第5話:歩き始めた二人
西の大陸の東の果て、誰も居なくなってしまった港町。
魔法で飛んだシアとイサムはそこに流れ着いていた。
「勇者様、ご無事ですか!」
心配そうに声を掛けるシアに対して、イサムは落ち込みながら返した。
「ああ、大丈夫。オレは大丈夫だよ。だけど……」
イサムは、まっすぐシアを見つめて口を開いた。
「ごめん……! 守れなかった! 君の家族や仲間を、全然……!」
そうして瞳が揺れているイサムに対し、シアは微笑みながら、彼の頬を両手で包んだ。
「やっぱり……大丈夫ではないみたいですね。勇者様、どうか、思い詰めないでください。おじい様も言ってたでしょう。相手に、なにか特別な策があるのだと。勇者様の力不足のせいではないのです。結界に頼り、勇者様が万全の準備をできる時間を用意できなかった私達が負けた、それだけのことなのです」
「それだけって……」
イサムはまだ何かを言いたそうにしていたが、シアの眼差しを受けて全てを飲み込んだ。
「わかった、シア。大丈夫。オレはもう大丈夫だ」
「そうですか。なら、よかったです!」
「それで、シア、これからどうすればいいのかオレはわからん。君の考えがあれば聞かせてほしい」
「そうですね、こうなったらもう、王国を頼るしか無いと思います」
「王国……そういえば、村長さんがなんか言ってたな」
「はい。この無人の港町は、私達が逃げてきた大陸の、東端の街です。ブラックナイトや配下に襲われる前に王国へみんな避難したから、誰も居ないのだと思います」
言われてイサムが落ち着いてあたりを見渡すと、町並みは整ったままで、建物が破壊されたりといったような様子はなく、人が生活していても不思議ではない綺麗さのまま残っていた。
一呼吸おいて、シアが話を続ける。
「王国に人々が無事に集まっているのなら、色々な情報も調べられると思いますし、勇者様の役に立つ何かが絶対に得られるはずなんです」
「わかった。その王国へ向かおう。場所はわかるのかい?」
「大丈夫です。この町から北西へ向かえば、そう遠くない内にたどり着けます」
「そっか。ちなみに、聖域の村から逃げたときみたいに、魔法でひとっ飛び、なんてことができたりは——」
「申し訳ありません勇者様。私の魔法は、あの時は
「わかった。大丈夫だシア。できることから少しずつ、始めていこう。二人で」
「……はい!」
イサムはシアの手を取り、彼女が指し示す方へと歩み始めた。
周辺から人が居なくなり、荒れた自然のまま放置されていたせいだろうか。森へ入れば理性を失った野犬や飢えた熊に襲われることがあった。その度にイサムは我先にと
シアも守られるばかりではなく、イサムが怪我をしたら魔法で治療したり、流れが激しく渡れない川などに直面すれば、風を操りなんとか二人で対岸へ飛ぶ。野宿するときに雨が降れば、また風を操り雨水を避けるなどして、お互いを支えながら旅を続けた。
シアの言う通り、あまり日数もかからず目的の王国へとたどり着けた。
だがその僅かな時間の、確かな協力関係こそが、イサムがこの世界にとっての勇者である証であり、シアにとって欠けることのない輝かしい旅路の証だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます