幕間:帰還の馬車にて

「ゆ、勇者様あああああ、ご無事で、ご無事で本当によがっだですうううう!」

「わーっと、シア、ちょ、落ち着け! 落ち着いてくれ! あと照れくさいから抱きつかないでくれ! ほんと照れるから!」

「でも、でもご無事でよかったのでえええええ!」

「わーった、わーかったから落ち着いてくれー!」


 南の砦から王国へと帰還する馬車の中で、シアは勇者の勝利と無事に感極まって、イサムに抱きつき涙が止まらなくなってしまっていた。


「ほーら、シア、落ち着いてー、息を吸ってー?」

「はい……すぅーーー……」

「はいてー?」

「はわぁ~~~……」

「よし、大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です。すみません、落ち着きがなくて……」

「いやいや、気にしないでいいよ。あれだけ喜ばれるんなら、勝った甲斐があるってもんだ」

「本当に、勝ったんですね。良かったです。本当に良かった……!」


 シアのあまりの感激っぷりに、イサムは思わず疑問を口にした。


「なぁシア、あのグリーンデビルって奴、強かったんだよな。なんでわざわざ攻めてこなかったんだろうな」

「それは、今まで普通に相手が勝ち続けていたからだ思います」

「ん? どういうこと?」

「あの砦のもっと南には、たくさんの街や離れ小島などがありました。ですがある日、あのグリーンデビルが現れ、どんどんと滅ぼしていったのです。そしてブラックナイトの理想を体現するかのように、滅ぼされた場所が消えていって……たぶん、勇者様があそこで勝てなければ、南の砦も滅ぼされて王国まで攻められていたと思います」

「あ、そんなにヤバイ実績かさねてたのアイツ?」

「はい。兵士さんたちも戦ったりしたそうですが、剣も弓矢も全然通じなくて……あの南の砦で勇者様と一騎打ちを望んで待機しているというのが、王国にとっての救いでした」

「……今更ながら、とんでもないやつと戦ってたんだな、オレ……」

「そうなんですよ! 勇者様が召喚に応じてくれたから侵攻は止まりましたし、勇者様が勝ってくれたからもう南の脅威はなくなったので、だから、嬉しくて——」

「あーっと、シア、大丈夫だから! オレも無事に勝って身体も異常無いから!」


 また感極まって泣き出しそうになるシアを、イサムは必死になだめた。それと同時に、気を引き締める。


「シア、グリーンデビルに無事勝てたけど、まだ配下は二人残ってるんだ」

「……はい。ブルーメイジと——」


 レッドドラゴン、と続けようとしたシアは、身体がこわばり口をつぐんでしまった。


(無理もない。あんなことがあったんじゃトラウマにもなるか)


 今回の相手は素手だった。だが他の相手には特殊な能力がある。

 イサムはどうすべきか悩んでいたが、その解決法は意外な形で、王国についた時、知らされることになるのだった。

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