男子会
「……で。何で俺なの?」
恭介の家まであと少し、というところで颯汰は立ち止まっていた。
「や、その……」
目の前に立つひかりは言いにくそうに口をモゴモゴさせている。
(……もうちょい遅れるって連絡しとくか)
『悪い、ちょっと遅れる』
『わかった』
スマホをしまって、近くの公園に入る。
ベンチに座ると、ひかりは意を決したように颯汰を見つめた。
「私、マナ先輩が好きなんだ」
「……! いつから?」
「かなを諦めてから割とすぐ」
「そうだったのか。俺に話しってのは、付き合ったって報告?」
「付き合ってないよ。まだ、ね。……告白はしたけど」
「おお!?結構、攻めてるんだな。……ていうか何でそれを俺に言うわけ?」
「……何となく話したくなったの。かなの幼馴染の青野には、言っといた方がいいかなって」
「別にいいのに…」
スッキリした顔で笑うひかりに苦笑しながら、ベンチから立ち上がる。
あんなにスッキリした顔で告白したと言うのだから颯汰の出る幕はないだろう。
(それに、前より明るくなったしな)
傍に置いていた紙袋を取り上げて、公園を出ていく。
「ひかり!頑張れよ!」
「うん!」
振り返ると、ひかりは満面の笑みを浮かべていた。
「クリスマスマーケットか!どんな感じだった?」
「屋台とか多くて、色んなものが売ってたぞ。ツリーとかイルミネーションも綺麗だったし」
ひかりと別れてから恭介の家に戻り、夕飯とお風呂を済ませた3人はクリスマスの話をしていた。
よほど楽しかったのだろう、恭介が瞳をキラキラさせている。
「クリスマスマーケット、行ったことはないけど楽しそうだもんな。プレゼント、喜んでもらえた?」
「おう。先輩はマフラーくれた」
「いいじゃん!順調だな」
「維澄もだろ」
「先輩が大学生になったらどうすんの?会う頻度減るんじゃない?」
「んー…家が近いからたまに会うかもだけど。電話が増えるかもな」
恭介は迷うように視線を彷徨わせた。
(……会う時間かあ。俺も、はなに毎日会ってるわけじゃないからなぁ)
クリスマス以降、はなとは会っていない。
年末年始は家族と過ごすと言っていたからだ。
(俺は学校は違うけど同い年だし。だけど、恭介はー)
歳の差はどうしたって埋められない。
だからこそ、埋められない時間を思い出で塗り替えようと思うのだろう。
「……恋愛って、思うようにいかないものだよな」
「え?」
「必ず両思いとは限らないだろ?付き合えるかもわからないし、会えなくなるかもしれない。ずっと、そばにいられたらいいけど、そうはいかない。擦り合わせが必要だと思うから」
キョトンとしている恭介の隣で、維澄がコクコクと頷いていた。
「そうだよな。会えない時間があるから、話せない時間があるからそれをカバーするために擦り合わせるんだもんな。恭介も、姫名先輩の気持ちとかお前の気持ちをちゃんと大事にしろよ」
「……おう。わかってるよ」
維澄に肩を叩かれて、恭介が笑う。
ブー、ブー。スマホの着信音が部屋に響く。
「誰のやつ?」
「俺のじゃない。このスマホ、どっちの?」
「あ、俺の」
恭介からスマホを受け取ると、電話がかかってきていた。
「ちょっと電話してくるわ」
2人に断り、部屋を出る。
下から声がしないのを確かめてから、応答ボタンを押した。
「もしもし?」
「颯汰?ごめんね、こんな時間に」
「大丈夫。それより、何かあったの?」
「声が聞きたくなったんだ」
「……嬉しいんだけどさ、俺、恭介の家に泊まりに来てて長電話できないんだ」
「そっか、今日だっけ」
「ああ。悪い」
「ううん。大丈夫、もう少し話そう」
「うん」
はなと少し電話した後、恭介たちがまた部屋へ戻る。
ベッドには恭介が横になっていて、維澄は窓の外を眺めていた。
颯汰が入って来たのに気づくと、布団に座る。
「恭介、寝たんだな」
「俺たちも寝ようぜ」
維澄に言われ、電気を消した。
スマホを投げ出して目を閉じると、瞼の裏にはなの笑顔が思い浮かんだ。
ー会いたいな。
年明けに、はなを誘ってみようか。
そう思っているうちに眠りに落ちていた。
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