菊よ、その気高き花言葉をもう一度ゼロ
プリオケ爺
第1話 春をひさぐ女
ソラビアレ。
パピプッペポ様から頂いた姓。
大地から仰いだ宇宙を指す”ソラ”に古の魔法語で存在の接頭辞であるbe、そして宗教用語の有れ・・・在れ?を繋げて作ったものだと、薄く微笑むジロー様に言われた。
パピプッペポ・ザイログ。
将官から私のような末端の兵まで、木星圏全ての女性達にジロー様と慕われる神のような男。
もちろん、宇宙のような血も涙もないコンピューターではなく、精神の偶像的な象徴だ。
そして私は今、ジロー様の密命を受けこの部屋へと入った。
「ゾラ・ソラビアレ曹長まかり越しました」
暗く明かりを落とされた室内。
灰色の壁とシーツを貼られた広いマットに座る、肉塊。
肉の皺がゾロリと動き、赤く小さな口が開いた。
「軍礼などいらぬ。脱いでここへ寝ろ」
「はっ!」
ブーツから足を抜き、適当に服を脱ぎ落し肉塊・・・贅肉をたるませた男が身を投げ出すベッドへと歩む。
「・・・ふん、風勢が無いな」
「つきましては、我が司令より手紙を渡すようにと言付かっております。読まれますか」
「ザイログめの?・・・渡せ」
中空に指を躍らせると、光の金粉が舞いディスプレイとエアキーパッドが宙に描かれる。
通称エアコム。宇宙で発生する莫大な静電気を御すために組まれた電子ツール、その一機能を使い、目前の肉塊へペーパーライクな電子映像を向けた。
その映像は男の手に渡り、実態があるかのように室内重力に従って垂れた。
「ふん・・・なるほど、いいだろう」
肉塊・・・男が埋もれたアゴをしゃくると、私は着衣を整え直して部屋を出、再び入室する。
「ゾラ・ソラビアレ曹長、まかり越しました」
「・・・寄れ」
「は、はい」
肉塊への嫌悪に歪んでしまう顔を誤魔化そうと、私は室内を見渡す。
「来いと言っている」
男の強い言いざまにビクリ体が跳ねた。
「申し訳ございません、直ちに」
無様にも脚を縺れさせつつ、速やかに男・・・肉塊の前へと立った。
肉塊から芋虫の塊のような手がウゾウゾとわたしの脚へ延ばされる。
「フン、こんなガキを寄越して・・・ザイログめ、なんのつもりだ?」
タイツの上から脚をまさぐる男の手の不快に耐え切れず、問いかける。
「その、閣下。一体何を・・・あっ!」
わたしのタイツを掴んだ男の手が、一気に下がる。
ショーツと生足を曝け出したわたしは、おもわず退がろうとし・・・下げられたタイツに脚を縺れさせた。
背後へ倒れかけ思わずに伸ばした手を男に掴まれ、そのまま肉塊へと倒れ込む。
シーツの上に倒されたわたしはタイツとブーツを脱がし捨てられ、組み敷かれた。
「いやっ、やめてください!このようなこと、ダナーンが!大尉が認めませんっ!」
「ふふふ・・・その大尉殿からの直筆だよ。見ろ」
私の目の前に先ほどのペーパーライク電子書が突き出された。
「そ、そんな・・・ジロー様が、あたしを・・・」
目を見開き震えるわたしを低く笑いながら、歪んだ笑みで男が迫る。
「売られたんだよ、ヤツに。どうだ?悔しいか?」
「違います!ジロー様は、そんなっ・・・!」
「フン!ならばいいぞ、どこへなりと行け。ワシもこんなガキなど抱きたくないわ」
あっさりと背を向ける男はそのまま続ける。
「もう既にヤツには大枚をつぎこんどるんだ。この上に更に融資を、だと?・・・身の程知らずにも程があるわ!しかもこんなガキを寄越しおって。儂を舐めるのも大概に・・・ん?なんだ」
震える手で、男の背を撫でた。
「どうか、お願いします。ジロー様に・・・その為なら、わたし・・・わたしの、初めてを・・・どうされてもかまいません」
「ふん。ガキが膜ごときを高売りしおって・・・まぁとりあえず食ってやるわい。話はそれからだ」
肉塊がのしかかってきた。
溺れる、と思った――――――――――
・
・
・
「どうでしたか?」
私は抱き寄せられた肉の腕に巻かれ、匂いは兎も角非常に寝心地の良い肉の塊に頭をのせつつ、頭があるであろう脂肪の丘陵の向こうへと問いかけた。
「フン、ジローめ。こんな生娘をよこしおって・・・お前、辛くないのか」
行為後の男はやたら分別ぶった言葉をかけてくるとお姉さまたちから聞いていたが・・・コレか。
「いえ、演技しなくてよい分楽なくらいでしたが」
もちろん、ジロー様へ直接あのような媚態を取れば、それはすぐさま我らが女の城ユピテリーナ艦内へ伝わり、私の体の孔という穴が麻酔もなしで縫い閉じられ、あるいは毟られ・・・その後の一生を汚水貯まりにて過ごすこととなるだろう。
「ふふ、他人のモノを・・・しかも美しい男へ懸想する生娘を欲しいままに汚してゆくというこの趣向、気に入った。いいだろう、ジオテラーズ設計主任の引き抜き、アルフェイム開発局のエウロパ移転、支援しよう」
「ようございました・・・つきましてはこのサービスの案内をわたくしゾラ・ソラビアレが御元の飽きるまで務めさせていただきます。どうぞこのカタログをご覧ください」
「ほう、これは・・・中世のミドルーハイスクールの制服に、3Dモデルの町まで・・・教師と生徒か。こちらはバレリーナとパトロン、そしてこちらは・・・グフフ、なにやらお主の感興の為のシチュエーションに思えるが」
わたしはそこで、初めて笑んだ。
「はい。だからこそ、閣下にもご満足いただけると信じております」
めくるカタログが肉体を苛むための様々な器具へと切り替わると、肉塊の目に暗い嗜虐の炎がギラリと煌くのがわかった。
わたしの命はこの任務に果てるのだろう。
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