第3話 ユピテリーナ
「すまない、コンシールされた敵機を―――――」
オペレータの男は帰還中の遭遇戦で辛くも撃墜を免れ敵小隊を撃滅したパイロットの通信をつなぐと、ヘッドギア越しの姿を見ていぶかしむ。
―――――まだ少女ではないか。
応答と続けながらコンソールのキーを叩き、パイロットのバイタルを確認する。
ダナン正式パイロットスーツの全身を確認した途端に彼は息を飲んだ。
ダメージサインの光を確認するまでもなく、左大腿下に絶望的な負傷・・・足先は肉が剥がれ、現れた骨も炭化している部位すらある・・・を目にする。
これは、持つまい。
オペレータはそう判断すると少女のリーゼの操作系に割り込みをかけオートランディングへと切り替え、着艦格納庫へERと工兵隊を職務権限で配置指令しながら末期の気休めになるような材料はないかとパイロット・・・ゾラのプロフィールを探る。
(下士官ではあるが軍の組織図には入っていない―――――ジロー様直下の者か)
パピプッペポ・ザイログ。
この艦の所有者、大尉という階級はあるが実際的に中将並みの方面軍権限と2連隊規模の戦力を侭にする木星の王だ。
(今帰還は・・・極秘任務、か。えーとロック外せねえかな・・・エンジニア用の裏口から・・・あぁ、トラップ尽くしか。じゃあいつもの大尉権限キーで・・・お、出たわ。えーとイノセン閥上級貴族への接待の完了報告・・・あんな少女を・・・生贄か、惨いものだ・・・ん、今回の遭遇戦でディム・ウラヌスを三機撃墜・・・とんでもねえリーゼが潜んでたもんだぜ・・・はぁ?!ゾカIIで外惑星系仕様にマイナーチェンジされた重リーゼを三機も?!信じられん、
「喜べ。ジロー様手ずがらにお褒めを頂けるぞ」
オペレータの目に、暗いバイザー越しではあるが、パイロットウィンドウの中で少女が感涙に咽ぶ姿がありありと見えた。
既にコクピットの中は血の水滴で溢れ、それはゆるゆるとシートの重力装置に誘われ排泄管へ吸い込まれてゆく。
(まだ肉眼に視界を戻さんでくれよ・・・)
オペレータの男は、他人の存在をよすがとする少女の生に何を思ったのか・・・眉を顰め、憂うようなまなざしを送るのであった。
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目を開けると、たくさんの明かりが灯るライトと、それを頭上にあたしを覗き込む5人の形が見えた。
「・・・ん?起きたか、まだ寝てていいぞ」
影が血まみれのシェードをこちらへ向け喋ると、再びあたしの足元へと顔を向ける。
そうだ、ERに射出機を充てられて気を失い、膝が・・・ああ、処置されているのか。
「うまくやれたと思ったんだけどな」
思わずのため息。
パピプっぺぽ様からお貸し頂いた機体も、この分ではまともでは済むまい。
「凄い活躍だったじゃないか。ここらの重力域にスペシャルチューンされた重リーゼを3機纏めて撃墜した・・・それも夫々をワンショットで、だ」
追いまくられてギリギリ一回だけエイムが叶って、そこで三回しかトリガーを引けなかったのよ・・・その一回だって何故・・・ああ、そうだった。
「ふふ、あれは敵パイロットが間抜けだっただけです。あたしを木星へ落とそうって遊んでたんですよ」
医師が囲み立つ看護師から何かの機材を受け取り、再びあたしの脚へとかがみ込む。
「わたしはリーゼのガンファイトが好きでね。部下にカメラ映像を拾わせ集めるのが趣味なんだけど、君のファイトは凄かったよ。DSでも無いのにあの判断と反応、大振幅に調整した出力特性の波をピークで拾い続けたような、あの鋭く華麗なる回避運動・・・あ、レーザーコテ。ここは残すから」「二次感染の危険が大きいです、義足も用意も既に」「フフ、ナノマシンを二千万単位まで注入していいそうだ」「えっ、二千万?!」「セレブどころか大国の要人並みの処置じゃ」「ま、わたしもあの映像を見た後ではな。自己資産を切り崩してでも・・・という気にはなるね。実に感動的だった!これで体も精神もなんの強化を受けてもいない、
低く落ち着いた男性の声を心地よく思いながら、わたしの意識は微睡んでいった。
――――パピプペッペポ様、わたしはお役に立てましたか。
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