嵐の夜

 ◆

 雨や風がものすごく、高波にさらされ、沖合で大型船が大きく揺れていました。

「王子、中に入っててくだせぇ、ここは危険だ!」

 相手は大声で叫んでいるのですが、気を許すと風の唸り声ばかりが聞こえてきそうでした。

 王子は、公務で相手の国へ向かう途中、嵐にあったのです。

「バカを言うな! 非常事態だ、人手がいるだろう」

「じゃあ、ロープがからまらないように整理を頼みます!」

「わかった」


 ロープの整理にとりかかろうとすると、一瞬声がしました。


「ぶつかる! 衝撃態勢!」


 次の瞬間、王子は衝撃とともに夜の海へと放り込まれました。


 なにがおこった??


 王子は必死になって、浮かぼうとしますが上手くいきません。

 泳ぎはそれほど得意ではなかったのです。

 視界に二隻の船が見えました。


 他の船と接触したのか。

 く、もはやこれまでか。


「大丈夫ですか?」

 必死で足掻く中、女性の声がしました。


 まさか、別の船から落ちた人がいたのか?


「僕のことはいい、君だけでもなんとか無事で……」

 そう言うが早いか、王子は沈んでいきました。

 薄れゆく意識の中、王子はどこかで聞いた声だとぼんやりと考えていました。



 ◇

 人魚姫は、海を行く船を見ていました。

 船を見たら、人がいるから近寄ってはいけない。

 父の教えが頭に浮かびます。


 海上に浮かぶものを、こんな時に出すなんて……。


 しばらく遠巻きについていくと、姫の心配通り船は嵐に遭い、大きく揺れていました。

 そこにもう一隻の別の船がやってきました。


 ゴォン……!


 海中に大きな低音が響き渡りました。

 人魚姫は思わず耳をふさぎました。

 船同士がかすめるように、ぶつかったのです。


 そうして、見つけてしまったのでした。

 船から落ちた人間を。

 初めて見る人間は、上手く泳げないようでした。


 海中に潜ればいいのに。


 そうして見ていると、沈んでしまうと必死で浮き上がり息を海上でしていました。


 ……もしかして、人間って海中で息が出来ないの??


 なんとなくの認識でしか人間を考えたことがない姫にとって、それは衝撃の事実でした。


 人間に近づいてはいけない。

 その禁忌を破るわけにはいかない。

 でも、このままではあの人、死んじゃう。


 意を決し、姫は溺れている人に声をかけることにしました。

 大丈夫、この暗さなら下半身には気づかれない。

「大丈夫ですか?」

「……僕のことはいい、君だけでもなんとか無事で……」


 あ……!


 人魚姫は、すぐに気づきました。

 歌いあった相手の声だと。

 冷えた体の芯が、急に熱を持ったようでした。

 人魚姫は、一瞬のうちに感情でグシャグシャになりました。


 このまま海中に連れていきたい!


 そんな衝動にかられましたが、そんなことをすれば相手が死んでしまいます。

 人魚姫はこのままでは、どうにもならないことを思い知らされるのでした。

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