか視界にも入らないよ』とか言っておきながら帰り道で出会ったネコに今日の出来事を話してしまう寂しがり屋な金髪眼鏡の彼とか(インテリ×クール系)。
あるいは物静かで大人だけど、実はサディスティックな性格が眼鏡の奥に隠された黒髪眼鏡の彼とか(鬼畜×クール系)。
はたまた何を考えてるのかわからないけど、ひょんなことから溺愛してくる銀髪眼鏡の彼とか(ミステリアス×クール系)。
眼鏡、メガネ、めがね!
そうです。
いつもはクールなのにふとした拍子に『いや、これは違うんだ……』などと顔を真っ赤にして照れる姿を拝める、あのっ!
メガネです。
メガネといえば断然クール。
鉄板です。
だというのにペリードさんは全然クールじゃありません。
現に今も大慌てで謝罪を述べたあと、みごとにへこんでおられます。
クールの欠片もありません。
普段は城にお勤めの文官さんだというからそれなりに賢い方なのでしょうけど、それを言ったらわたしの師匠のほうがよほど知的でクールです。
メガネかけてないのに。
「……とりあえず、中いいかな?」
わたしのひざに巻かれた包帯をちらりと一瞥してから、ペリードさんは肩を落としてトボトボとお店の中へと入られました。
◇
「おう、ここだって聞いたから来てやったぜ」
店内に戻ると、いつの間にか来ていたらしいアルバさんが椅子に腰かけ、片手を上げました。
隣には、大通りのケーキ屋さんにお勤めの、暗い店員さんことソフィアさんも一緒です。
あ、納品書ですか。
そういえば今朝いただくのを忘れていました。
わざわざ届けてくれたんですね。
恐縮です。
「……やっぱり安いです」
あれから五日に一度。
ソフィアさんのお父さんが大量に野菜を届けてくださるようになり、おかげで仕入れが楽になりました。
市場から店まで重い荷物を運ばなくて済むうえに、驚くほど価格が安いとか。
特別価格(魔獣から助けた御礼価格)だとは言っていましたけど、今後ソフィアさんのお父様には足を向けて寝られません。
「そうだ、ロゼこれを──」
ペリードさんが財布の紐を解くと、わたしの手のひらに金貨を落としました。
なんと八枚です!
「はちっ!? え!? あの、こ、これはいったい……?」
「オオカミ退治の謝礼だよ。あと魔獣の分もね。魔獣の討伐は、うちの軍でも対応しきれない案件だから、その分を上乗せさせてもらったよ」
まあもっともフィーティアから出た報償金の分け前だけどね、と続けてペリードさんはアルバさんに視線を向けました。
「なんだよ、兄ちゃん。なんか言いたげだな?」
「いえ、そういうわけでは……」
ペリードさんが苦笑しています。
まあ、わかります。
本来魔獣の密輸はフィーティア機関の掟によって禁じられています。
破れば、
崩落と隣り合わせの危険な鉱山での強制労働は、死罪の次に重い罰だと聞いています。
それを今回やってのけたのが、他でもない
自分たちでダメだと言っている行いを、自ら行う。
その口止め料として国に支払われたのが、今回の報酬金なのだそうです。
ペリードさんはメガネを中指で押し当てて、ため息をつくと、わたしに
「ついでにこれも、よかったら」
「これは……?」
白い布がかかっていて中身は見えませんがどうやら食べもののようです。
ふわりと甘い香りがします。
シナモンの香りでしょうか。
「アップルパイ。好きかな? 僕が作ったのだけれど──」
「アップルパイ⁉」
「え? ああ……」
思わず叫んでしまったわたしに、ペリードさんがビクッとしています。
「アップルパイといったら、あれですか⁉ りんごの甘煮をパイ生地に包んで焼いた、あの! アップルパイですか⁉」
「そ……そうだね。その説明で間違っていないよ」
「────っ!」
感激。両手で口を覆って、わたしはアップルパイに釘付けです。
つややかなパイの網目。
そこからのぞく砂糖で煮詰めた甘いリンゴの中身。
そう、先日苦しくも食べられなかったアップルパイがわたしの前に戻ってきました!
しかもホールで! 焼き立てでっ‼
「ペリードさん!」
「な、なんだい」
わたしは彼の右手を両手で包み、お礼を伝えました。
「ありがとうございます。金貨よりも最高の報酬です」
みんな大好きユーハルドのアップルパイ。
正直金貨があればいくつも買えますけど、彼が作ったアップルパイは絶品なのです。
まさに天にも昇る味。
それが手に入ったとなれば、今回怖い想いをして魔獣と戦った甲斐があったというものです。
さっそく食べましょう。
いますぐに!
「──ああ、でも。先に菜園を完成させたいですね」
「菜園?」
少しばかり頬を赤く染めたペリードさんが聞いてきます。
おお、照れるメガネ。
眼福です。
「そういや、先週言ってたな。まだ作ってなかったのか」
アルバさんとソフィアさんが椅子から立ち上がります。
ペリードさんにも説明すると、「それなら」と手伝ってくださることになりました。
三人の親切な申し出。
遠慮なくコキ使わせていただきます。
裏庭に移動して、作りかけの菜園に土を入れて耕し、ぱらぱらっと種をまき、苗を植えたら完成です。
「菜園、できました!」
「おー、……で? これいつ収穫できんだ?」
「うーん。夏、じゃないかなぁ」
「
ソフィアさんがラディッシュゾーンの前にしゃがんでぽんぽんと土を撫でます。
ちなみに彼女の言う『兄』というのはドーナツ屋さんの、あのやる気の無い店員さんのことです。
言われてみればお店、お向かい同士ですもんね。
兄妹そろってオーナー兼、店長さん。
おもに野菜を使ったお菓子を販売しているそうです。
「水、撒きますよー!」
わたしは握ったホースの先を空に向けて、キラキラと。
太陽の光を浴びたシャワーが畑の上に雨を振らせます。
ええ? 魔法を使えよ、ですかノルさん。
いいんです。
だってこのほうが、水遊びみたいで楽しいでしょう?
七色にきらめく虹の下。
みなさんと作った菜園は、宝物のように輝いて見えました。
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