第4話 スライムがあらわれた!

「ははは、やっぱりね」

カミールさんはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「いつから…」

「まず、僕達が来た時に顔覆ってたけど、瞳の輝きと頬の緩みは隠しきれてなかったね」

「やだっ…」

「そりゃ、セレモニーで一回会っただけなのに、なんでだろうなーって考えるよ。

 次に、ミハエル様がきみを旅に送り出した所。

 原住民の闘える女性がいた方がいい、までは本心だとしても、普通、危なそうな旅に、セレモニーにまで連れてくるようなお気に入りの侍従を送り出さないでしょう?

 王様なんだからいくらでも人脈…いや、エルフ脈やネコ脈?はあるだろうに」

「なるほど…」

「で、セレモニーで僕らのうちの誰かに惚れたんだろうけど、誰かなーとなって。

 撫でられてる時の反応で、ローレンくんだなって確信しました」

「ご名答すぎて、それこそ恥ずかしい…」

「で、まあ、気付いてしまったからには、僕が撫でちゃ悪いかなーと」

「お優しいんですね、嫌われてるんじゃなくて良かったです!

 でもそんなセクハラみたいに捉えなくていいですよ、撫でられたら気持ちがいいし、撫でた相手が喜んでたら嬉しいのが猫なので」

「でも、半分人間だよね…

 やっぱり、仲間のお相手になるかもしれない相手を撫でるのはねえ」

「えっ、じゃあ…

 応援してくださるんですか?」

「うん。

 ローレンくんて優し過ぎて、付き合う女性を軒並み調子に乗らせちゃうのがネックなんだ。

 その点、侍従としてしっかりしてるきみなら、どんなに優しくされ続けてもそうはならなさそうだし。

 あと、セレモニーでも決め手がないとか言ってたけど、要は特別感を覚える女性がいないってことでしょ。

 そんなローレンくんが、ご両親と僕とオットー以外で特別だと思ってそうなのは、命の危険と背中合わせだったヴァンパイア襲撃事件のメンバーなんだよ。

 だから今回も、あの時ほどは危険じゃないかもしれないけど、吊り橋効果があるかもって。


 バイオレットさん…

 僕は芸能界で、モテるからって呑気に構え過ぎて婚期や子作り期を逃して後悔する人をたくさん見てきたんだよ。

 ローレンくんにはそうなって欲しくないから押せ押せで頑張って!」

「はい! ありがとうございます!」

「それはそうと…

   

 ここなら誰も見てないし、モフモフしていい?」

「もちろんです!」


次の日はノックの音で目が覚めた。

「おはようー」

茶色い猫耳が覗いている。

バイオレット「えっ?!」

オットー「僕でした〜」

バイオレット「なーんだ! カチューシャかあ、びっくりしたあ!」

ローレン「おはよー…」

寝起きでちょっと険しい顔してるけど、そんな表情も凛々しい。

バスローブ、たぶん最大サイズなのにちょっと短くて

…白くて細い美脚がよく見える。

カミール「そのカチューシャ、昔の曲の衣装のだろ、なんでわざわざ持ってきたの」

オットー「ミハエル様のとこ行くってことは、バイオレットさんに会うってことだよな〜と思ってさ」

バイオレット「嬉しい、そんなに私のこと印象に残ってたんですか?」

オットー「いやいや、そっちだって一回会っただけで、しかも殆ど話もしてないのに、僕の名前とか、前はもっと太めだったのとか覚えててくれてたじゃん」

バイオレット「侍従の仕事柄ですよ」

オットー「芸能人だって同じだよ、会った人のことよく覚えてる方が人脈も広がって有利。

     ましてや、バイオレットさんみたいな可愛らしい人のこと覚えてないわけないでしょ。

     ニャーオ」

オットーさんは鏡に向かってネコポーズを取った。

オットー「…可愛くねえ!

     やっぱりネコ耳さえつければ、みんなバイオレットさんみたくなれるわけじゃねーな!」

バイオレット「そんなことありませんよ、下の服ペンギンの衣なのもあって可愛らしいですよ!」

オットー「ゆるキャラ的な意味でね!」

ローレン「…すっかり目が醒めたよ」


チェックアウトして馬車に乗ろうとすると

…車輪にスライムが纏わりついていた!

「なんだこんにゃろー!」

カミールさんがすかさず剣を抜いて斬撃を浴びせ…たが、

カミール「うわー、斬れない!

     てか、めっちゃひっついた!」

ローレン「これ打撃も効かなさそうだね、どつしよう?」

バイオレット「スライムに効くのは魔法です!」

オットー「シャイニング!」

ピカッ!

スライムは倒れた!

オットー「や、やったー!

     …しかし、このスライム、オレンジゼリーみたいで美味しそうだね」

バイオレット「食べられますよ!」

ローレン「ほんと? じゃあ宿屋の厨房借りて料理してみようかな。

     バイオレットさん、下処理とか教えて」

バイオレット「は、はい!」

ローレン「さすが、優秀な侍従さんは料理もできるんだ」

横から覗き込まれ続けて、緊張で手が震えるのを必死に堪えた。


4人「いただきまーす」

オットー「うっまー! 本当にオレンジゼリーの味がする!」

カミール「ところで、ネットネトになった剣を…拭く布はあるからアルコール欲しいんだけど」

宿屋の売店にはなかった。

カミール「あーあ、きょうびの人間の国なら絶対どこの店にも売られてるどころか、ご自由にお使いください的に置いてあるのになあ」

オットー「ご自由にお使いくださいどころか、全員絶対使え!って感じだよね」

ああ、感染症対策で…

バイオレット「少し南に行くと商店街があります!」

カミール「ありがとう」

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