『道』という言葉には、さまざまな意味があります。
単純に人や車両が通る場所であり、あるいはどこかへ至るための過程であり、何かを行うための手段でもあり、また人として生きるための礎となる筋道、などという意味合いも。
本作は、約14万字をかけて、あらゆる角度から『道』というものを描いたお話です。
現代に生きる青年・鉄平が、1世紀近くも前に時を止めた山奥の村に迷い込んでしまうところから、物語は始まります。
人間はおらず、神さまたちばかりが棲む狭備村。
そこで鉄平は、ミチという名の「道の神さま」と出会うのです。
この先の生き方に悩む鉄平と、過去の出来事がきっかけで神さまとしての力をなくしたミチ。
違う時を生きながらも、どこか似たところのあるふたりの奇妙な共同生活は、便利とは言えずとも互いに新たな発見に満ちています。
はたして彼らは、進むべき道をも見つけ出せるのでしょうか。
広島の方言で綴られたセリフが心地よく、その土地に根付いた人の生を感じます。
古いものを尊重する鉄平の姿勢や、新しいものに臆さず挑戦するミチの在り方は、我々の人生においても大切な気付きをもたらすはずです。
迷いも後悔も、背負うべきものも抱き締めるべきものも、きっと道の途中にある。
ラストシーンで、まっすぐにどこまでも延びていく道を見ました。ぜひ、その景色まで辿り着いてください。