第4話:赤の急襲
イサムとシアは二人で、ゆったりと朝日を眺めていた。
「昨日は、なんていうかその、ありがとうな。ぽっと出のオレをあんなにもてなしてくれて」
礼を言うイサムに対し、シアは出会った当初と変わらぬ態度で好意的に返答した。
「お礼なんてそんな……みんな、勇者様が来てくれたことに感謝しているだけです」
「……オレはまだ出会ったばかりだ。何もしてないし、何ができるかもわかっちゃいないんだぜ?」
「それは当然です。勇者様はこちらの世界に来られたばかりなのですから。みんなもその事は肝に銘じてます。だから——」
シアはイサムの目を真っ直ぐ見つめて、真剣に、だがあいも変わらず穏やかに——
「これからゆっくりと、この残った僅かな世界を歩んでいただければ、それで良いのです」
心からの思いを伝えるのだった。
真摯な声と、純粋な瞳に、イサムが照れて視線をそらそうとした、その瞬間——
——大地が揺れ、空がひび割れ、得体のしれない重く激しい咆哮が響き渡った。
「なんだ!? 何が起きてる!?」
イサムは咄嗟に
「レッドドラゴンじゃ! ブラックナイト配下のレッドドラゴンが攻めてきおった!」
「レッドドラゴン!?」
「そうじゃ、シア。勇者様を連れて逃げるのじゃ! 結界がもう保たぬ!」
そういって村長はシアにイサムを連れ出すよう促した。シアも迷いなく従おうとしたが、状況が飲み込めないイサムは踏みとどまり、村長に聞き返した。
「待ってくれ。レッドドラゴンってなんだ。それって、勇者であるオレが立ち向かうべきなんじゃないのか?」
「勇者様、その
「それで逃げろって言われても——」
二人のやり取りは、無常にも空が砕け散り、赤き竜が現れたことで終りを迎えた。
「やはり、勇者を呼び出していたのか、聖域の者どもよ」
鋭くおぞましい爪を持つ四つの足に、煌々と輝く二つの翼を持つ、尋常ならざる巨体にして人ならざる姿の口から、重々しく人の言葉が発せられる。
「おかげでなんとか結界を突破する事ができた。やはり勇者の召喚には
そうしてイサムを睨みつけたレッドドラゴンに対し、村長はシアへ逃げるように手振りで伝えながら、かの者の前に歩み出て対峙する。
「この二人を殺らせはせんぞ。命にかけてもな」
「ジジイ、勇者と巫女を逃がすつもりか。かまわんぞ。我が目的は
「? どういうことじゃ。何故わざわざ回りくどいことを」
「貴様に教えてやる義理なぞ無いわ。燃えて死ね!」
その叫びと共に、レッドドラゴンの口から激しい炎が放たれたが、村長はこれを光の壁のようなもので防いでいた。
その隙を見てイサムは、高速で横から回り込み、手にした
「ぐっ、流石は勇者と認められるだけのことはある。我が鱗にかすり傷を与えることができるとは」
同じ箇所を集中攻撃しても、傷の再生速度が異常に早く、何度やっても致命傷を与えられそうな気配はなかった。それを確認した村長が、シアへ強く言い放つ。
「逃げるのじゃ! 勇者様を連れて!」
「はい! おじい様!」
そうしてシアがイサムを抱きしめながら、なにか呪文のようなものを呟くと、二人の身体が風で飛ばされるかのように西の方角へと飛んでいった。
「まってくれ爺さん! オレはまだ何も——」
なんとか助けられないかと思うイサムの意思とは関係なく、シアとともにその場から離れていった。それを確認した村長は、心の底から安堵して、目の前の赤き竜に向き直った。
「これで良い。勝手に異世界から召喚されて、こちらの都合で即座に命を落とされては申し訳ないからのう」
呟いた村長に対して、レッドドラゴンは怒りを含みながら言い返した。
「そんな殊勝な考えを持つくらいなら、最初から異界の人間に頼らず滅びを受け入れていればいいだろうが。だから
「確かに、否定しきれん。じゃがのう、黙って滅びてやるほど、ワシらは潔い存在ではないのでな!」
その会話を最後に、空も海も大地も割れそうな轟音が響き渡る。
シアの魔法で空を飛ぶイサムが見たのは、白い光と赤い炎の二色に分けられた空が、やがて島全体ごと赤ひとつに染まっていく、破壊への未来だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます