第13話

 家の前まで来て、バイト帰りの兄とばったり会った。

「瑠璃」

「あ……」

「こんな時間まで何やって」

 言葉が止まった。

 兄の目線が私ではなく、博くんに向けられたから。

「お前か」

「お久しぶりです、白井先輩」

「博。瑠璃を連れ出すのはいいけど、時間考えろ」

「ちょっとお兄ちゃん」

「お前はもう家に入れ」

 そう言って、私を家の中に入れようとする。

「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。連れ出されてなんかないし。博くんは悪くないんだからっ!」

「瑠璃!お前は黙ってろっ!」

 大声を出す。

 そんな私と兄のやり取りに、笑ってる博くん。実は中学の時、博くんと兄は同じサッカー部の先輩後輩だった。だからこんな私たちのやり取りを、中学時代から知ってるんだ。

「相変わらず、瑠璃は愛されてるなぁ」

 ポツリと言う博くんに私は反論。

「どこがっ。横暴なだけじゃない」

「瑠璃は分かってないなぁ。中学ん時から有名だったんだ。白井先輩は妹の瑠璃を溺愛してるって」

「えっ」

「知らなかった?」

「知らないし。そんなこと、言われると困る」

「あははっ」

 私と博くんのやり取りを聞いていた兄は、間に入って来た。

「博。お前に瑠璃は渡さないぞ」

 博くんの顔をじっと睨む。

「先輩。でも俺は瑠璃の彼氏ですから」

 そう言って、私を見る。

「な。瑠璃」

 そうふられて、私は顔を真っ赤にする。

「じゃ、先輩。瑠璃はちゃんと送り届けました。ではまた」

 そう言って、彼はきびすを返して来た道を戻って行く。私はその後姿を、見えなくなるまで見送った。



「まだ付き合ってたんだな」

 博くんの姿が見えなくなると、お兄ちゃんはそう言った。

「何よ、それ」

「お前は、アイツのどこがいいんだ」

「お兄ちゃん、博くんは後輩でしょ。なんで後輩を悪く言うの」

「後輩としてはいいんだけどさ。お前の彼氏としては……」

 ゴモゴモと何が言ってる。

 そんなお兄ちゃんをほっといて、さっさと家の中に入る。



 家の中に入ると、父がもう帰って来ていた。

「瑠璃」

「親父!聞いてくれよ、こいつこの時間まで博と一緒にいたんだぜ」

「なによ、いいじゃない」

 プイと横を向く。

 そんなやり取りをしていたら、母がキッチンから顔を出す。

「あら。じゃ、上がってもらえばよかったじゃないの。ねぇ、パパ」

「……こんな時間だぞ」

「いいじゃないの」

「あちらのご家族が心配するだろうが」

「連絡さえ入れておけばいいじゃない」

 なにやら、このふたりが言い合ってる。

(あのね、今日はもう帰ったんだけど……)

 呆れながら私は部屋へと戻る。部屋に戻った私は、スマホを見る。メッセージアプリを開いて、博くんにメッセージを入れた。



《さっきはごめんね、お兄ちゃんがあんなこと言って》



 そう送った。

 そのメッセージに対して、すぐに博くんからの返信が来た。



《瑠璃は白井先輩に愛されてるんだよ。誰が見ても》



 だから、そうじゃないんだってばーっ。お兄ちゃんは横暴なだけだって。いつもあの兄に、いろんなことを邪魔されるような気がする。

 受験勉強していた時も、勝手に部屋に入り込んで邪魔された。友達が来ていても、邪魔しに部屋に入り込んで。困った兄。

 でもこんな兄でも、いてよかったと思うんだ。




「瑠璃」

 やっぱり部屋に入って来た。

「もうっ。お兄ちゃんっ!部屋に入って来ないでっ!」

 追い出そうとするが、お兄ちゃんの力には敵わない。

「いいから、ちょっと、話あんだからさ」

 強引に部屋に侵入して来た。


 もう。

 普通、年頃の妹の部屋に入るもん!?

「なによ。お兄ちゃんがいると着替えられないんだけど」

 私はまだ制服のまま。

 それなのにお兄ちゃんは強引だから、こうして私の部屋のベッドに座り込んだ。

「またベッドに座る~」

 呆れてため息を吐く。



「お前さ、博とケンカしてたんじゃねーのか」

「え」

「ケンカしてただろ。最近」

「なんで……」

「ちゃんと知ってるよ。お前、分かりやすいし」

 私は黙った。

 こんなお兄ちゃんでも、分かるくらいだったのだろうか。

「でもその様子だと仲直り、したみたいだな」

 お兄ちゃんは私を見て、そして笑った。

「兄ちゃんは、お前がいつも幸せでいることを祈ってるからな」

 立ち上がって、私の頭をクシュクシュとする。

 それが昔からの兄のクセで、なんだか小さい時に戻ったみたいで、照れくさかった。

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