それぞれのクリスマス(恭介)
『ここ、楽しそうだなぁ』
終業式が終わり、ご飯を食べている時に姫名が楽しそうに見ていたクリスマスマーケット。
キラキラと瞳を輝かせているのがあまりに可愛くて、クリスマスはそこに行こうと決めていた。
今、恭介の隣で姫名は楽しそうに笑っている。
バスに揺られながら、コートのポケットに手を入れ、あるものの存在を確かめた。
「楽しみだね」
「はい」
ドキドキと高鳴る鼓動を抑えて頷くのが精一杯だ。
バスが止まり、乗客が降りていく。
初めて見たクリスマスマーケットは、思った以上に賑わっていた。
(実際に来たのは初めてだったけど、すごいな)
キョロキョロと屋台を見回していて、ひとつに目が止まる。
「先生、あそこ行きませんか?」
「? 何のお店?」
首を傾げる姫名の手を引いて、屋台まで連れていく。
そこには、革製のキーホルダーが沢山置かれていた。
「これ可愛い!お揃いにしない?」
「いいですね。俺、こっちのにしようかな」
恭介が焦茶色のキーホルダーを取り上げると、姫名も似た色味の物を手に取った。
「え、先輩そっちですか?こっちが似合うのに」
「ん〜…。そっちもいいね。よし、決めた。ベージュにするよ」
恭介がキーホルダーを店員に渡し、会計を済ませた。
「よかったらイニシャルを彫ることもできますよ」
「彫ります?」
「うん。じゃあ、お願いします」
待っている間に辺りを見回すと、ツリーの周りに人が集まってきているのが見えた。
姫名に袖を引かれて振り返る。
「見てみて、ツリー、ライトアップされてるよ」
「本当ですね。暗くなってきたからかな」
「そうだね。この後、何か買って、ツリーの近く行く?」
「いいですね」
そんなことを話している間に、店員がイニシャルの彫られたキーホルダーを渡してくれる。
(結構、色んなものがあるな)
2人で手を繋いで歩きながら、食べ物を買っていく。
夏祭りも2人で回ったけれど、クリスマスも一緒にいられるとは思わなかった。
ツリーから少し離れたベンチに座り、買った物を取り出していく。
カフェオレのカップを両手に包みながら、ボンヤリとツリーを見つめた。
(これ、夢じゃないんだよな)
どこか現実味がなくて、フワフワしているような。
かなと別れてから、誰かと付き合うことはないと思っていたから、自分でも驚いている。
「キレイだね、ツリー」
「そうですね」
姫名に答えながら、ポケットに手を入れる。
いつ、これを渡そうか。
チラリと姫名を窺うと、チキンを食べていた。
(食べ終わってからかな)
恭介もサンドイッチを食べながらツリーを見る。
(先輩って、俺のどこを好きになってくれたんだろうな)
告白した日、姫名はマナを傷つけた自分に減滅したかと聞いてきた。
あのとき、恭介は『幻滅なんてしない』と答えたが姫名の瞳は不安そうに揺らいでいた。
(そんな簡単に、幻滅するほど軽い気持ちじゃないのに)
カサッと音がして隣を見れば、姫名が片付けをしているところだった。
(今ならー)
ポケットから小さな袋を取り出して、封を切る。
姫名が顔を上げるのと同時に、少し腰を浮かせた。
驚いている彼女に手を伸ばし、髪に触れる。
「メリークリスマス」
顔が赤くなるのを感じながら、頬をかいた。
姫名が髪に触れると、シャランと『それ』が音を立てた。
「髪飾り…」
「先輩に似合いそうだと思ったので」
「ありがとう…」
瞳を潤ませながら、姫名が言う。
目元を拭い、膝の上に置いていた紙袋を差し出してくれる。
「私からも、プレゼント」
「ありがとうございます」
紙袋の中には、マフラーが入っていた。
取り出してみると、端の方に「K」と刺繍されている。
「……大事にしますね」
「うんっ」
マフラーも姫名も大事にしよう。
そして、姫名を不安にさせないように。
そう思っていると、不意に袖を引かれた。
恭介が声を上げる前に、姫名が頰にキスをした。
顔を離した姫名は、恥ずかしそうに笑っている。
(ああ、もう)
クイッと彼女の顎を持ち上げて、キスをした。
ー新しい恋の相手が、先輩でよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます