月と彼岸花
(……誰、この子)
マナは目の前にいる少女を見て固まっていた。
同じ高校の制服を着ているけれど、どういうわけか、かなと一緒にいる。
ネクタイの色は青。1年生だ。
かなと楽しそうに話しているけれど、マナは全く見覚えがなかった。
「あっ、マナ先輩。この子は岸本ひかりさん。うちのクラスの転校生です」
「初めまして岸本ひかりです」
「転校生だったのね。どうりで知らない子だと思ったわ。私は青栁マナ。双子の姉がいるから、マナって呼んでね」
「マナ先輩」
柔らかく笑う彼女の髪がサラリと揺れて、宙に舞う。
まるで、彼岸花の花弁のようだった。
(本当に、綺麗な子ね)
見惚れていると、テーブルに置いていたスマホが振動する。
画面を見てみると、姫名からメッセージが来ていた。
「指定校推薦決まったわ!」
「本当!?おめでとう、姫名!」
「ありがとう。マナは?」
「実は私も、同じ学校受験するつもりなの」
「嬉しいわ!学科は?もう決めた?」
「まだ。気になるところが2つあるから、迷ってるの」
「そうなのね。困ったら相談に乗るからね」
「ありがとう、お姉ちゃん」
スマホを裏返してテーブルに戻すと、かなたちはメニュー表に見入っていた。
「何か頼む?」
「デザート頼んでもいいですか?」
「もちろん」
3人でテーブルを囲んではいるけれど、実際に食べているのは彼女たちの方が多かった。
(何だか最近、食欲が落ちた気がする)
新学期になり受験も控えているのに、ここ最近体調が優れなかった。
熱があるわけでもないのに体がダルく、疲労が溜まっていた。
受験疲れだろうか。
(試験は来月だから、頑張らないとなのに…)
空になったお皿を見ながらため息をついた。
「マナ先輩?大丈夫ですか?」
「うん、何でもないよ。…私、ちょっと用事あるから帰るね」
テーブルに小銭を置いて、カフェを出て行く。
胸の内にある重いものを振り払いたくて、病院は走った。
「あっ…」
「こんにちは」
翌日の放課後、ひかりとバッタリ会った。
隣にかなはいない。
(今日、バレーは部活だっけ)
マネージャーとして、支えていたバレー部も部長を引き継いだ2年生がしっかりしているし、かなも、レギュラーとして活躍していた。
(おっと、今はそうじゃなくて)
目の前にひかりがいるのは、なぜだろう。
「何か用?」
「マナ先輩と話したくて」
「私と?」
「はい。昨日、少し体調悪そうだったので心配で」
靴を履き替えて歩き出す彼女を追いかけていた足が止まる。
(……気づいてたんだ)
ゆっくりと振り向いた彼女は薄く笑みを浮かべた。
「ごめんね、心配させて」
「いえ。元々、体が弱かったんですか?」
「そうなの。双子の姉と違って、昔から風邪ひいたりしやすくて」
「そうだったんですね。今日は元気そうでよかったです」
「ありがとう」
しばらく黙って歩いていて、ひかりがチラリとこちらを見た。
「先輩、好きな人いますか?」
「え?」
急な問いかけに、小首を傾げたマナにひかりは楽しそうに笑っている。
「私はいます」
「……私も。だけど、叶わないの」
「そうなんですか?先輩、すごく可愛いのに」
「へっ?」
「本心ですよ」
どうしてだろう、つい叶わない恋だということまで話してしまった。
会話のいく先が見えず混乱している間も、ひかりは歩き続けている。
「先輩は、どうして自分の恋が叶わないって言うんですか?相手に好きな人がいるとか?」
「…うん…そうだよ。私の好きな人は、双子の姉が好きなの」
「……そうなんですね。私は、その人がどんな人か知らないですけど、マナ先輩を見てる人は、もっと沢山いますよ」
「ありがとう…ひかりちゃん」
彼女の視線は空に向いたまま、一度もマナを見ようとしなかった。
もしかして彼女も、想いを寄せる少女のことを考えているのだろうか。
(ひかりちゃんは、上手くいくといいな)
夕方の太陽が、2人を照らす。
この時のマナは、赤く光るひかりの瞳が悲しげに揺れているなんて気づきもしなかった。
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