第2章 俺は盗賊じゃねえ!

第1話 謂れなき牢獄

神に祈らずにはいられない状況だった。

俺はコーディ、モデルと自前のファッションブランドで生計を立てている。

財テクの雑誌の編集者を名乗る男に、栄えある創刊号の表紙モデルをやってほしいと言われ、高額報酬につられて、既に許可を得ているロケ地だというハミング王国の宮廷の宝物庫にノコノコと足を踏み入れたのが運の尽き。

「宝箱の中身を撮影用に入れ替えます」

あー、たしかに、撮影用の方がぱっと見が派手で映える。

「はい、宝箱に手を掛けてもたれかかって〜」

そういうポージングなんだなあ…と、言われるままに手を掛け、財産を築いた成功者らしい誇らしげな表情を作った

…その瞬間、スタッフを名乗る連中は全員、宝物庫から逃げ出した。

「えっ? ちょっ?!」

俺も慌てて続こうとするが、後から分かったことだが外からつっかえ棒をされてしまっていた。

「出せよー!」

じたばたしているうちに人が来て、俺は宝箱の中身を盗んだ容疑で宮廷の牢獄にぶち込まれ、手錠をかけられた。

「なんて奴だ、宝箱の中身は全部本物の宝石と金塊だったのに、全部イミテーションにすり替えやがって!」

「俺じゃねえよ!」

「指紋はお前のものしか出てこなかったぞ!」

「でも、おれはこの通り、手ぶらなんだから、他の奴だって証拠だろ!」

「この状況でお前より怪しい奴があるか!

 どこかに隠してて後で回収するつもりなだけだろ!」

くそっ…

みんな手袋をしていて、宝物庫に入るまでの道筋が裏道めいていて、全く宮廷の人間に会わなかった時点で疑うべきだった!

あいつらは指紋も何も残さないなんて、用意周到にハメられたものだ。


うなだれていると、国王様とお妃様、そしてアナベル姫にその婿のボブ王子がやってきた。

国王様は仰った。

「実はこの件はまだ公にはなっていない。

 そこで、どうだろう。

 そなたのその裏口から忍び込み、宝箱を開けた施錠の腕を国の為に役立ててもらう代わりに、初犯なのだし罪状は帳消しというのは」

「いや…だから俺じゃないんですけど」

「まあ聞きなさい。

 アナベルが懐妊していることは知っているな」

「はい、ご懐妊おめでとうございます」

「ありがとう」

姫様は、その汚れやほつれひとつない純白のドレスに恥じないほど綺麗に微笑まれた

…こんな方も内心では、俺のことを汚らわしい犯罪者だと思っているのだろうか。

「しかし、一部の心無い民が、姫様がヴァンパイアとの子を宿す訳がない!

 姫様はマリア様と同じ処女懐妊なんだ!とやかましくてな」

「ひどい、種族差別じゃないですか。

 悪徳ヴァンパイア軍を倒して国を救った英雄になんてことを…」

「わしもそう思うが、国を統治するには国民の納得が必須だ。

 そこで、この国古来からの伝統…

 『王族の嫁や婿が人間以外の時は、新生児を生後7日目の命名式の日にエルフの王に清めてもらう』を決行しようと思うのだ、それもボブ王子に失礼だがな。

 しかし当代のエルフの王は『僕が他国の者の願いを叶えるとしたら、我が宮殿の鍵を開けられるような賢者だけだ。代役は不可』などと言い、並の鍵師では開けられないような鍵を掛けている。

 なのでこちらから、産まれてからではアナベルも身体が辛いじゃろうし遅いので、今の安定期に入ったアナベルとボブ王子を行かせようと思うが、そこでそなたの腕が必要な訳だ」

いや、だから俺じゃないからそんな腕もないって…

でも、ここで断ったらいよいよ罪人にされてしまうだろう。

妻子も罪人の妻子になってしまう。

とりあえずここは…

「承りました」

ああ、情けない。

「ボブ王子にはこの斧を託す。

 何かされたら、こんな不肖の輩の血を吸っても不味いじゃろうから、即、首を刎ねるように」

ひっ…

「はっ、はい」

「手錠の鍵は寝ている間などに盗られないように、わしが持っておくからな」


先のヴァンパイア襲撃事件の影響でろくな兵士もおらず、宮廷の修繕が完了しておらず猫の手も借りたい状態なので従者もいない3人旅。

ボブ王子の体力や魔力の実績への信頼もあるんだろうなあ。

用意されていた車を、手錠の俺が運転できるわけもないのでボブ王子が運転する。

助手席にアナベル姫、俺は独りで後部座席

…護送されてるみたいな気分だ。


車は何故かエルフの国までの最短ルートを取らず、何故か森に入って停まった。

「コーディさん、ちょっと」

「な、なんですか…」

俺の手を引いて下車したボブ王子は、もう片方の手に斧を持っていた。

「ちょ…そんなにすぐ首を斬ります?

 あんまりじゃないですか!

 それとも俺、何か粗相でもしました?」

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