この物語の魅力は、まず何よりもその緻密な世界設定にある。
王家と両大公家の権力構造、精霊四氏族をめぐる伝承、そして「天理」という絶対的な禁忌。これらが重層的に絡み合い、単なる宮廷劇にとどまらない壮大な舞台を形づくっている。
特に「男子相続か、長子相続か」というテーマは、歴史ファンタジーに馴染み深い題材でありながら、本作では水の国ならではの宗教的・伝統的背景と結びつけられ、独自の厚みを持つ。読者は設定のリアリティに裏打ちされた緊張感を、各シーンで自然に感じ取れるはずだ。
また、火の国の苛烈な王ザハル、風の民滅亡の記憶、属国化を迫る外圧といった要素は、舞台の広がりを示すと同時に、「王宮の一つの決断が世界全体の均衡を崩す」というスケール感を与えている。
設定好きの読者にとっては、この世界の仕組みそのものがドラマだと感じられる作品だろう。