8−2

 法的に、ペルグラン家から離れることができた。それでも失ったものは、返ってこなかった。

 名乗るべき家名は忘れたと、人には言っていた。ジョゼフィーヌ自身に言い聞かせるために、そうしたところも大きかった。到底、納得できることではなかったから。


 実家は、途絶えていた。

 ゆかりのものも政変で追いやられ、あるいはヴァーヌの地に引き上げていった。

 だから結局、家名も帰る場所も、戻っては来なかった。


 それでも、愛する人々がいる。ジャン=ジャック・ルイソンが、そしてインパチエンス=ルージュが。そしてそれらを愛してくれる人々がいる。

 愛してくれる人もいた。友だちも沢山。今までに自分自身が培い、育んできたものが。


 今は、友だちの家に居候していた。随分前にご亭主を亡くされ、子どもたちも巣立っていった、ひとり暮らしの女主人。

「ご苦労でした、ジョゼフィーヌ」

 ドゥネーヴ子爵夫人、マリーアンジュ。同い年。出会ったのは、ガンズビュール。ボドリエール夫人が開催していた、詩のお披露目会だった。

「気が晴れると思っていたけど、そうでもないものね。どこかこう、澱んだものが、ずっといる」

「今すぐには、そうはならないでしょう。少しずつ。時間がそれを作ってくれる」

 マリーアンジュも少し、悲しげだった。


 ドゥネーヴ子爵は、あまりいい人ではなかった。粗暴で、妻や子ども、使用人にも手を上げることが多かった。

 家柄を傘に着た、何もない男。どこにでもいる、男の皮を被った人形のひとつ。

 催し物の中での馬上槍試合ジョストの際、馬から振り落とされて死んだ。尚武の家系として、恥ずべき死。マリーアンジュたちには、汚れた家名しか残されていなかった。


 それでも、子どもたちは立派に育った。父の汚名を雪ぎ、将校として大成している。ひとり暮らしの母にも不自由のないよう、こうやって屋敷や使用人たちも、用意してくれていた。


「私もそろそろ、ドゥの名を捨てようと思うの」

「ご実家は、よろしいの?」

「疲れたんですって。産業の発展についていけなかったから、領地の経営は失敗しているし、縁故もほとんどが途絶えた。どこもかしこもそうだけど、色々と限界みたい。だからもう、名前を捨ててしまおうって。名前に振り回されるのを、やめようって」

「名前に振り回される。そうね。まさしく、そういうものだった。私も貴女も、そしてすべての女たちが、きっと」


 新聞。最近は、目も通したくないようなことばかりが書き連ねられている。

 夫であったフェルディナンを含め、ほぼすべてのニコラ・ペルグラン一族が、隠し子を持っていた。それぞれを、ニコラ・ペルグランの血筋の愛妾、および庶子として養うのは面目に響くという理由らしい。この発言に対し、今度は、愛妾を持つ貴族たちが激怒し、攻撃していた。

 すべてが些末で、馬鹿馬鹿しかった。

 ほんとうはきっと、養う金が勿体ないとか、それぐらいの理由である。それぐらいが予想できる程度には金に五月蝿く、吝嗇けちな連中だった。脱税などの容疑で、国税局から家宅捜索が入っていることも、それを裏付けていた。


 ジャンが戦っている。家ひとつを滅ぼすために。


 最初は、止めようとも思った。暴虐のそしりを受けることになると。それでも、止めることもできなかった。

 第三監獄から生きて帰ってきたあの日、その頬を叩いてから、ジャンは燃え盛っていた。

 人の上に立つものは、一匹の鬼を飼わねばならん。父と仰いだダンクルベールから授けられた言葉と、かつて自身が死に追いやった若者の名を授けた剣を携え、あのこは今、鬼となって、生まれ育った家を、生ける屍を焼いて清めると言って、戦いに赴いている。


 己の決意だけではなく、国民議会議長マレンツィオの後押しもまた、強いのだろう。

 ニコラ・ペルグランに憧憬を抱き、しかしその家の実態に失望と諦観を抱き続け、それでもルイソン・ペルグランという英傑が誕生したことを、誰よりも喜んでいた。だからこそ、若き英傑が産まれた家に背かれたことを知り、その引導を渡すために、天下御免を授けたのだと。


 あのこは、覇道を行くことを選んだ。陽光の差す王道ではなく、血と炎に照らされた道を。それをたどった先人たちにいざなわれ、恨まれることをもいとわぬ男になる道を。

 ジョゼフィーヌの手から離れ、あれはルイソン・ペルグランに成った。だからもう、何も言うべきではないのだろう。


「貴女も、ひとりの女に戻れたのだもの。自由に、心の赴くままに生きるべきよ?」

「それが、思いつき次第、そうするわ」

「お声を頂戴しているのでしょう?答えるべきだと思うけれど」

 言われて、頬が少し熱くなった。

 目を見る。マリーアンジュが意地悪そうに微笑んでいた。

「考えておきます」

「素直でよろしいこと」

 やはり友だちは、心の中を見抜いてくる。


 昼過ぎ。“赤いインパチエンス亭”。カンパニュールとコロニラ、そしてシャルロットが出迎えてくれた。

「ああ、母さま。なんもなんも。わざわざにおあんしてくなんして」

「なんもなんも、私のインパチエンス。無理をせず、ちゃんとお休みなさい?今はお前が一番、大事なのだから」

 立ち上がろうとしたインパチエンスを、つとめて優しく制した。


 お腹に子が宿っていた。春が終わるぐらいに、産まれるそうだ。


 つわりが過ぎ、退屈なのだろう。どうしても動きたがるのだから、ひとまずは店に顔を出すぐらいで留めるように言っておいた。店員ふたり、カンパニュールとコロニラも、十分以上に働いてくれる。今日はくわえて、シャルロットまでお手伝いに来て下さっていた。


「姉さん、今日はちょっとつらいみたいで。お母さんが来てくださって安心しましたわ」

 淡い紫。泣きぼくろのカンパニュール。おっとりした口調の、たおやかなひと。肉付き十分ながら、インパチエンスと同じように線を強調したドレスでも不自然さがない。


「店のことは私たちで大丈夫って、何回も言ってるんだけどね。姉さん、聞かないんだから。お母さんが言わなきゃ駄目だもの」

 明るい黄。日焼けした肌のコロニラ。気立てがよく、いつだって元気。ブラウスにギャルソンエプロンと、ジャンがしているようなのと同じような格好が、活発的で若々しい。


 インパチエンスを慕ってこの店に来た、もと遊女ふたり。名前は、ジョゼフィーヌが付けたものだった。泣いて喜んでくれた。インパチエンスと同じく、母娘おやこになろうとお願いをし、聞き入れてくれた。ふたりともインパチエンスと同じぐらい、愛おしかった。

 心穏やかな姉と明るい妹。ひとりっ子だったジャンへ、ようやく用意できた結婚祝いだった。


「シャルロットさまにも、いつもお手を煩わせてしまいまして、ほんとうに申し訳ありません」

「なんもなんも。インパチエンスさんとお喋りするついでですもの。今、お茶っこ沸かしますので」

 ブロスキ男爵夫人シャルロット。南東沿岸部の豪商家出身。どこまでも穏やかな老婦人。インパチエンスとは同郷にあたり、故郷のことばを気兼ねなく使えるからということで、よく手伝いに来てくれていた。

 インパチエンスはいくらか内陸寄りで、お武家ことば。シャルロットは海沿いの港市場いさばのことばだそうで、んつかばかりの違いはあるようだ。和気藹々と話しているのを聞いていくうちに、何とはなしに意味がわかってきたし、たまに使うこともある。


 特に、なんもなんもは、色んな意味合いで使うことができたし、響きの柔らかさが何より好きだった。


 自分にとっても、ブロスキ男爵夫妻は天上の人だった。それでもふたりとも、ほんとうに優しくしてくれた。最初こそ畏れ多かったが、優しさに甘えることで、気兼ねなく接することができた。子どもたちも、自分のことも支えてくれて、守ってくれた。


 子どもは、ひとりしか産めなかった。

 それでもインパチエンスたちは、自分を母と定めてくれた。シャルロットのように、それを支えてくれるひとがいた。ダンクルベールのように、息子を導き、父となってくれたひとがいた。

 そして今、孫が産まれようとしている。


 きっと、幸せなのだろう。ジャンがそれを運んできてくれた。今、その後片付けをしているだけ。


 にわかに、店の入口が騒がしくなった。何かが割れる音まで。


「愚かなるジョゼフィーヌめ」


 憤怒の形相をたたえた男、ふたり。かつての義父、ヤン・ヴァレリアン。そしてかつての夫、フェルディナン。


 不思議と、恐怖はなかった。ただ体は、インパチエンスの前で立ちはだかっていた。

「よくもここまで辱めてくれたな。我が子、ジャン=ジャックまでそそのかして」

「何が目的か、この下賤めが。今まで我が家名を名乗らせたことを、恩とも思わぬのか」

 男の皮を被った、男ならざるものども。何を言われようが、気にならなかった。


 カンパニュールとコロニラが、他の客を外に出そうとした。それをふたりが、殴りつけた。

 それで、体が動いた。


「女にしか手を上げれぬ卑怯者めっ」

 ふたりの体を抱きとめながら、吠えていた。


「用事があるのは私でしょう?このこたちではない。ならば私を殴ればいいでしょう。他のお客さまの身の安全を確保しようとしたこのこたちに比べて、なんと浅ましい行いをする。未だ恥を知らぬなら、ここで教えてあげましょうか」


 カンパニュールは立ち上がれそうだった。だから、インパチエンスを守るように促した。それで、立ち上がろうとしていたインパチエンスの前に動いてくれた。


「ニコラ・ペルグランの血に対して、何を無礼な」

「何かあればニコラ、ニコラと。それしか言うことがないのですか?そうでしょうね。それしかもう財産がないですものね。女に逃げられ、法を無視して蓄えた財は差し押さえられ、領民の不満は抑えられない。残ったのは名前だけの、中身のないお人形。博物館にでもお願いして、飾られていればいいんじゃないかしら?」

 拳が飛んできた。よろめいたが、まだ立てていた。所詮は年寄りの拳だ。

 こんなもの、痛みのうちに入るものか。


「家名を奪われ。好きでもない男に抱かれ。十月十日を育んで子を産んで。男になれと育ててきた。その痛みとつらさを経てきたのです。男にもなれやしない紛い物に、男たるルイソン・ペルグランの母となった私を殺せようものか。見せてご覧なさい」

 コロニラの前に立ちはだかり、男ふたり、見据えてみせた。


 フェルディナンの平手。男のそれではない。風が吹かれたようなものだった。


「母さまっ」

 インパチエンスだった。カンパニュールを振り切って、立ちはだかってくれた。


「母と定めたひとのためなら、あたくしだって盾になりあんす。このことふたりで、母の盾になってみせあんす」

「おやめっ、インパチエンス。お前も、そのこも」

「商売女めが。その腹の子は、ほんとうにジャン=ジャックの子か?」

「貴方がたには、もはや関係のないことでごぜあんしてよ。それに?酒場で酒も頼まずにくだを巻くなんざ、野暮も野暮。やるというならそれでよし。そうでないなら、さっさとおさらばしえってくなんせ?」

 殴りかかろうとしたヤン・ヴァレリアンに、カンパニュールがしがみついた。それを、叩き伏せるようにして。

 フェルディナンの拳が、インパチエンスの頬に。よろめいたのを、コロニラが受け止めた。


「この商売女どもが。ただで済むと思うなっ」

「そりゃあ、あんたらの方だよ?おじさんたち」

 不意に。声は、店の奥から聞こえた。


 金髪碧眼の、美貌。それはシャルロットの隣りにいた。


「最初から全部、見させてもらいましたがね。こうなっちまったらもう、わかってやれねえよ」

 聞き馴染のある台詞回し。歩みはじめる。一歩ずつ、一歩ずつ。


「神妙にしてくれりゃあ、それでよしだけどさ」


 丈の長い油合羽あぶらがっぱを羽織った無頼漢。どこかで見た覚えがあるが、髪型か、風貌か。いずれにしろ、何かが異なる。


「じゃないとあんたら、戻れなくなっちまうよ?」


 紫煙をくゆらせながら、それはふたりの肩に、腕を回した。


「こちら、こういうもんでしてね」


 国家憲兵警察隊手帳。


 見せつけられたフェルディナンが、一拍置いて、吹き出した。

 見下すような笑い。下卑た表情。


「軍警ごときが、何を偉そうに。我々は、ニコラ・ペルグランの」

「たかが漁船乗りだろ?でけえ口、叩くんじゃあないよ」

 突き刺すような、典雅な声。それに、ふたりの表情が固まった。


 紫煙をその顔に吹き付けながら、フェルディナンの目を見据える。蔑むような、そして蕩けるほどの視線。



「おひけえなすっておくんなせえよ。こちら、国家憲兵警察隊、中尉。レオナルド・オリヴィエーロ」


 やはり、そう。あのこの。でもどこか、違う。


「デ」

 はっきりと。あの国の、貴族の証。



「ガブリエリ・マレンツィオ・ブロスキ」



 それは、耳に入ってきた。頭の中には、入ってこなかった。


 思わず、シャルロットの顔を見た。いつも通りの、優しい笑みだった。


 ガブリエリ家のご長男さま。ジャンと懇意にしてくださっている、あの、レオナルドさま。

 それが天下御免を、名乗っている。


「何を馬鹿な。ブロスキ男爵殿には、お子さまがいらっしゃらないはず」

「養子なんですよ。くわえて家督も継いぢまったもんですので。新聞、読んでない?まあ、詳しくは署でお話しましょうか。暴行と器物損壊の現行犯、確保です」

「待て。金ならいくらでも」

「国家公務員を買収するつもり?いい度胸ですねえ。それならいっそ、ヴァルハリアに売っ払っちまいましょうか。独立戦争の英雄の血筋となりゃあ、いい値段がつくと思いますよ?」

 そこまで言ったぐらいだった。


 ヤン・ヴァレリアン。拳が、ガブリエリの頬をかすめた。体が離れる。

「何がガブリエリ・マレンツィオ・ブロスキだ。嘘も大概にしろ。この小僧めが」

 そのあざけりに対し、ガブリエリの美貌に、怒りが差した。

「公務執行妨害も追加だねえ。晩節汚すには、いい罪状だろうよ」

 長身が、腰から警棒を引き抜く。臨戦態勢。



「うちの子さ、なあすったっきゃやっ」



 突如として、空気が震えた。


 全員が、そちらを見た。それは、怒気を纏わせながら、ふたりの前に歩み寄り、そして。



「ニコラだば、人の子さ手ぇ上げていいってかやっ」



 ブロスキ男爵夫人シャルロット。


 手にした盆。ヤン・ヴァレリアンの頬に、ぶちかました。男ひとりの体が、転がっていった。


 誰もが唖然としていた。あのシャルロットが、怒っている。慈母のようなおひとが、怒りに任せて、人をぶん殴った。


「ニコラだば、女、ふったらいていいってかや。おの親ば、そったらこと教えてきたってかや。それだばニコラってのば、名前なめえっこばり立派だ馬鹿親だべさっ」

 枯れるほどの叫びを上げながらの猛追。顔を覆う腕に、縦にした盆を何度も振り下ろして。


「男爵夫人さま。どうかこれは、何かの間違いでございまして」

さ間違えれば、こったことすったっきゃや。親の名前なめえっこばり振りかざして、間違いで済むってのかや。親が悪いんでねば子が悪いんだすけ、親のとこさ行って謝ってこい。墓所はかしょさ行って、おねって、頭つけて謝ってこい。できねんだばここさ連れてこいじゃ。どったら子ば育てたんだって、お前達めどの前でふっいてけじゃあっ」

「やめてくれ。父上が、父上が死んでしまう」

「死んでまれ、こった出来なし」

 割って入ったフェルディナンの顔面に、縦一文字。


「死んでまればいがべさ。名前なめえっこばり立派だ馬鹿っこなんだすけ、女さふっかれて死んでまれじゃ」

 肺腑が張り裂けるほどに。肩を上下にいからせながら。言葉の塊をぶっつけていた。


 泣いて怯えるヤン・ヴァレリアンの顔に、盆。投げつけて、その上から椅子をぶちこんだ。

 そして今度はその椅子が、ヤン・ヴァレリアンの体にもたれかかっていたフェルディナンに降り注ぎはじめる。


「おもおだじゃ。嫁こさ来てけだ娘っこば馬鹿にして。へば赤子ややこまで馬鹿にする親、どこさいるったっきゃや。そこの親さそう教わってきたんだすけ、そったら事できるんだべなっ」

