第6話
「俺の名は、シルヴェス・ヴォルフツェーネだ。ヴォルフ・ツェーネファミリーの若頭をやってる。アドルファスという冒険者は俺が表の世界で生きるための偽名と偽の立場だ。後ろにいる右の眼帯がアヴァロン、真ん中がスカーレット、左がテオドールだ。」
私の向かって右側にいる眼帯の男から順番に紹介された。三人とも、若頭であるアドルファス様、もといシルヴェス様の側近らしい。順番に頭を下げられたので、私も会釈を返した。
「で、リリアーナ・ベリアスと、その侍女であるリラーレ・フォートム。お前らは何しにここへきたのか、改めて聞こうか。」
早速とばかりに本題に入ったので、結婚云々を流されてしまったのを残念に思いつつ、ここにきた経緯を話した。父が横領に手を出していること、おそらくそのお金は姉二人と母に注ぎ込まれているだろうこと。私は領民を裏切った伯爵家が許せなくて、没落させたいことを全て。
「俺たちも、伯爵が横領してる事実は知ってる。だが、家を没落させたいなら俺らを頼らずとも、このままいけば勝手に没落するだろ。」
そっとしておいても、そのうち没落するだろうと言いたいのだろう。確かに没落すると思う。でも、それだけなのは私が嫌だ。
「私は昔、ベリアス伯爵家で働いていた侍女の子です。」
「え?」
驚いた声を出したのはリラーレだけ。ということは、彼らも知っていたのだろう。この国の情報など全て知っているのでは?という噂通りに。
「伯爵が無理やり産ませたそうです。生みの母は伯爵家を出て私を育てようと思ったそうですが、その前に伯爵に捕まり、私を取り上げて伯爵家の三女と取り替えたのです。生まれてすぐに死んでしまった伯爵家の三女の代わりに育てられました。伯爵夫人はそれを知りません。」
「それで?」
「滑稽だと思いませんか? 愛していた夫との子供は生まれたらすぐに死んで、それを知らされずに愛人が産んだ子供を育てることになった義母もですが、何も知らせずに取り替えようと思った父の行動が特に。だから、壊したいんですよ。」
信じていた夫に裏切られて捨てる女と、たった一度の過ちで妻を裏切り、その上で妻をだました父が愛していた女に捨てられる苦しさ。同時に家も没落するという、絶望を。何もかも失った後に何を思うのかに興味はないし、どうなろうと知ったことではない。
「自分を虐げてきた奴らに復讐か?」
「そんなたいそうなものじゃありません。嫌がらせですよ、嫌がらせ。私服を肥やすために行った横領はどんなに悪くても爵位没収後に強制労働で鉱山送りか、国外追放。死ぬことはありません。」
「なら、自分で横領の証拠を王家に提出、そこに親子鑑定書もつけてやれば、あっという間に目的が果たせるだろ?」
確かにそれだけでも目的は果たせるのかもしれない。でも、私は政に関しては本で読んだ知識しかない。おそらく数年も横領しておいて外部にバレていない狸な父を相手に出し抜ける自信はあまりない。のらりくらりと躱されて、お前が偽造したんだと冤罪をでっち上げられたら小娘では勝ち目がないし、私の嫌がらせは一気に破綻する。それじゃ意味がない。
「私は、政の知識はあまりありませんし、現役の狸親父相手に出し抜けるほど、才能もないと思います。そこで、私の代わりにヴォルフ・ツェーネファミリーを頼ろうとしたのです。」
ヴォルフ・ツェーネファミリーはヤクザで、阿漕な商売も、犯罪もやっている。だけど、基本的に相手にするのは日陰者に対してのみ。表の世界にいるものに対して手を上げない。そして、ヤクザとしては異質なことをしている。
──犯罪を犯す貴族たちの制裁──
犯罪を犯す貴族の証拠を集め、公的機関や世間に言い逃れできないほど、これでもかとばら撒くのだ。嘘か本当か、その証拠が法的に集められたのかそうじゃないかなんてどうでもいい。そういう証拠をでっち上げられた時点で、王家や捜査庁は徹底的に調べ上げなければならない。そうしなければ、本当に罪を犯していた場合、密かに苦しむ民から反乱を起こされるから。間違いを犯してはならないため、証拠がないと大きく動けない捜査庁を動かしてしまうほどのことをする。狼に狙われた貴族は最後、絶対に全てを失う。それが、ヴォルフ・ツェーネファミリーのやり方だ。
どんな上位貴族であろうと容赦しない。裏で国を牛耳っているのではないかとまで噂される所以がこれだった。
「理由はわかりませんが、ヴォルフ・ツェーネファミリーは犯罪を犯す貴族に牙を向く。それなら、ベリアス伯爵家も殺して欲しい。そして、今まで従順だった
ふふっと笑った私に、シルヴェス様がクククっと笑った。
「お前、性格悪いって言われねぇ?」
楽しませることができたみたいで、なにより。
「初めて言われました。なにせ、牙を向くのは初めてですから。」
「そうか。いいだろう。依頼を受けてやる。だが、俺たちを動かすんだ。高いぜ?」
少し鋭くなった視線に、私は緊張した。やっぱり高いわよね。
「私が渡せる全財産は、今持ってるドレスや宝石だけ。それも少なく、換金しても端金でしょう。なので、臓器を売る気でした。」
臓器は高く売れるというのをどこかで聞いたことがある。たしか、薬の材料になるとか、ならないとか。でも、人の内臓を使った薬なんて違法だから、普通なら出回らない。出回るとしたら裏の世界での取引にされらているだろう。
