第13話 神崎会長が何かおかしいと思うのは自分だけだろうか?

文化祭の盛り上がりは最高潮に達し、会場は多くの来場者で賑わっていた。神崎会長は、いつもの冷静な表情を保ちながらも、会場の全体を見渡し、スタッフや生徒たちに的確に指示を出し続けていた。


しかし、その時だった。彼女は、飾り付けの最終確認をしている最中、ふと手に持っていた資料を見失い、慌てて周囲を見回した。


「…あれ?どこに置いたかしら…」と、つぶやきながら、彼女は一瞬、焦った表情を浮かべた。


その瞬間、彼女は自分の足元に目をやると、何かを踏んでしまった。慌てて足を動かすと、彼女はバランスを崩し、少し後ろに倒れかけた。


「きゃっ!」と声を上げた彼女は、なんとかバランスを取り直すことができたが、その動作は少しぎこちなく、普段の堂々とした立ち振る舞いとは異なっていた。


周囲のスタッフや生徒たちも一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐに気づき、さっと彼女のもとに駆け寄った。


「神崎会長、大丈夫ですか?」と、風間くんが心配そうに声をかける。


彼女は少し照れくさそうに笑いながら、「ええ、大丈夫よ。ちょっと足元を見ていなかっただけ」と答えたが、その目はどこか恥ずかしさと戸惑いを隠しきれなかった。


その後も、会場の案内板を指さそうとして、手が少し震えたり、書類を取り落としたりしていた。


神崎会長は、少し照れくささを隠すように笑みを浮かべながらも、心ここにあらずといった感じだった。そんな彼女に、風間くんが真剣な表情で声をかけた。「会長、大丈夫ですか?無理しないでくださいね。」と、優しくも気遣う言葉を投げかけた。 しかし、彼女はそれを聞くと、突然、目を細めて不機嫌そうに鼻を鳴らし、低い声で言った。「あら、いつ私を心配するほど偉くなったのかしら。あなたは、忠犬みたく私の言う事だけ聞いてればいいの」と、まるで犬を罵るかのように、冷たく、しかしどこかからか意地悪な笑みを浮かべながら言い放った。

 風間くんは一瞬、戸惑いながらも、「え、えっと…」と返そうとしたが、彼女の鋭い目つきに圧倒され、言葉を詰まらせた。「ほら、早く動きなさい。私の言うことくらいちゃんと聞きなさい。あなたは、私の命令を待つ忠実な犬なのだから。」と続けると、彼女はふっと笑みを浮かべて、冗談めかして言った。「まあ、冗談よ。でも、私のこと心配してくれるのは嬉しいわ。だから、もう少しだけ、私のことも気にかけてちょうだいね。」と、少しだけ優しい表情に戻った。このやり取りに、周囲のスタッフや生徒たちも微笑ましい様子で見守っていた。 

 だけど、風間君にはいつもの会長らしくないと思えた。

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