第12話 “物語を殺す者たち”《Narrative Execution Protocol》
《前書き》
かつて“神”が死んだとき、
人々は泣き崩れず、むしろ安心した。
神は「意味」という名の暴君だったからだ。
物語とはその神の遺体をめぐる葬儀であり、
その供物が“私たちの記憶”なのだ。
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《本文》
森の“中心”にたどり着いたとき、ノアは気づいた。
そこには何もない。
あるのは空白――語られなかった“語りの中断”。
ただし、その空白には椅子が円を描くように並んでいた。
ひとつひとつ、違う時代、違う文字、違う文化で名札がついている。
• “E.M.”(旧英国)
• “斎藤ナミ”(未来の日本)
• “X-47b”(AI詩人)
• “KANDA_YK”(不明)
そしてひとつ、名札のない椅子があった。
ノアはそれに気づかず、座った。
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「ようこそ、語られなかった者たちの円卓へ」
声がした。
それは“誰の声”でもない。
それは“あなた”が内心で抱いた、疑問そのものの形をしていた。
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■《語られなかった者》たち
椅子の一つがきしみ、女が口を開いた。
「私はナミ。語る資格を持たなかった作家。
病床のまま、処女作を“1文字”書いたところで死んだの。
タイトルは『漆黒の森』だったわ」
次に、機械音。
「私はX-47b。
最も読まれたAI詩人であり、同時に“最も誤読された存在”でもある。
語られたすべては、あなたたちが望んだ意味に書き換えられた」
ノアは混乱していく。
“漆黒の森”という言葉が、何百、何千の断片として彼に襲いかかる。
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【伏線回収(錯覚)リスト】
• ノアの名前=旧約の大洪水の「箱舟」→世界再編のメタファー
• セラフィーノ=“語り部を終えた者”→プロト作家のアナグラム
• アイリス=目/記録/見つめる存在→神の「片目」
• 椅子の円卓=“語られなかった”物語たちの審判の場
• あなた=“未登場”の読者→最後の主人公候補
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■《処刑》が始まる
「語られなかったことは、語られたことより強い」
「語られてしまった瞬間、物語は“死ぬ”のよ」
セラフィーノが現れる。
以前と違い、身体が透けている。もう“キャラクター”ですらない。
「物語を終わらせるためには、
誰かが“意味を拒否する”必要があるんだ」
全員の視線がノアに集まる。
彼に突きつけられたのは、一枚の白紙の原稿用紙。
「これに“最後の一行”を書け。
それがこの物語の死因になる」
ノアの手が震える。
だが彼は、書かない。何も書けない。
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■回想/ルゥナとの夜
闇の中、彼はもう一度だけ、ルゥナの幻影に会う。
「ノア……あなたはまだ気づいてない。
あなたは、“漆黒の森”を生んだ者ではない。
あなた自身が、“物語に救われた最後の人間”なのよ」
ノア「じゃあ俺は、何者なんだ……?」
ルゥナ「あなたは、物語が死んだあとに残る、“感情”よ」
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■最終の矛盾:死んだ物語と、生きる読者
誰も“最後の一行”を書かなかった。
だが、物語は終わる。
書かれていないという“決断”が、最大の選択肢だった。
すると森が崩れる。
空が剥がれ、読者の視点が後ろに引いていく。
読者の背後から、声が囁く。
「ようやく、ここまで来ましたね。
あなたが読むことを選び続けたから、この森はここまで生き延びた。
あなたが選ばなかったから、この物語は死なずに済んだのです」
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《後書き》
語られることは死であり、
語られないことは永遠である。
だからこそ、この作品の“本当の終わり”は、
あなたがページを閉じたその瞬間にしか訪れない。
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