chapter9~敵機襲来!パターン『黒』!?~

「はあ・・・」




 今日はなるべく始業ギリギリに学校へ行こうと,ゆっくり通学路を歩く。

 周りは高等部や中等部の生徒が,同じ方向を向いて歩いている。


 きっと教室へ行ったら,みんなに注目されちゃうんだろうな?

 美咲や翼さんはどんな顔しているのかな?

 輝紗良先輩に会ったらどういう顔をすればいいのかな?


 いろいろなことが頭の中をぐるぐる駆け巡っていた。


 そんなことを考えながら校門にさしかかると,一人の女の子が立っていた。


 サラサラの黒髪。

 色白の肌。

 すらりとした体型。

 誰が見ても『美少女』と呼ぶにふさわしい。

 着ている制服は中等部のものだった。

 その子は僕を見つけると,ニッコリ笑って会釈した。


 誰だっけ?


 どこかで見たことがある気がした。

 声を掛けるべきか迷っていると,その子の友達であろう他の子が声を掛け,二人急いで中等部の校門に走り去っていった。

 まあ,グズグズしていると遅刻しちゃうもんな。




 教室にたどり着いた。

 着いてしまった。


 恐る恐る扉を開けると,みんなの注目が一斉に僕に集まる。

「衛っ!」

「衛クン!」

 美咲と翼さんが同時に席を立つ。

 教室内がざわめきに包まれた。

「衛,もう大丈夫なのか?」

 巧も立ち上がって僕に声を掛けてくれた。

「巧い~!」

 僕は思わず巧に駆け寄る。

「「えー・・・」」

 美咲と翼さんは呆然とする。

 一部の女子から黄色い歓声が起こったことは知らなかったことにしよう。




「昨日はゆっくり休めたのか?」

 放心状態から醒めると,既に放課後だった。

「今更?」

「だって今日はあの二人がお前にべったりだったからなあ。」

 そうですね。

 申し訳ありません。

 詳細は省きます。


 そんな時だった。


「おい,あれ・・・?」

 巧が窓の外を見て口をパカンと開ける。


「どうしたの?」

「え?あれって,ゴスロリ?」


 何だって!?


「おい衛,ゴスロリの美女が,校門のところに立っているぞ!」


 まさか!?


 下校の用意をしていた翼さんと美咲も窓に駆け寄る。

「わあ・・・。私,ゴスロリって実物は初めて見たわ」

「アタシも・・・」

 僕も立ち上がって窓の外を見る。


 やっぱり!!


「小野,透子先生・・・?」

「「「え?」」」

「悪い,ちょっと行ってくる!」

「衛?」

「衛クン!」

 不思議がる3人をあとに,僕は教室から駆け出した。




「・・・小野先生!」

 こんなに全力疾走したのは久し振りだ。

「来てくれて良かったわ。不審者扱いされたらどうしようかと思っていたの」

 いやいや,十分不審者ですって!?


「ど,どうして,学校に・・・?」

「好きな人にに会いにきたに決まってるじゃないの」

 事もなげに言い放つ。


「・・・はあ?」

「もちろん君のことよ」

「どういうことですか?」

「あの日,あなたに出逢ってから,あなたのことが忘れられなくて・・・」

 うっとりとした表情をする。

「おかげで,新作も完成したわ!私の最短記録よ!?ぜひ最初の読者はあなたにお願いしたくて!」

 すごく分厚い茶封筒をよこされる。

「は,はあ・・・?」




 校舎の窓から多くの生徒が顔を出して,僕らを眺めている。

 周りにも下校途中の生徒が野次馬となって遠巻きに見ている。

 校門の外には中等部の生徒まで集まってきた。


「とりあえず,お帰り下さい小野先生!」

「あら,つれないわねえ。そ・れ・に」

「それに?」

「『小野先生』なんて他人行儀な呼び方はやめて名前で呼んで欲しいわ」


 わお,デジャブ!?


「分かりました,透子・・・さん。分かりましたからっ!」


 なんとか透子さんを追い返そうとしていると,野次馬の中から一人の女子生徒が歩み出てきた。

「そこの不審者!衛少年に何を絡んでいるのかっ!」

 この声は・・・?


