男子会

かなと別れた後、バス停から少し離れたファミレスに走る。

容赦なく照りつけてくる太陽に汗を流しながら、ファミレスにたどり着く。

ドアについたベルが、カランカランと軽やかな音を立てた。

颯汰と恭介を探していると、通路から颯汰がやって来た。

「遅いぞ」

「悪い、悪い。さっきまで、かなちゃんといたんだ」

「てことは、部活帰りか!汗だくじゃんか、走らせてごめんな、維澄」

「いいんだって。代わりに、惚気話よろしく」

「……後で覚悟しとけよ」

ジト目を向けてくる維澄に苦笑しながら、恭介の待つ席へ向かう。

既に何品か注文したらしく、テーブルにはいくつか皿が置かれていた。

「よっ」

「部活、お疲れ」

「ありがとう」

「冷たいのあるから、それ飲めよ。コーヒーいけるだろ?」

「もちろん。ていうか、何でコーヒーなわけ?」

「維澄なら飲むかなって」

「飲むけど」

「おーし、じゃあ。課題お疲れ様会兼近況報告会始めるぞ」

「長い長い!」

「わかりづらい」

「うるせ!せーのっ」

「「「カンパーイ」」」

カチン、とコップを合わせ、男子会が始まった。

8月も中旬になり、とても暑いというのに3人とも夏バテなど感じさせない食べっぷりだった。

ポテトやラーメンを食べながら、雑談をする。

「で?颯汰はどうなったの?」

「付き合ったよ」

「花火大会も行ったんだろ?」

「ええ!そうなの!?ていうか、いつの間に付き合った?」

「夏休み入ってすぐだから、1ヶ月前かな」

「うおぉぉい!何で教えてくれなかったんだよ!」

「えー?恭介は、誰かさんに夢中だったくせに」「なっ…!?……別に、夢中じゃないし。気になるだけだし」

「気になるってだけで電話するのか?」

「昨日も会ってたんだろ?」

「や…それは、まぁ……」

モゴモゴと言う恭介に、維澄と颯汰はニヤニヤと笑う。

こんなに焦っている恭介を見るのは初めてだった。

「顔真っ赤だな。そんなに、好きなのかー」

「で?あっちはどうなんだ?」

「告った?」

「告ってないよ!」

「ええー?本当か?」

「おう!デートはしてるけど、先輩は友達としてしか見てないみたいだし!」

言うだけ言って、恭介はポテトを食べている。

そんな恭介を見ながら、颯汰はニヤニヤとしていた。

(そんなこと、ないと思うけどなぁ)

恭介は、姫名が自分に興味がないと思っているようだが、維澄にはそう見えなかった。

いつだったか、夏休み前に姫名と恭介がいるのを見かけた時、姫名の瞳がキラキラと輝いていたのだ。

それは、友達に向けられるものではなかった。

(明らかに両想いなのに、何で気づかないんだ?)

隣に座る颯汰を見ると、苦笑を浮かべる彼と目が合った。

どうやら颯汰も気付いているらしい。

ーどうフォローするよ?

ーさりげなく。

ー無茶振りだな。

ーできるだろ?

