最終話 全てを糧にして
必死の看護も虚しく、ボブはいつまでも目を覚まさない。
アナベル「…ボブ」
髪を撫でても、何の反応もない。
思わず口から歌が溢れ出た。
♩毎日心の扉を叩かれ続けたら
どんなに冷たい百合の花だって微笑むわ
涙がボブの頬を濡らした。
次の瞬間。
三日三晩閉じられていた瞼に光が差し込んだ。
ボブ「…あれ? 天使の歌声が…俺ののアンサーソングがきこえてくるぞ?
慈雨が降ってきて、姫様に髪を撫でられてるなんて、ここは天国かな?」
アナベル「…ばかっ!」
ボブ「やっほーい、現実だーっ!
しかも、姫様の血が点滴代わりになってるぞーっ!」
アナベル「ほらほら、点滴中に小躍りしない。
毎日ギリギリまであげてたんだから、感謝しなさい」
ボブ「ローレンとルイスはどうしてる?」
アナベル「ローレンは地元の仲間の所に帰ったわ。
ルイスはこの半年見てきたものを、凄い勢いで曲と絵画にしてる。
あの子にはアトリエだけじゃなくて音楽スタジオもあげないとね。使用人にしておくのは勿体ないわ。
ところで、ボブはこれからどうするの?」
ボブ「どうするって…別に前と同じで」
アナベル「特にすることがないなら
…結婚しよう」
ボブ「えっ」
アナベル「毎日わざわざ通ってくるまでもなく美味しい血が飲めるんだから、悪い話じゃないと思うけど」
ボブ「いや、そりゃ俺は嬉しいけど…
恩義とか責任とかで言われてもなあ…」
アナベル「ああもう、ほんっとバカっ。
宮廷のみんなに毎日血をちょっとずつ分けてもらったら、少しは賢くなるかしら。
次期国王なんだから、みんな協力してくれるわ」
頬を近付ける。
ボブ「マジかよ」
荒くなった呼吸が聞こえてくる。
ベッドに寝かせる前に全身を洗ったから、今のボブは当然生まれたままの顔なのだが、
半年の間に顔立ちが少し精悍になっていた。
融けそうな視線が刺さる。
唇に生暖かい息が掛かり…
ドアが開く音がした。
慌ててとびのいて振り向くと、そこには眼を大きく見開いて口を抑えたローレンと、
赤面して固まっているルイスの姿があった。
アナベル「あっ、あなたたちっ! ノックをしなさい!」
ルイス「だ、だって…
お見舞いに来たらボブさんの声が聞こえてきたから、嬉しくてつい!」
ローレン「というか、点滴して寝てる人…いやヴァンパイアがすることじゃないでしょう。
せっかくなので結婚式までとっておいては?」
アナベル「…そこから聞こえてたの?」
ローレン「いえ、そんな気がしただけです、はっはっはっ」
ボブ「それもそうだね。
これからいっぱいするだろうけど、はじめては一回だけなんだし、
どうせならみんなに見てもらって、綺麗な写真も残してさあ」
ローレン「すごい!
そういう言い方をすると、真面目な行いなのに変態チックに聞こえてくる!」
ルイス「…羨ましいです」
アナベル「なに言ってるの、ルイスはまだまだこれからよ」
ルイス「…ローレンさんの初めてはいつ?」
ローレン「さあ、いつでしょうね」
爆破した宮廷はそうすぐには治らないし、ボブがひたすら急かしてくるので、
国一番の式場で結婚式を挙げることにした。
♩闇夜に囚われた氷姫!
僕が温めましょう!
この曲もすっかり大好きになった。
今回はフルメンバーだから迫力も違う。
♩血の気が凍てつくような困難も
この日を夢見て乗り越えてきた
多勢に引き裂かれても 全てを糧にして
ルイスは結婚式用の曲を作ってくれたようだ。
神父「それでは新郎新婦、
誓いの口付けを…」
〜Fin〜
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