第2話 帰還
「こちらゾラ・ソラビアレ。ユピテリーナ、応答されたし」
わたしの言葉が宇宙の闇へと吸い込まれてゆく。
振り向けば、内宇宙。
前方の暗さと比し、銀河の星明りが無数にちりばめられ、大河となって流れている。
右手には大赤斑が私をにらむ。
白い肌に血を流したような巨大な壁・・・木星。
「ふふ、また会えるとはね・・・ただいま」
盛り上がった大きな渦の中のそのまた複数の渦が、あたしをギョロリと見たような気がした。
渦たちの動きが ” 生きて帰れたのか ” 、というユピテルからの祝福に思えて胸の内がじんわりと温かくなる。
・・・ただの渦なのに。
「酷かったのよ?体の芯を何度も・・・」
あ、いけない。
続けそうになる愚痴を押さえ、旗艦の呼び出しを再開する。
「こちらゾラ・ソラビアレ。ユピテリーナ、応答された・・・」
突然の三重の高い周波数、重力子アラートに私の戦闘意識が覚醒した。
素早くヒザを落としスロットルを踏み込む。機体は木星方向へと緊急ダイブ、同時に今まで機体が存在した空間に青い重粒子砲弾の束が通過してゆく。
「敵?この宙域で・・・通信の重力反応を拾われた?」
通信の為の
戦術コンピューターが敵の射線に三機の敵影をロックした。
むろん信頼性の高い、旧世代の論理ゲート式コンピューターだ。
「近いな・・・っと」
三機は密集隊形のまま三連バースト射撃を連続で放ってくる。
敵弾頭の脅威度は最大値。密集の競落効果で口径、弾速以上の高威力になっている。至近を通過するだけで荷重粒子の共振効果により機体は粉々に砕け、或いはぺしゃり、とつぶされてしまうだろう。
腿を上げ、右脚を畳ませつつ腰部スラスタを二射。再び木星方向へ回避機動。
相対速度の割に直撃弾が無いのは遊ばれている?
「木星へ墜とすつもりか」
こちらのガンなど避けるまでも無い、というのか、なんの回避運動も取らずに横を通過してゆく敵機達。
・・・あれ?今の機体、パピプッペポ様がお手を掛けられたモノに似て・・・っと、戦闘中は余計な事考えちゃダメ。
兵士の本分を果たさなきゃ。
奴らが反転機動を取っている間に出力特性を変更―――――重力加圧機のセカンダリタービンを翼面変更、直前のエネルギーオリフィスを絞り切って流入速度を限界以上に設定。デスビより先のエネルギーサプライ、バイバス類が加圧に耐え切れず、構造部材の靭性の限界付近で振動が始まり、突き上げるような機体の脈動が始まった。
・・・追い込まれているが、遊ばれてるならばその余裕に付けこむだけだ。
視界内に描かれ続ける敵偏差射撃の予測グリッドを搔い潜りながらガンの口径を絞り、高速弾頭、精密射撃モード。
目の前に大きなクロスラインが表示される。
マニュアルエイム。
のべつ幕なしに撃ち続けてくる敵機のガンの光に合わせ、三射。
小口径高出力の重粒子弾頭のリコイルは強烈で、二射目より機体速度は停止し、三射目で機体は後方へと流れだす。
「他に敵機がいたら終わりね」
重粒子砲の差し合いでは、摘み、だ。
慣性を失った時点でこの人型宇宙戦闘機、リーゼは只の的になってしまう。
ガンカメラの中でクォーター秒前に放った高速弾頭がそれぞれ敵影三機にヒット、敵機が玩具の様に砕け散り、或いは装甲の破片となって木星へと落ちてゆく。
三機の敵機消滅を確認しエマージェンシーランプがグリーンに落ちる頃、ようやく背部スラスタの最大稼働で射撃慣性を殺し切る。
「重力反応は・・・木星だけか。ちゃんと守ってよ、もう」
木星・・・ユピテルの大赤斑に愚痴りながら両足のスロットルを蹴りこむ。
雷を司る男神様の夜の面を回り切り、今度は前方が内宇宙だ。
明るくなった宇宙に向けて、再度母艦に呼びかける。
この瞬きのない星の川のどこかに、わたしが帰るべき船がある。
『・・・こちらユピテリーナ。すまない、コンシールした敵機を警戒し通信を開けなかった』
応答と共に、視界右上方に赤毛の男の顔が現れた。
「こちらゾラ。ガンカメラのスコアデータを送ります。未だ脅威の可能性があれば哨戒に入りますが」
『いや、必要ない。帰還してくれ少尉』
「曹長です、ゾラ・ソラビアレ曹長母艦へと向かいます。誘導されたし」
『了解。貴官は任務の完了と敵機の撃墜で二階級特進している・・・やったな。ジロー様から直接お褒めいただけるぞ』
目前の星の川が瞬く間に滲んで薄ボケた明かりの川になる。
「わっ、わた・・・うっ・・・光栄です」
『ああ、誘導に捉えた。気密が十分ならもうヘッドギアを脱いでもいいぞ。では、な』
通信が切れる。
わたしはヘッドギアをそのままに、頬を伝い落ちる涙にシートの重力を感じながら目を閉じた。
ジロー様より功績を認めていただけた感動と、名を頂き忠誠を誓った身の上で何を浅ましく喜悦を貪るのか・・・という自己嫌悪に挟まれながら、機体がランディングに入るに任せ体の力を抜く。
偽装結界に入ったのか、視界に突如巨大な水滴型の艦影が現れた。
その船体後方・・・外装が鋭く収縮してゆく面に空いた小さな穴へと誘導灯が光ってゆく。
接近してゆくごとに、船の巨大さに圧倒される。
もう視界には船の黒い甲板しか見えない。
発進カタパルト終端へ浅く交差するように設けられた着艦レーンへと機体を滑り込ませ、指示された機体ハンガーへと向かう。
駐機を終え、ハンガーが帰還整備カラーにマスクされると、コクピットシェル下半球に細長いハッチが開く。
降りようと股間に迫り上がってたサブパネルを畳みシートへ収納されると同時に、白い装具の男たちが三人、狭いシェル内へと侵入してきた。
二人の大きな手に四肢を拘束され、右肩にガンタイプの射出機が押し付けられた。
「お前たち、なんの―――――」
なぜか拘束を免れている左足を立てガンを抜こうと目を落とすと、そこには血の玉を噴水のように噴き出す、千切れかけた左大腿があった。
・・・負傷?何故だ。
『鼠径部を圧迫する。動かすな』
表情のない白いヘッドギアのバイザーを見つめていると、唐突に意識が落ちた。
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チューニング変える下りの描写・・・は無いけど、エネルギーの限界圧送とトラフィック内のイレギュラーな限界挙動を利用して限定的な高い運動性能を得るっつーのはFSSのパクリです!しかも儚く可憐な女の子の健気で描写されてた演出を消去して只のログにしただけの・・・
戦術コンの名前は京。無論脳細胞は数万数億のスイッチングを光の速さで実行し続ける超高密度シナプスな集積回路で容姿端麗は眉目秀麗のムチムチボイン
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