chapter11~ここに来て新キャラ登場ってなんのテコ入れかと思わなくもない~

「全くあなたたちは何をやっているの!」


 狭い生徒指導室に氷上先生の怒声が響く。


 翌日の放課後。僕と巧,美咲,翼さん,そして輝紗良先輩はずっと説教を受けていた。


 あまりに氷上先生の剣幕が凄いので,同席している生徒指導の大山先生が「まあまあ落ち着いて」ととりなそうとするぐらいだ。

 いつもは大山先生の方が厳しいんだけどね?


とにかく,彼らも反省しているようですから,ここは一つ穏便に・・・。」

「大山先生,学園は学びの場です!色恋にうつつを抜かして勉学がおろそかになるようでは困ります!」

 うわお。大山先生にまで怒りの矛先が向いちゃったよ!?


「・・・氷上先生も当事者の一人じゃありませんか?」

 教頭先生の冷たい声が生徒指導室に響く。

「くっ・・・!」


 その後,30分くらい説教が続いた。大山先生まで含めて・・・。

 結局,各自反省文を明日までに提出するように言われて,僕らはやっと釈放されたのだった。




「しかしあれだね。どうして小野透子氏と少年は知り合ったんだい?」

 放課後,図書室で輝紗良先輩に聞かれた。


「私というものがありながら,どういうことのなのかしら?」

 翼さんも詰め寄ってきた。

 うっ,胃が・・・。

 巧と美咲は部活へ行ったので,僕らは図書室で話し合っていた・・・,いや,僕が尋問を受けていた。


 珍しく何人かの生徒の姿もあったが,みんな読書も勉強もそっちのけで僕らに注目している。

「か,母さんが,透子さんとこの間対談して・・・」

「濱口先生が?」

「透子さん?」

「ひっ!」

 怖い!


「そ,その時,透子さんの本を読んだ感想を母さんに伝えたら・・・」

「続けて」

「母さんがそれをそのまま透子さんに言っちゃって,怒らせちゃったんです・・・」

「よほど厳しい書評を言ったんだね」

「なんでそれで小野透子が衛クンを好きになるのかしら?」

「ひっ!」

 圧が凄い・・・!


「翌日,真緒さんと一緒に呼び出されて・・・」

「ほほう?」

「真緒さんって誰よ?」

「ひっ!」

「濱口先生の担当編集の,童顔巨乳の女性だ」

「巨乳・・・」

 翼さんが自分の胸を見る。

 十分負けてないですっ!


「しかも彼の失恋した相手だ」

「え?」

「ぐっ!」

 翼さんに襟首を掴まれた!?


「ちょっと待って,失恋した相手とゴスロリ作家のところへ行ったら告白されたって,どういうシチュエーションなの?そんなラノベ,読んだこともないわ!?」

 翼さんの疑問もごもっともです。

 でもそんなラノベ,探せばあるんじゃないかなあ?


「なんでそんなふうに思ったか理由を説明したら,妙に気に入られちゃって・・・。もっと怒ると思ったのになあ」

「・・・少年の文学批評は鋭いからなあ。作品の本質を突かれては,作家として感心するより他は無かったということか」

「そういうものなんですか?」

 なんか輝紗良先輩と翼さん,いつの間にか仲良くなってない?


「それに彼女は特殊性癖だ」

「特殊性癖?」

「年下の少年が大好きな,所謂ショタコンだ」

「ショタコン・・・」

 ショタコンとは正○郎コンプレックスの略です。


「山吹君,君は彼女の小説を読んだことはないのかい?」

「ええ,残念ながら・・・」

 翼さんはラノベ専門だもんねっ。


「彼女は恐ろしいペースで新作を刊行するが,どれも年上の女性と少年の恋物語ばっかりでね」

「そういうジャンルがあるのは知っているわ。主に同人誌で」

 18禁じゃないよねっ?


「彼女のような性癖の持ち主が,衛少年に出会ったらどうなるか・・・」

「間違いなく,惚れるわね」


 何でーっ!?


「サラサラの髪,つぶらな瞳,あどけない幼さの残る顔立ち。見てるだけで・・・」

 だんだん翼さんの息が荒くなる。

「山吹君,落ち着きたまえ。みんな見ているぞ」

「コホン,失礼・・・」

 こ,怖いっ!?

 巧っ,助けてっ!!




「ふう・・・,もっと聞きたいことはあるんだが・・・」

「続きはまた明日かしら」

「いやっ,もう話すことはありませんっ!」


 僕は脱兎のごとく,図書室から逃げ出した。


「あっ,少年!」

「衛クン!」

「さようならー,ならー,ならー・・・!」


 図書室を出るとき,室内にいた生徒達の大きなため息が聞こえた。

 みんな読書か勉強しろよっ!?