「タバコを吸うか?」
タバコ?なぜそんなこと……あ、そういえば、タバコは体に悪くて、臓器を汚すんだっけ。汚れていると価値が下がるのかしら。でもそれなら大丈夫。吸ったことはない。
「いえ、私は吸っていません。」
「周りは?」
「父が執務室でたまに吸っているみたいですが、私は執務室にはあまり入りませんから。」
たまに執務室に入る機会があるけど、吸ってるタイミングじゃないし、そもそも入る機会も少ない。
「その条件なら、まぁお前だけで足りるだろ。無くなっても生きていける臓器はいくつか存在するしな。」
「それならよかったで、」
「いえ、よくありません。使うなら、私の臓器も一緒です。」
私が何を言われようと、何をされようとずっと大人しくしていたリラーレが口を挟んだ。さすがに臓器はダメだったかしら……でも、最初に相談していたのだけど、何かがダメだったのかしら。
「リラーレ?」
「お嬢様だけにそんなことさせられません。本当なら私一人の臓器にして欲しいですが、お嬢様は絶対に言うことを聞きませんので、私とお嬢様の半分ずつを依頼料にしてください。これだけは、文句は言わせません。」
いいですね、と私に対して牽制してきた。あ、これはリラーレも一歩も引かないやつだ。こうなったリラーレを断り続けると怒らせてしまって厄介になる。ここは頷かないと、この計画自体なかったことにして無理やり家に帰されそう……それは嫌なので、仕方なく頷くしかなかった。
「わかったわ……」
私の返事にリラーレが満足そうにして口を閉じると、今度はシルヴェス様の方から待ったがかけられた。
「ここまで話を引っ張っておいてなんだが、別にお前らの臓器を売った金で、依頼料を賄おうとしたわけじゃねぇぞ?」
「「え??」」
「俺は高いぞとは言ったが、その内容までは言ってねぇ。」
普通こういうのってお金のやり取りだと思っていたわ。私が払えるものって何があるのかしら。うーんと考えていたら、リラーレがシルヴェス様を睨んでいたようで、「勝手に金だと勘違いしたのはお前らだ。」と釘を刺していた。リラーレがその返しにグッと言葉に詰まっていた。
「はぁ、意地の悪い人ですね……」
「ヤクザが性格いいと思ってんのか?」
「いえ、全く。」
「ははっ、正直なやつは好きだぜ?」
「それはどうも。」
好き?!! あらあら? ちょっと待って?? 私よりいい雰囲気じゃない? え、待って。
「え?!待って、リラーレお願い。シルヴェス様を好きにならないで!」
ばっと立ち上がってリラーレの視線からシルヴェス様を隠した。突然視界を遮られたリラーレが訝しんだ顔で見てきた。
「……はい?」
「リラーレが恋敵なんて、絶対に勝ち目ないわ!絶対にダメ!」
リラーレは地味な格好をしているけど、着飾ったらものすごく可愛いのだ。美人さんだし、裏表のない気さくな感じが、うちの執事たちに密かに人気なのだ。
「いやいや、誰がお嬢様の好きな人を取るんですか……そこまで人間腐ってませんけど……」
リラーレがそういう人間じゃないのはわかってるけど、自分がそこまで可愛くないから心配なのよね…
「それならいいのだけど……本当にダメよ??」
「いやいや、好みじゃないんで。」
好みじゃない?!!
「どうして?! こんなにかっこいいのに?!」
リラーレからしたらそこまでではないと言うの? 嘘でしょ? 私にはこんなにもカッコよく見えるのに? いやいや、そんなことないはず……
「…………私、どう答えたらいいんですか?」
「かっこいいって同意されても複雑!!」
「めんどくさい……」
うん、私も我ながらめんどくさいことしてる自覚はある。
「あー、お嬢さん方? 話戻していいか?」
シルヴェス様の言葉に振り向くと、シルヴェス様の側近たちが吹き出すのを堪えるように、プルプル肩を振るわせていた。シルヴェス様も、微妙に笑っている。
「あ、申し訳ありません……」
話の腰を折っていたこともそうだけど、内容が内容だけに恥ずかしくなった。私がシルヴェス様にゾッコンだと宣言してるようなものだし。
「まぁ、いいけどな。んで、依頼料の話な?」
「はい。なんでしょうか。私には思いつくものはないのですが……」
「あるだろ? 一番最初にお前が望んだものが。」
一番最初? 私が提示したのは臓器の話だけど、それじゃないと言われていたし、あれ? 私が、望んだもの?
「結婚してくれって。」
「あっ!」
た、確かに言ったけど、まさかそんなことが依頼料になるなんて思わなかった。というか、今更その話になるとは……突然の展開に混乱していれば、シルヴェス様が身を乗り出してきた。
「ヤクザの若頭に求婚したんだ。逃さないから、覚悟しろよ? リリアーナ。」
私の名前を耳元で甘く囁かれた。びっくぅと体がはねると、楽しそうなシルヴェス様の顔が私の正面にきた。
「ふっ、顔真っ赤だな?」
「し、シルヴェス様のせいです!!」
恥ずかしくて顔を逸らせば、シルヴェス様は楽しそうにクククっと笑っていた。それが不服で睨めば、それすら楽しそうにされてしまったので、私はこの人をだし抜ける気がしない。
「さてと、行くか。」
「どちらにですか?」
「俺らの屋敷だな。」
「へ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます