恋人たちのクリスマス

「ありがとう、颯汰!」

お揃いのキーホルダーを見て、はなが抱きついてきた。

彼女の髪を撫でながら、空を見上げた。

降り始めた雪が、2人を柔らかく囲んでいる。

キーホルダーを両手に包んでいたはなが、パッと顔を上げた。

「私からも、これっ…!」

はなが小箱を渡してくれる。

箱を開けると、ピアスが入っていた。

颯汰好みのシンプルなデザインだ。

「……俺、まだ開けてないんだけど」

「知ってる。だけど大学生になったら開けるんでしょ?」

「まぁ」

「その時につけてほしくて。安定してからだけど」

「わかった。ありがとう」

箱を閉じてそっとカバンにしまう。

降りしきる雪の下、2人並んでゆっくりと歩き出した。



はなに連れられるまま、彼女の家まで上がる。

玄関まで迎えに来た彼女の両親は、訳知り顔で笑っていたから共犯なのだろう。

颯汰はされるがままに、リビングへ通された。

ダイニングテーブルにはチキンやサラダなど沢山の料理が並べられている。

「はな」

「何?」

「俺、はなの家に来るなんて聞いてないんだけど」

「サプライズだよ。ダメだった?」

「俺はいいけど、お母さんたちはびっくりしたんじゃない?」

「驚いてはいたけど、颯汰に会いたがってたからいいかなって」

並んで座って話していると、視線を感じた。

目の前に座ったはなの姉が楽しそうにこちらを見ている。

(……?なんだ?)

声をかける前に、はなの両親が話し始めたため颯汰も料理を食べることにした。 

「颯汰くん、お兄さんいたりする?」

「2人いますが。どちらか知り合いですか?」

「私と同い年の透のほう」

「それなら真ん中の兄ですね。透がどうかしましたか?」

「いやー…そうだったのね。実は私、透と付き合ってるの」

「えっ!えっ!?…そんなこと言ってたような…?」

冬休みに入る少し前、ずっと好きだった子と付き合えたと喜んでいたのを思い出す。

それがまさか、はなの姉がだとは思いもしなかった。

(こんな偶然があるんだな)

まるでマンガのようだ。

颯汰は、はなたち姉妹と顔を見合わせて笑う。

楽しい時間はあっという間で、颯汰は玄関で見送ってくれるはなたち家族に頭を下げた。

「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

「こちらこそ、ありがとね。また来てね」

「はい。おやすみなさい」

はなの家を後にして、駅へ向かう。

改札を通り、ホームへ降りる。

(ん?)

一瞬、見覚えのある背中を見かけたが気のせいだろうか。

やって来た電車に乗り込み、席に座ったところで肩を叩かれた。

「颯汰」

「維澄。今帰り?」

「そっちこそ。話、聞かせろよ」

「ええー?ヤダよ。こういうのは恭介も一緒じゃないと」

「それもそうだな。よし、集まる日決めようぜ」

颯汰がスマホを見ながら嬉しそうに笑う。

その頰は、わずかに赤くなっていた。

「年末、あいてる?」

「30?」

「その辺。恭介、27〜30日があいてるらしくて」

いつの間に、連絡を取っていたのだろう。

スマホの画面を見せる颯汰に苦笑が漏れる。

「颯汰は何日あいてんだ?」

「28と29」

「俺もその2日」

「了解。維澄もグループくる?」

「いや、いい。横で見とくから」

維澄のスマホを覗き込むと同時に電車がホームへと滑り込んでいく。

メッセージを打ち終わった維澄が、慌てたように顔を上げた。

「まだ、最寄じゃないぞ」

「よかった。颯汰も2駅先だよな?」

「ああ」

「よし、急ぐか」

善は急げとばかりに、颯汰がスマホに視線を落とす。

維澄も、颯汰の肩に顎を乗せて覗き込む。

『泊まりで行く?』

『親御さん、大丈夫か?』

『うん』

『維澄も大丈夫かな?返事ないけど』

『維澄なら一緒にいるよ』

スマホから顔を上げた颯汰が、首を傾げた。

維澄はコクリと頷く。

『大丈夫だって』

『おー。どこに泊まる?俺の家くる?』

『おばさん、いいって言うかな?』

『大丈夫だろ。出かけるらしいし』

『ならいいか』

ちょうどホームに着いた電車から、乗客が降りていく。

気がつけば、颯汰たちの最寄駅に着いていた。

「降りるか」

「おう」

電車を降りて、改札を出る。

降り出した雪が薄く積もっていた。

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