「はあ・・」

 ため息をつきながらトボトボとテニスコート脇を歩いていた。

 なんか最近こんなんばっかりだな。


 コートでは女子テニス部が練習をしている。

 試合でなくともスコート姿の部員が多い。

 男子から好奇の眼差しで見られているのは,彼女たちもよく分かっているんだろうな。

 少し日に焼けた太腿を惜しげも無く晒して,元気にコートを走り回っている。

 後ろに控えているのジャージの生徒は1年生だろうか。


「次,お願いします!」

 一際響く元気な声に目を向けると,ピンクのウェアに身を包んだ美咲がサーブを受けていた。


「頑張ってるな・・・。」

 ウェアの効果もあるのだろうが,テニス部の女子はみんな可愛い。

 その中でも飛び抜けて,美咲の可愛さはみんなの目を引く。

「・・・。」


「先輩?」

「はあ・・・」

「先輩っ!?」

「はあ・・・」

「衛先輩ってばっ!」

「はあ・・・,え?」


 気が付けば,ジャージ姿の女の子が,僕の顔をのぞき込んでいた。


「せ,芹夏ちゃん?」

「もう先輩ったら,ずっと呼んでいるのに気付いてくれないんだもんなっ!」


「はい!あなたの可愛い後輩,日野芹夏でーすっ!先輩,テニス部を見学するのはいいですけど,盗撮をするのはダメですよっ?」

 明るい声で物騒なことを言う小柄な女子生徒。

 上はジャージだが下は短パンだ。

 肉付きの良い太腿がすらりとしている。


 彼女の名前は日野芹夏ちゃん。

 入学したての1年生。

 女子テニス部員の一人である。

 中等部の頃からいつも美咲に引っ付いて,僕にもよく懐いてくれていた。

 美咲と距離を置くようになってからも,いつも僕に話しかけてくれた。

 とてもよい子だ。

 

 美咲に凄く憧れて,髪も真似してポニーテールを結っている。

 あまり伸ばすとお手入れが大変なんだそうで,美咲に比べると若干短い。

 まあミニ美咲と言った感じだ。

 小柄だがスタイルも良く,ルックスも1年生では上位に入るのではと思う。


「先輩,何か考え事ですか?って,あれかー」

「はは・・・」

「すっかり学園中の有名人ですよね」

「はは・・・,全くね」

「いやあ,美咲先輩が衛先輩のこと好きなのはみんな知ってましたけど,こんな大事になるとは」

「みんな知ってたの?」

 僕は知らなかったよ!?


「テニス部では有名な話ですよー。だから男子部員は,みんな遠慮してたくらいなんですからっ!」

「へー」

 まあ,美咲はモテるからな・・・。

 

「テニス部のアイドル,図書室の女王様,ゴスロリのベストセラー作家,友達の妹,あとはもう一人,あの綺麗な人,山吹さんって言ってましたっけ?」

「・・・クラスの学級委員長だよ」

「しかも氷上先生まで!」

「それは,どうなんだろうね・・・」

「ひゃあ,属性のバリエーションが半端ないですねっ!」

「バリエーションって・・・」

「足りないのは・・・,あ,後輩属性か!?」

「いやいや,これ以上は勘弁してよ」


「で,先輩の本命は誰なんですか?」

「本命も何も・・・。みんな僕にはもったいない人だよ」


 コートで練習している美咲に目がいっていまう。

「美咲先輩は2年で,もうレギュラーですからねえ。本当に凄いなあ・・・」

 二人の視線の先には,コートを縦横無尽に走り回る美咲の姿。

 ボールを打ち返す度に,その立派な胸が揺れるのが分かる。


「先輩・・・。目つきがいやらしいですよ?」

「そ,そんなことはないよ!」

「美咲先輩のおっぱい,おっきいですよね」

「何を言ってるの?」

「わ,私ももっと大きくなりますから楽しみにしていて下さい!」

 自分の胸に手を当てて,そう宣言する。


「そ,そう・・・?」

 芹夏ちゃんの胸は,年齢の割にはまあまあ大きい方だと思う。

 比べる相手が悪い。

「まだまだ成長期ですから!大きくなったら1回ぐらい揉ませてあげますからね!」

「はいはい。楽しみにしてるよ・・・」

 慎みをもちなさいっ!


「もうっ!先輩は私にもっと優しくしていいと思いますよ!」

「は?」

「後輩枠は私が取ってもいいですか?」

「ほんと何を言ってるの?」

「クスクスっ。先輩,やっぱり可愛いなあっ」

「からかうのはいい加減にしてよ。芹夏ちゃん,部活サボってていいの?」

「サボってるんじゃありませーん!1年生は球拾いか道具の整理しかさせてもらえないんでーす!」

 つまり芹夏ちゃんは,道具係という訳か。


「とはいえ,ここで先輩とお喋りしてたらサボってると思われるかもしれないので,名残惜しいけど失礼しますね!」

「うん,頑張ってね」

「はいっ!先輩また今度!」

 芹夏ちゃんは元気に手を振りながら走り去っていった。




 コートにいる美咲の目が,僕らを見ていたような気がするが,まさかね。

「痛っ!」

 美咲が飛んできたボールにぶつかったようだ。

 ちゃんとボール見ろよー・・・。

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