chapter12~『ドキドキ☆初デート』ってそんなPCソフトがあっても買ったことないよ~
「・・・」
「・・・」
「・・・」
今日は図書室の当番だ。僕はカウンターに座って貸し出しカードの整理をしている。
カウンターの前の席には輝紗良先輩と翼さんが向かい合って座っている。
輝紗良先輩は小野透子作の本を読んでいる。翼さんは授業の予習をしているようだ。
何,この緊迫感・・・。
最初は何人かいた他の生徒も,その物々しい雰囲気に足早に去って行った。
僕だって,立ち去りたいよお・・・。
「ふふ・・・,ふふふふふふふふふっ」
本を読み終えた輝紗良先輩が不気味に笑い始めた。
なんなのっ?
「・・・なるほどね。改めて読むと小野透子の好みがよく分かったよ。確かに衛少年はドストライクだな」
「そうですか」
翼さんはノートに書き込む手を休めずに,生返事をしている。
「・・・ソ,ソウナンデスネ」
僕は苦笑いで答える他ない。
「出てくる少年はみんな庇護欲を掻き立てられるようなタイプばかりだ。これじゃまるでヒロインじゃないか!」
「そうですか」
「・・・ソ,ソウデスネ」
「少年も全くとんでもない輩に目を付けられたものだ」
「そうですか」
「・・・ソ,ソウデスネ」
ホント,勘弁して下さい。
「うーん,どうすればあやつから少年を守れるだろう?」
「そうですね。じゃあ衛クン,土曜日,デートしましょう」
「・・・ソ,ソウデスネ」
ん?
「良かった。じゃあ駅前に10時ね」
「え?」
「エ?」
翼さんは流れるような動きで勉強道具を鞄にしまい,スタスタと図書室を出て行った。
「え?どういうことだ,山吹嬢!おいっ!」
輝紗良先輩が慌てて廊下に出て叫ぶが,既に翼さんの姿は見えなくなっていた。
「いったいどういうつもりだ彼女は!これじゃ抜け駆けもいいところじゃないか!」
「まあ輝紗良先輩,落ち着いて・・・。
「これが落ち着いていられるか!まさか少年,行く気ではないだろうな?」
「えーと・・・?」
「すぐに断りの連絡を入れたまえ!」
「えーっと。・・・知らないです」
「何?」
「知らないです。翼さんの連絡先・・・」
「は?君に彼女宣言しているのにか?」
「はあ・・・」
言われて見て初めて気付く。
翼さんに彼女宣言されて1週間ぐらい経ったけど,連絡先を交換してとも言われていない。
「よくそれで君の彼女を標榜できるものだな。私だったら住所も部屋の間取りも下着のラインナップも全部教えるぞ!」
「いや,それは結構です・・・」
先輩のキャラは完全に別物になったなあ。それにも慣れたきたけど。
「とにかく明日にでも話をしてみます。行くかどうかはそれから決めます」
「お,おう・・・。」
先輩もそれ以上追求する気もなかったようで,気が付けば下校時間になっていた。
ところがどっこい。
翌日もその翌日も,翼さんと話をする機会が訪れなかった。
避けられているようではないが,なんか話すタイミングが掴めない。
いや,外されている?