「お許しください。どうか、我らが父祖、ニコラの名に誓い」

「許さね。だれせば名前なめえっこねば頭も下げれねえ馬鹿おんた。頭下げるのもらでねくて嫁こだべや。おらっ、ここさねまれ。嫁こさったこと、頭ついて謝れじゃ」


 シャルロットの細い腕が、怯えてすくむフェルディナンの胸ぐらを掴んで、インパチエンスの前に放り投げた。


 フェルディナン。ゆっくりと顔を上げる。目には明らかに拒絶の色が。


 途端だった。


「頭下げろじゃっ」


 その後頭部に、椅子。


「謝れってったべさ。早くしろじゃ。嫁こさ早く謝れじゃっ」

「申し訳、申し訳ありません。我らがニコラの名のもとに」

「おがやったことなんだすけ、お名前なめえっこで謝れじゃ。馬鹿っこがや」


 細く穏やかな目を、真っ赤にいからせて。そこから滝のような涙を流しながら。何度も、何度も、振り上げては振り下ろして。そのたびに、人の悲鳴と鈍い音が。



「男ふたりニコラば名乗って、女さふったらかれるのば、おしょすねと思わねのすかっ」



 その咆哮が、最後だった。


 怒りが、しなびていく。悲しみに変わって、顔を覆い、へたり込んでしまった。

 そこにすかさず、ガブリエリが駆け寄って、抱き寄せていた。


「おね。ねじゃ。レオちゃんば、ふっかれたの見て、私、わがねくなって、りことしてまったじゃ」

「大丈夫だよ。落ち着こうね。むしろ私とか、皆さんのために怒ってくれたんだから。それって、すごい偉いことだからね。母さん、怒ってくれて、ほんとうにありがとうね」

「ああ、レオちゃん。私、人さ死んでまれってってまったじゃ。人、死ぬおんた事してまった。ね。おね。どうかお許しえってけじゃ」

「なんもなんも、だよ。これから、ちゃんとしたお仕置きが来るから。後は安心していようね」


 その言葉に、男ふたりの体がびくついた。

 お仕置きが、来る。それで、逃げ出そうとしたのだろう。


 ただそれも、店を出た、すぐのところまでだった。


「この恥晒しっ」

「何がニコラだっ。英雄の名を汚したごみどもめ」

 罵声と石。野次馬たちが、ぶっつけていた。


「お前たち、我々を誰だと」

「女を殴るようなやつだ。女に殴られて、家名を出すようなやつだ」

「誰がお前たちのめし代を稼いでやってると思っているんだ。名前だけの貴族めが。図に乗るな」

「そこまで」

 大喝。鳴り響いた。低く、太い声。



「国家憲兵警察隊本部長官、大佐」

 群衆が、割れる。杖の音。頭ひとつ抜けた巨躯。

霹靂卿へきれききょう、オーブリー・ダンクルベール。そして」

 それに並ぶ姿。

 それを見て、飛び出していた。近寄り、声をかけようとした。

 でも、できなかった。



「その息子、ジャン=ジャック・ルイソン・ペルグラン」



 ジャンは、嵐になっていた。吹き荒ぶ暴風雨に。


 きっと、腰を抜かしていた。それを誰かが、支えてくれたのだろう。


「お母さま」

 その人の顔を見やる。七色に燃え盛る瞳と、その間に、袈裟に走った向こう傷。


「神たる父、御使みつかいたるミュザに代わり、あなたのルイソン・ペルグランが、あなたのこわいものを、打ち払います」

 救いの聖人、サントアンリ。その熱が、温かかった。


 男ふたり、男のようなものの前に、立ちはだかった。


「暴行、器物損壊、公務執行妨害の現行犯。ならびに」

 銃身ふたつ。男たちに、突きつけられた。



「国家反逆の指名手配につき」



 憤怒の声が、重なる。


 国家反逆。その言葉に、ふたり、愕然とした表情になっていた。


 そして、ぱしん、と。警棒の音。


「こちら、国家憲兵警察隊、少佐。ビアトリクス。その件に関して、貴殿ら二名に通達事項あり。よろしいか」

 ふたりの男の間に立った、絵に描いたような女軍警。峻厳な美貌と、はきはきとした口調。


「本日の現在時刻、貴族院議会において、貴殿ら二名に対し、各種問題や不祥事に対する証人喚問が行われている認識である。貴殿らより出頭要請に対する了解の旨、返答はあったとのことだが、現時刻において貴殿らはそれに出頭せず、各種犯行に及んだ認識である。ここまで、よろしいか」

 フェルディナンが真っ青な顔で、口をぱくぱくしていた。


 証人喚問要請を反故にしてまで、自分を脅しに来たのか。そう思った途端、ジョゼフィーヌの中で、軽蔑の色がより強くなった。


「王陛下、宰相閣下、および貴族院議長閣下は、これを虚偽申告、ならびに、国家権力を侮辱する極めて悪質な行為として国家反逆と判断した。先ほど公安局、ならびに司法警察局に対し、両名に対しての指名手配の要請あり。これより、貴殿らの身柄を確保する」


 撃鉄が起きる音。ふたつ、重なった。


「国家反逆の主犯の確保は、原則として生死問わずデッド・オア・アライブ。抵抗すれば、即座に銃殺する。ここまで、よろしいか」

「そんな、ご無体な」

 ヤン・ヴァレリアンが言えたのは、そこまでだった。


 破裂音。

 ヤン・ヴァレリアンの足元から、煙が上がっている。


 小柄な軍帽の青年。すぐ側にいた。おそらく、施条ライフル銃。

 ウィル。駆け寄ってきたカンパニュールが、そう、呟いていた。


「事情聴取だ」

 ジャン。ふたりを蹴倒し、跪かせる。そうやって、着ているものの背中を引き裂いた。

 寒空の下。痩せた体ふたつが、震えていた。


「母上に手を上げたのは、どっちだ?」


 その言葉に、ヤン・ヴァレリアンもフェルディナンも、身を固めた。口を開こうともしない。


「ガブリエリ」

 ジャンが、何かを取り出す。

 乗馬用の鞭だった。


「両方」


 典雅な声を上げながら、ガブリエリがふたりに、引き裂いたものを咥えさせた。


 鋭い音、ふたつ。跳ねる体。野次馬から、快哉が上がった。


「カンパニュールは、爺さんの方。顔だけじゃなく、背中もぶん殴られてる」

 二発。ヤン・ヴァレリアンが声も上げられず、踊り狂った。


「コロニラは、父親だね」

 空を裂く音。痩躯が、石畳の上でのたうち回る。


「さて、俺のインパチエンスに手を出したのは、どっちだ?」

 その声だけで、ふたり、涙を流して震えだした。


 大嵐。名ばかりの船乗りたちの前に、雷雨が打ち付けられている。


「父親の方だ。それに、お三方に対しては、ふたりとも、商売女とも言ってたよ。くわえてご内儀には、その腹の子はほんとうに貴様の子か、ともね」



 ガブリエリの言葉に動いたのは、巨躯だった。



 雷音。顔面を踏みつけられ、横たわっていたフェルディナンの体が、逆立ちの様になっていた。


「ひとの義娘むすめに商売女とはね。親の顔が見てみたいものだ。同じ人の親として、そうは思わんかい?」

 そうやってフェルディナンの頭を踏みにじりながら、褐色の大男は、じっとヤン・ヴァレリアンを見据えていた。言われた側は何もできず、怯えてすくみ上がることしかできていなかった。


 ガブリエリ。ふたりに、冷水をぶっかける。それで、気絶していたフェルディナンも、叫びながら目を醒ました。


「人を愛するということは」

 ジャンが吠えだした。

「人を育てるということは、ほんとうに大切で、ほんとうに大変なことなんだ。それをわからないままに親をやるやつを。わからないままに人をやるようなやつらを、我ら父子おやこは断じて許さない」


 そうして男ふたり、へたり込んで震えてばかりの、男のようなものふたつの前に並んで。


「ヤン・ヴァレリアン・ニコラ。および、フェルディナン・ニコラ。着座のまま、姿勢、正せえいっ」

 大喝。我が子のそれだった。フェルディナンの正面で、怒気を漲らせている。


「指導、一回。用意」

 ダンクルベール。その声は雷鳴のごとく、ヤン・ヴァレリアンを打ち据えた。



「指導っ」



 人の体が、宙を舞っていた。



「暴行、器物損壊、公務執行妨害の現行犯。および、国家反逆の指名手配。確保」

 ビアトリクス。


 倒れ込んだふたつ。連れてこられた驢馬ろばのそれぞれの背に括りつけられ、運ばれていった。


サントアンリさま」

 抱きとめてくれていたひとに、向かって。

「娘たちを、どうか」

 力が抜けていく中で、それだけ言えた。


 これで、終わる。ニコラ・ペルグランのすべてが。ニコラ・ペルグランとの、すべてが。

 ありがとう、私のジャン。男に産まれ、男として育ち、男として、私の戦いを終わらせてくれた、愛しい我が子。



 あとはしばらく、まどろみの中にいた。



 誰かが、側にいた気がした。きっと、横たえられていた。


「よく、頑張りました。私はお前にとって、もう屍だから会うことはできない。けれど、夢の中でだけ、それを許しておくれ?」

 聞き覚えのある声。聞きたかった、声。


「ええ。屍は、乗り越えなければなりませんから」

 懐かしさと、何かが、溢れてくる。

「でもきっと、生きているなら、それを受け止めなければなりませんよね?」

 おそらく、差し伸べたのだと思う。そしてそれを、手に取ってくれたのだと。

「そうだね。そして、ごめんよ。またいつか、そのうちに。我が愛しき妹。黒髪のジョゼフィーヌ」

「また、いつか。何かしらの、かたちで」

 温かいものが、抱きしめてくれた。それだけで、十分だった。



「母さま」



 瞼が、開いたのだと思う。


 覗き込んでいたのは、子どもたちだった。


「ああ、母さま。あたくしたちのために」

 インパチエンス。抱きついてくれた。カンパニュールも、コロニラも。


「母上、遅くなってしまいました。つらい思いをさせてしまった」

 我が子、ジャン=ジャック・ルイソン。目に涙を浮かべながらも、笑顔だった。

「なんもなんも。可愛いお前たちのためだもの」

「お母さん、かっこよかった。ありがとう」

 カンパニュール。顔をぐしゃぐしゃにして。それが何より嬉しかった。


 見渡す。“赤いインパチエンス亭”の二階にある寝室。

 身を起こして、三人の娘を抱き寄せた。


「気が抜けてしまっただけ。骨も肉も無事。二日もすれば、腫れも引きます。それまではどうか、お大事に」

 側に控えていた、小柄な修道女。にこやかに微笑むその額には、向こう傷が走っていた。

サントアンリさまに介抱いただけただなんて、この身に余る光栄です」

「私は、サントアンリであり、ただのアンリエット。そして、ルイちゃんのお姉ちゃんです」

 その言葉に、ジャンの顔が赤くなった。


「ジャン。お前、ルイちゃんだったのね。素敵なお姉ちゃん、見つけていたのね」

 思わず、笑っていた。それで泣いていた娘たちも、笑ってくれた。


「アンリさん。それは、インパチエンスの前では」

「大丈夫。ちゃんと許可、貰ってるから。ね?」

「ええ。義姉ねえさまが授けてくださりあんしたもの。文句はながんしてよ?お坊も、そろそろ代替わりですから」

「いいよなあ、貴様は。素敵なご内儀に、姉に妹。くわえてアンリ姉ちゃんだなんてさ」

「貴様だって、きょうだい持ちだろう。立派すぎる親までもらったんだから、文句言うなよ」

「レオナルドさまも、ありがとうございます。シャルロットさまは、どうなされました?」

「母さんは、先に事情聴取へ。大丈夫ですよ。ちゃんと正当防衛の範疇に収まるはずですから」

「聞いて聞いて、ルイにい。シャルロットさま、すっごいかっこよかったの。ニコラ名乗っておきながら女にぶん殴られて恥ずかしくないのかって、お盆とか椅子で、ばかすか叩きながらさあ」

 コロニラの楽しそうな言葉に、ジャンはぎょっとしていた。久しぶりに見る、我が子の可愛らしい顔だった。


「先ほど伺いましたが、驚きましたなあ。あのシャルロットさまが、烈火の如くお怒りになられたとは」

 佇んでいた巨躯。困ったようにして、微笑んでいた。

「ダンクルベールさま。この度はまことに、我が子、ジャン=ジャック・ルイソンのためにご協力を賜りまして、ありがとうございました」

「こちらこそ。俺にとっても、大事な息子ですからな。ご母堂さまをはじめとして、インパチエンスたちには大変な思いをさせてしまったのが、何より不甲斐ないことにございます」

「なんもなんもでがす。これで、母さまとルイちゃんの戦いが終わりました。あたくしたちは、これでちゃんとした親子になれあんす」

 三人の娘。向き直り、深々と礼をしていた。


「一通り、片付きました」

「ご苦労でした、マギー」

 ダンクルベールに促され、入室したのは四名。


「改めまして、サラ・マルゲリット・ビアトリクス。ダンクルベールの一番弟子です。この度、ご子息さまを副官として迎えることとなりました。同じくダンクルベール一門のきょうだいとして、粉骨砕身の覚悟にございます」

 凛々しい所作での敬礼。

 三十半ばぐらいだろうか。整った顔。黒髪に真紅のべに。着古した油合羽あぶらがっぱと、絵に描いたような女軍警。

 思わず、心がときめいていた。こんなに素敵な姉までいたとは。母として、これ以上の果報はない。


 次に顔を見せたのは、小柄の童顔。しかし、しっかりとしたものを感じる若武者である。

「中尉。ウィリアム・モルコ。ご子息殿とは、俺、貴様の間柄をさせていただいております」

 名乗りが終わるやいなや、カンパニュールがそのこに飛びついていた。そうしてその胸の中で、わんわんと泣きはじめる。

「あの、まあ、このとおり。ご息女さまとは、結婚を前提にお付き合いを」

「それはそれは。では後ほど、面接を」

 困ったようにして頭を掻く青年に、つとめて平静に。

 なるほど、どこぞの馬の骨ね。ちゃんと見定めないと。そう簡単に娘をくれてやるわけには行かないのだから。


 そして、こちらも見上げるほどの巨躯。切り立った岸壁の如き、恐怖の威容。

「最果ての地。氷河のはらを切りひらいた、双角王そうかくおうの名に誓い」

 どん、と、自らの胸を叩いた。

「アンリエットが父、オーベリソンです。ご子息殿とは、第三監獄事件を共にした戦友にございます」

 強面が綻んだ。深く静かで、穏やかな声。聞いていて頼もしく、落ち着くものがあった。

「アンリさまの、お父さまでいらっしゃいますのね?」

「育ての親でしたが、ほんとうの父娘おやこにもなりました」

 父娘おやこ、目を合わせた。そうしてふたり、微笑んでいた。

 自分とインパチエンスたちのようなもの。あるいは、それ以上のもの。北の巨人と小さな聖女。愛らしく、頼もしい父娘おやこのかたち。

 少しだけ、潤んでしまった。


「いやまあ、ただね。アンリがご子息殿の姉を気取るようになっちまったもんですから、ご子息殿も俺の息子扱いになるんですよねえ。その上で、ご子息殿は長官の息子も名乗っているんだから、縁戚関係がごっちゃになっちまいまして」

 途端、顔も声も砕ききった言葉に、皆で笑ってしまった。

 見た目とは裏腹に、朗らかで剽軽なお父さんのようだ。なんだか安心してしまった。


「それ、私も曹長の娘になるのかしら?」

「勘弁して下さいよ、少佐殿。長官じゃあないけれど、うちだって十分以上に女所帯なんですから」

「そうそう。もうひとり、娘もできたし。ね、レヴィ?」

「やめてよ、それ。人前でさ」

 オーベリソンの後ろに隠れていた、吊り目の不良っぽい若い娘。恥ずかしそうに、顔を覗かせてきた。


「あなたも、オーベリソンさまの娘さんなのかしら?」

「そう、私の妻です。法律の都合、事実婚ですけど」

「あらま」

 思わず、口に手を当てていた。

 聖女が同性婚だなんて。しかも夫で、このこが妻。なんだかちょっと、ふしだらではなかろうか。


「好きな男にいつまで経ってもアプローチができなくって、アンリさんが背中を押しまくったのに、それでも駄目。それなのに、次の男にも同じ轍を踏んだのが頭に来たって、全部まとめて貰っちまったんですって。聞いた時は、腹抱えて笑っちまいましたよ」

 ガブリエリの言葉に、そのこの頬が赤くなった。その様子が気に食わないのか、アンリがそのこを引っ張って、目の前まで連れてきた。

 気の強そうな顔。でも、目を合わせた途端、恥ずかしそうに俯いてしまった。

「怒らないの。事実じゃん。お母さまの大ファンなのに、ほんとうに意気地なし。ほら、お母さまにちゃんと挨拶しなよ。ようやく会えたんだからさ」

「あの、レベッカ・ルキエ、です。ごめんなさい、ちょっと緊張しちゃって」

 赤い顔でもじもじとしながら、それでも挨拶をしてくれた。

「ルキエちゃんね。ありがとう。いじらしいのも可愛いけれど、女は度胸、男は愛嬌よ?」

「ちなみに、好きなひとはモルコ中尉さま」

「ちょっと、アンリさん。やめたげなよ、可哀想だろ?」

「モルコ中尉さまの、そういうところが好きなんだもんね?でも先に泥棒猫にとられちゃったんだもんねえ。そうなる前に、さっさとアプローチすればよかったのに」

 アンリの意地悪な言葉に、ルキエは真っ赤な顔で潤んでしまった。なんだか可愛そうだけれども、それすら可愛かった。


「ごめんなさいね、ルキエ。私、我慢できなくって」

「うるさい。全部、あたしが悪いからいいんだよ」

 吐き捨てるように。それもどこかおかしくて、思わず笑ってしまっていた。

「意気地なしに意地っ張りが乗っかってるのね。じゃあ、オーベリソンさまを見習って、愛嬌で進んでいきましょうか」

「そりゃあいい。年嵩のおやじ相手にはそれができてるんですから、なんとか同世代にも愛嬌で押していければいいってもんですな」

 ダンクルベールが、威厳に満ちた顔を綻ばせながら笑っていた。お父さんというか、お祖父ちゃんの顔である。


「ルキエ。もしやお前、お父さんっ子だったのかいね?」

「うん」

 オーベリソンの問いに、一拍置いて。

 それで皆、腹を抱えてしまった。


 きっと普段は小生意気だけど、根は純真で素直なのだろう。等身大で、可愛らしい女の子。


「ほんとうにジャンは、人に恵まれましたわ」

「私たちは、ルイちゃんに恵まれました。ね?ルイちゃん」

「マギー監督まで、乗っからないで下さいよ」

「私もルイちゃんって呼ぼうかね。なんたって、ご兄弟さまだからな」

「呼んでみろよ。レオちゃんって呼んでやる。ルイちゃんレオちゃんウィルちゃんで、肩組んで歩いてやろうぜ。ラクロワが喜ぶだろうよ」

「それはほんとうに勘弁だ。かみさんに叱られる」

「貴様さあ、なんで俺まで巻き込むんだよう」

「貴様がそばにいるって言っただろう?それなら、肩ぐらいは貸しなさいよ」

「やれやれ。どいつもこいつも、いつまで経っても子どもだなあ、オーベリソン」

「ほんとうに、忙しい限りでさあ。気楽なのはムッシュぐらいですもの」

「あのおやじ、そのあたり上手いからな。のらりくらりと躱しやがって。今度の若い連中、全部あいつに押し付けてやろう」

 皆の笑顔。夢のような、家族の光景。


 ひとりっ子だったジャンに、こんなにも沢山のきょうだいと、親がいてくれる。笑って過ごせる、素敵な家族が、いてくれる。

 これほど嬉しいことなんて、他に思いつかない。


「母さまに出会えたおかげ。あたくし、幸せ。ほんとうに、ありがとうごぜあんす」

 インパチエンス。まだ涙の残る目で、それでも微笑んでくれた。


「なんも、なんも」


 インパチエンスやシャルロットから教わったことば。これだけで、何でも伝わる。感謝も、いたわりもすべて、これだけでいい。

 心が伝わる。だから、好きなことば。


(つづく)

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