第3話

あぁ、あんなに強く「絶対に遅れません」といったのに。あんなに楽しみにして時間がなかなか過ぎなかったのに。

何度も時計を確認していたのに。

気づいたら16時を過ぎていた。


私は走る。すぐに息が切れ、走るのも歩くのも速さは変わらなくなっても。少し立ち止まっては走る。

ここの棟の向こう。あの角を曲がったら。


そこは、全く違う噴水のある広場。

迷っている。

泣きそうな気分だ。

きっともう一つ先の角だ。鼻水も出そうになりながら走る。見慣れない景色。ここも違うと力が抜けそうになりながら曲がると、あった。


でも、様子が違う。幕を下ろしたり片付け始めている。騒がしく移動する人達の中を探すが、あの人はいない。

一人、金髪の目立つ人がいる。茶道部の部長だ。

「すいません。"武士の野点"を16時で予約していたのですが、アカオ会長は」

サラリと金髪をなびかせ、茶道部部長は微笑んでこちらを見る。

「え?今何時だと思ってるの?16時30分過ぎだからもう、終わりだよ」

首を傾げてさらに続ける。

「会長?ってアカオ君の事?あ、同好会だからか。」

なんだかチクチクと痛い言葉を使われる。

が、あの人の場所を知っているらしく案内してくれる。案外親切だ。


「あいつね。結局自分の企画は人気無くて、予約した人もこないし」私をニッコリしながら振り返る。

「前から調子悪かった排気口の様子見るって上へ上がっていったよ」


階段を上がり、行きついた踊り場には狭い空間が更に上へつながっていた。

「生徒がやる事じゃないのにね」

上を見上げる。

ステープラーの針みたいなハシゴが続いている。こんな所があったのか。


「私はアカオ君が上がって行ったかは知らないからね」

「じゃあ、幸運を」部長は責任を負いたくないのだろう。軽やかに髪をなびかせて階段を降りていった。


あの人も使ったであろう脚立に登ると、鉄のハシゴに手をかけた。

「あの…今からそちらに登ります!」

私の声が響く。

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