昼食の時間も教室を出ていって,別の場所で食べているようだ。
「山吹さん,もう衛のことあきらめたのかしら?」
もうそこにいるのが当たり前のように,僕と巧の合わせた机に弁当を広げて食べている美咲が言う。
「そうかもね・・・」
「「よしっ!ライバルが一人減ったっ!」」
美咲と巧がガッツポーズでユニゾンする。
「・・・やっぱり竜崎君,妹さんじゃなくてアンタ本人が衛を狙ってるんじゃないの?」
周りの女子から「やっぱり?」「そうだと思った!」と小声で話しているのが聞こえる。
「いや待ておいっ!俺にはちゃんと彼女がいるぞっ!」
「偽装恋人とか?」
「ちっがーう!」
翼さんがいたら飛びつきそうなネタだ。
「まあなんだ,衛。これで俺の義弟に一歩近付いたなっ!」
「偽装結婚・・・」
「羽原てめえ,山吹みたいな想像やめろ!」
なんだかんだで巧も二人と仲良くなって,こうして呼び捨て出来るようになっていた。
「ところで衛っ!明後日の約束,忘れてないよね?」
「明後日?・・・ああ,春季大会の予選か」
「そうっ!絶対来てよねっ!」
「ああ,うん,分かった」
「よしっ,頑張るぞおっ!」
「俺も練習試合がなければなあ・・・」
「竜崎君はヒマでも来なくていいですっ!マネージャーの彼女とイチャイチャしていなさいっ!」
「ははは・・・」
なんか最近,美咲のキャラもはっちゃけてきたなあと思いながら,弁当箱の蓋を閉めた。
「さようなら」
「え?」
下校の支度を済ませて席を立つと,帰り際の翼さんとすれ違う。いつもの柑橘系の香りがした。
「あ,さよなら」
「・・・衛クン,明日は必ず来てね」
そう言うと,返事も聞かずに教室を出て行った。
「明日って?」
巧は何のことだか分からないと,僕に聞く。
「デートの約束・・・」
「デートだとっ!?」
驚く巧に生返事をして,僕は呆然としていた。
凄くさみしそうな顔をしていたな・・・。
さて翌日。
結局,翼さんに断ることが出来なかったので,僕は仕方なく駅前に来ていた。
まだ少し早いな。
(ちっ,本当に来るとはっ!)
(全くね。)
(はあ,何者だ?)
(貴方こそ誰よ?)
(名乗ってなかったか?私は黒峰輝紗良,あの少年の先輩だっ!)
(私は小野透子!彼の扶養者よっ!)
(は?)
(は?)
(貴様,ゴスロリ衣装はどうした!そんな格好じゃ,ただの清楚なお嬢様じゃないか!?)
(あなたこそ眼鏡を外して髪を上げたら,どこぞのOLじゃない!)
(・・・)
(・・・)
(なんで,今日のことを知った?)
(昨日,山吹翼から連絡が来たわ。)
(え?連絡先を交換していたのか?少年ですら知らないのに?)
(・・・まあ,いろいろあってね)
(まあ,詳しくは聞くまい。それよりも,だ!)
(それよりも,ね!)
そんなやり取りが,駅前公園の茂みの影で行われていたとは知らなかった。
「衛クン,お待たせ!」
改札を抜けて翼さんが満面の笑みで駆け寄ってくる。
彼女の私服は淡い水色のワンピースで,よく見ると所々に同色の糸で鳥が刺繍されている。白い踵の高いサンダル,肩から掛けるえんじ色のハンドバッグがマッチして,それだけでファッション誌の一面を飾れそうなくらい綺麗だった。街ゆく人々も,ついつい振り返って見てしまうくらいに。
「・・・あ,ああ,今来たとこ」
(嘘を言うなっ!30分も前に,来ていたじゃないかっ!?)
「ん?」
「どうかした?」
「いや,何か声が聞こえて・・・」
「気のせいじゃない?さ,行きましょっ!」
(な,な,な,何て自然に腕を組むのかしらっ!?)
「?」
「また聞こえた?でもそれは私の鼓動かもしれないわよ」
翼さんが腕にぎゅっと胸を押しつけてくる。
いや,僕の鼓動の方が大変なことになってますけどっ!?
(初手からやるな,山吹嬢・・・)
(ぐぬぬ・・・)
「で,どこに行くのさ。」
「いいトコっ!」
(いいトコ?まだ陽が高いのに,ラブホ・・・っ!?)
(この駅前に,そんなのないわよ)
(よく知っているな?)
(調べたから?)
(調べるなっ!)
翼さんが僕を連れてきたのは,最近出来たばかりのファッションビルだった。
「ここ?」
「そう!今日は衛クンに,お洋服見立ててもらおうと思って」
「え,そんなの分からないよ。僕センスないし・・・」
「あら,今日のファッション,とってもイケてると思うわよ」
今日の僕の服装は,色Yシャツに薄手のカーディガン,チノパンツにスニーカーという,とても褒めようのないファッションだ。
それだって,母さんに最終チェックしてもらって,ようやくOKもらえたのに。
(うん,清潔感のある服装は,少年にピッタリだぞ)
(本当にいいわね。まさに私好み。・・・ジュルリ)
(涎を拭け・・・。)
まだ僕には,幻聴が聞こえるようだった。
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