 やっぱり輝紗良先輩だった。


「あなたこそ何よ?」

「彼は私の先輩だっ!」

「ただの先輩が。二人の逢い引きを邪魔しないで欲しいわ」

「逢い引っ・・・!ただの先輩ではないっ!」

「じゃあ何かしら」

「私は彼のことが好きだっ!」

 校内中に響き渡るような大声で輝紗良先輩が宣言する。

 野次馬からどよめきが起こった。


「ちょっと待ってっ!」

「「「え?」」」

 二人の間に割って入るように美咲が駆けてきた。

 追ってきたのか・・・。


「アタシだって衛のこと大好きよっ!」

 更にみんなどよめく。

 そりゃそうだよね。


「彼女は?」

「・・・幼馴染みです」

 透子さんの質問に正直に答えた。


「はっ,君は『テニス部のアイドル』とか持ち上げられている,羽原美咲君だったか?」

「あなたこそ『氷の女王様』とかビビられている黒峰輝紗良先輩ですよね!?こんなことしたら大騒ぎになりますよ!」

「既に大騒ぎじゃないの?」

 返す言葉もございません。


「待ちなさいっ!」

 また割って入る女子の声。

 やっぱりねえ・・・。


「私は山吹翼っ!そこにいる濱口衛クンの彼女よっ!」

 ざわめきが一段と増す。

 翼さんの表情は,緊迫感が全くない。

 むしろ『おら,ワクワクが止まらねえ!」って顔だ。


「ちょっと美少女ばかりじゃない」

「ソウデスネ・・・」

「よしっ!」

「え?」


 透子さんは僕の横をすり抜け3人の前に立ち塞がる。

「私の名前は小野透子っ!女子大生ベストセラー作家よっ!私が衛さんを一生養うわっ!愛人の10人や100人や1000人くらい,許容するわっ!」

 いや,1000人って・・・!?


「小野透子だとっ?ショタコン趣味全開の,安っぽい小説を濫造している輩かっ!」

「アタシはマンガしか読まないわっ!」

「財力では私も負けないわっ!」

 透子さんの名乗りに三者三様の反応を示す。

 いや,美咲・・・!?


 どうやってこの場を収めようかと思案していると,救世主の声がした。


「ちょっと待ったあー!」

 ・・・巧ぃ,一部の女子から黄色い歓声が起こってるぞ。


「え?」

「まさか竜崎君も?」

「やっぱりなのっ?」

「イケメンの男の子まで・・・?」


 いやいやいや,ちょっと待って下さいよぉ!


「え?え?え?」

 勢いよく飛び出した巧も,周囲の好奇の目に戸惑っている。

「あ,俺?いやいやいやっ,違う違うっ!」

 翼さん,あからさまに落胆しないで下さい!?

「俺じゃなくて・・・。いたっ!栞っ!こっちへ来いっ!」

 巧が指差す方向には,今朝見かけた中等部の美少女がいた。

「え?栞ちゃん・・・?」


 通りで見覚えがあったわけだ。

 巧の妹の栞ちゃんだ。

 前に会ったときとはまるで別人と見間違えるくらい,大人びた印象を受ける。

 友達に押されて,渋々前に出てくる。僕とすれ違う瞬間,頬を赤らめながらペコリと会釈をしていった。


「こいつは俺の妹の竜崎栞っ!ウチの両親お墨付きで,衛の嫁にやる予定だっ!」

 キャーッと中等部の女子生徒から歓声が上がる。

 ・・・いや巧,そんな話初耳だけどっ!?


 場の緊張感がクライマックスにさしかかる。5人の女性(男1人含む)の睨み合いに,野次馬達も固唾を飲んでいる。


 と,その時校舎から数人の教師がやって来た。

「一体何の騒ぎっ!」

 氷上先生の怒鳴り声。こんな声出せるんだ。

 野次馬達が蜘蛛の子のように散っていく。


「なあにオバはん。好きな人に会いに来て何が悪いの?」

 透子さんっ,煽らないで!?


「濱口君・・・?」

「せ,先生・・・」

 涙目で助けを求める。

「・・・くっ!」


 え?


 氷上先生に抱きしめられた。

「彼のことは私が守ります!誰にも渡さなくてよ!」

「「「「「ええええええええええっ?」」」」」

 逃げたはずの野次馬が,いつの間にか戻ってきていた。




 その後ろで,教頭先生が青ざめた顔をしていた。

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