第2話 俺は役立たず

「あはは、違う違う。

 ほら、手錠の鎖をピンと張って」

意味もわからず言われた通りにすると、

ガチャン!

ボブ王子は斧で鎖を切ってくれた。

「輪っかは邪魔でしょうが、鎖で繋がれたままよりいいでしょう、鍵師の知り合いなんていないんで、とりあえずこれで失礼」

「あっ、ありがとうございます、輪っかはこういう銀ブレスレットだと思うんで大丈夫です!

 でも、どうして…」

「貴方は本物の盗賊にしては色気がありすぎるのよ」

アナベル姫も降りてきていた。

「え、えへへ、姫様にそんなこと言われるなんて…」

「いやいや、イケメン無罪とかそういう意味じゃないから!

 そんな派手な色合いと刺繍な上に、袖がなくてお腹が見える服で、ジャラジャラ音がするアクセサリーをたくさんつけて盗みに来る人なんていないでしょってことよ!」

「そうそう! 俺はあそこで財テク系雑誌の表紙撮影をするから金持ち商人っぽい格好で来て!と言われて、騙されて犯人に仕立て上げられた、ただのモデルなんですよ!

 さすが姫様、聡明です!

 ありがとうございます、だから鍵を開けることはできませんが、車は運転させていただきますね!」

「いえいえ、こちらこそ誤認逮捕とはたいへん失礼いたしました!」

このお二人が統治する未来のハミング王国は明るい。

でも、現国王様は…見損なった。

この旅が無事済んだら無罪放免、で、なかったことにするつもりだろうか。


「ボブ王子は後部座席でアナベル姫様に付き添ってさしあげてください!」

「もちろんそうするよ。

 でも、アナベルに手を出したら本当に首を飛ばすからね」

「手なんて私が出させないって」

「ほんとかなあ?

 だってこの人、モデルだけあってかっこいいし、アナベル、あの逃亡劇の最初の方、俺よりローレンに気がありそうだったじゃん」

「ボブだってかっこいいけど、最初はただのセクハラ発言男だと思ってただけ。

 最後に貴方の命懸けの真実の愛に気付いたのよ」

「えへへへ」

たはは…

王子様と姫様のおのろけとは、凄いもの見た感はあるけど、疎外感が凄いよ。

俺は絶対、人前でのろけるの、やめよ…

「大丈夫ですよ、こちらも妻子がいるし、姫様より10歳も年上なんですから」

いや、例え独り身で同年代で、姫様に惚れることがあろうが

…体力や魔力があり、国を救ったボブ王子に勝てるわけがない。

昨日までの俺は、男からも女からも、かっこいい、カリスマ、と持て囃され、モデルとして社会を潤わせている!と自信満々だった。

しかし、そんな国の危機どころかこの場ですら、筋力のないタイプの見た目の良さや、センスなど何の役にも立たない。

アイドル歌手のローレンか…

同じ芸能人だけあって顔見知りで、俺のファッションを真似されてる感があるので気に食わないが、これに関しては、筋力と料理の腕があるぶん、あいつの方が俺より役に立つだろう

…車ぐらい運転しなくては居た堪れない。

人の価値など、環境で変わる脆いもの。

モデル業からくる自信も…牢獄にぶち込まれ手錠をかけられたショックもあって、一日にしてすっかり消失してしまった。


「さて、となるとどうやって鍵を開けるかな」

ボブ王子が首を捻った。

「そうなのよね。

 エルフ王の力で、斧どころかチェーンソーでも爆弾でも壊せない仕様の扉らしいし」

「街に行って鍵師を探すか…

 聞き込みとかしらみ潰しとか効率悪そうだから、近くの街の地図でもあるといいんだけど」

「うーん、鍵師にこだわることもないのでは。

ローレンって言われて思い出したけど、国の救世主仲間のルイスくんって黒魔術使えるんでしたよね?

 魔術で開けて貰えばいいのでは?」

「それは考えて頼んでみたけど、黒魔術にそんな呪文はないんですって」

あー、やっぱり小悪魔だし、黒魔術と言うだけあって滅びの歌みたいなダークなのばかりで、施錠とか身近な魔法はないのか…

「さてと、今日はもう遅いし車中泊しますか。

 アナベルは後ろで楽にしてて、俺とコーディさんは運転席と助手席で寝るから」

「それじゃ私しか熟睡できなさそうで悪いよ…

 ちゃんと体力回復してくれなきゃ、私だって困るんだし。

 ほら、あっちに宿屋があるわよ、今回はちゃんとお金もあるし行きましょう」

なんかこの宿屋、古くさい赤煉瓦に蔦だらけで怖いんですけど…

ロケ地ならこんな雰囲気もカッコいいけど、泊まるのは嫌だなあ。

でも、二人は全然気にしないな。

どんな修羅場を潜ってきたのか。


ギイイイイイ

「すみませーん」

「いらっしゃいませ」

しかし、受付は意外にもパリッとした紳士的な黒髪の男だった。

俺と同年代ぐらいかな?

内装もよく見るとちゃんと掃除はされてるな。

わざと不気味な雰囲気にしてるのかも?

「二部屋お願いします。

 よーし、今回は堂々と本名を書けるね」

ボブ王子は嬉々として、

ボブ(30)

アナベル(26)

コーディ(36)

と書いた。

ボブ王子から紙を受け取った受付は仰天した。

「…えっ?

 なぜ王子様と姫様がここに?」

「アナベルが懐妊してるけど、ヴァンパイアの俺の子供だから、エルフ王に清めてもらわないと納得しない国民がいるんだってさ!

 エルフ王が何をしたって、別に赤ちゃんが純血の人間になるわけじゃないのにさ!」

ボブ王子がやけっぱちな声で言った。

そうだよな…

ボブ王子だって傷ついてるよな…

「そうよね、ヴァンパイアが人間の血を欲するのが人間に都合が悪い生存本能ってだけで、人間ですらないエルフが、そんなヴァンパイアの血を不浄と認定するわけないもの。

 差別する連中は性格が悪いだけでなく、学もないのよ」

「ほほう…

 僕はクロードと申します。

 他に宿泊客もおりませんし、その話じっくり食堂でお聞かせ願えませんか?」

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