第五章 陰謀の足音──幕府と仕手筋の動き

一方、幕府では老中や勘定奉行が集まる評定所で、こんな話題が持ち上がっていた。

「近頃、江戸の町に“怪しげな相場師”が現れているそうだ。越前屋も出し抜かれたとか」

「米相場が過熱すれば、市中の物価にも影響が出る。下手に騒ぎを大きくされては困るな」

「いっそ、取り締まってしまえばよいのでは?」

だが別の老中は「待て、逆に利用できぬか? 財政再建のためにも新しい手法があれば、我らが儲けることも可能だ」と画策する。


そう、幕府は借金やら財政難やらで首が回らない状況。そこに現れた新手の相場師がうまいことやっているらしい……ならば取り込む手もあり得るというわけだ。

いずれにせよ、“幕府の目”が俺たちに向き始めているのは間違いない。


越前屋の本店でも、頭を抱える番頭たちが議論していた。

「まさか、あの若僧に一本取られるとは……」

「旦那(越前屋の主)に睨まれたら大変だぞ。なんとか落とし前をつけなきゃ」

彼らは相場に強い者を雇っており、仕手戦や情報操作も厭わない。いずれ俺を陥れるか、あるいは屈服させようと狙っているようだ。

「夜盗でも雇って脅してみるか? あるいは塾ごと潰すか……」

陰険な笑みとともに、俺たちへの包囲網が徐々に狭まってきている。

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