ー当たり前。

空になった皿を避けて、メニュー表を見る。

向かいに座る恭介はデザートを頼んでいた。

「なー、恭介」

「ん?」

「姫名先輩は案外、恭介のこと嫌いじゃないかもよ」

「はっ?」

維澄の予想通り、顔を上げた恭介はポカンとしていた。

吹き出しそうになるのを堪えて、追加注文をする。

「嫌いとは、言われてないんだけど」

「んー?さっき友達としてしか思われてないとか、言ってたくせに」

「それは」

「ちゃんと、確かめたのか?先輩に」

「……っ!」

図星だったらしく、恭介はパッと目を逸らした。

たっぷりと視線を泳がせて、肩を落としている。

「……そう、だよな。ちゃんと確かめないとダメだよな」

顔を上げた恭介の瞳は、強い意志で輝いていた。

「新学期になったら、姫名先輩に告白するよ」

「おお!いいぞ恭介!」

「いつするの?始業式?それとも文化祭?」

「んんー、まだ決めてないけど…。決まったら、相談乗ってくれよ、維澄、颯汰!」

「別にいいけど、颯汰の方がいいんじゃない?俺じゃ頼りないでしょ?」

「それを言うなら維澄だって、モテるじゃん」

「それとこれとは別。かなちゃんにモテたいし」

追加注文で頼んだ焼きそばを食べると、颯汰と恭介が「おおっ!」と目を向けてきた。

「え、なに?そんな驚くこと?」

「いや、かっこいいなと思って」

「流石モテ男は違うなぁ」

「別に……。かなちゃんも俺を気にしてくれてはいるけど、俺の方が好きだし」

「かな、可愛いからな」

「……それ、恭介が言う?」

「え?」

「まだ、かなちゃんのこと好きなの?」

「やっ、違っ……」

「わぁ〜。恭介の、浮気者!」

「ちょっ、颯汰!茶化してないで、助けー」

「………これ、没収な」

「あぁ!俺のアイスが!!」

意地の悪いにこやかな笑みでアイスを取り上げる維澄に、恭介が情けない声を上げる。

そばで見ていた颯汰が笑い出し、釣られて維澄たちも笑い出した。



「本当に良かったのか?」

「いいって。どうせ、暇だし。課題も終わってるだろ?」

「まぁ、そうだけど」

ファミレスから出る頃にはすっかり夕方になっていて、颯汰の「泊まっていけば?」のひと言でお泊まり会が開催された。

泊まり慣れている恭介はともかく、維澄まで泊まってもいいのだろうか。

(おばさんはいいって言ってたけど、多分困ってるよなぁ)

布団を広げる颯汰を尻目に、薄く開いた窓に近寄る。

星空を眺めていると、手の中でスマホが振動した。

「維澄ー、布団敷けたぞ」

「ありがとう。颯汰」

メッセージアプリを開くと同時に颯汰に呼ばれ、維澄は布団へ腰を下ろす。

その際に、あるトーク画面を押してしまった。

「ん?誰か電話かけてる」

「俺じゃないよ?」

「維澄?」

「え?……あ」

右手を退けると、下敷きになっていたスマホが着信音を鳴らしていた。

そして、画面にはー。

「ええっ!?」

「「ん?」」

「どうしよ、2人とも!間違えて電話かけちゃった!!うわっ!もう出る!!もしもし?」

『あ、もしもし浅村くん?どうしたの?』

「いや、えっと…」

珍しく慌てている維澄が面白いのか、目の前にいる2人はニヤニヤしている。

電話越しに聞こえるかなのこえに胸が高鳴り、今にも破裂しそうだった。

維澄はグッと拳を握って、覚悟を決める。

「………かなちゃんと、話したくて」

『えっ……。そっか、うん。話そう?』

「今日、一緒に帰れて嬉しかった。夏休みももうすぐ終わるけど、まだ会ってくれる?」

『もちろん。学校も同じだし、会えるじゃん。何寂しいの?』

「んー…そんなとこ」

『じゃあさ、明日か明後日、あいてる?』

「明後日あいてるよ」

『どこか遊びに行こう。2人で』

「……うん」

かなから「2人で」と言われたのが嬉しくて、口元が緩む。

初めてではないのに、自分でも驚くほどに浮かれていた。

「どこ行きたい?」

『気になってたカフェがあるんだ。そこ行きたい』

「わかった。じゃあ、明後日に」

電話を終えてスマホを下ろすと、恭介と颯太が驚いたようにこちらを見ていた。

「何?」

「いや、デレデレだなって」

「そうだな。維澄がそんなにデレるの珍しい」

「……別にデレてないけど。かなちゃんの前だとこうなるんだよ」

「役得だな。かな」

「そうだな」

恭介と颯汰が顔を見合わせてニヤニヤしている。

表情は完全に面白がっているが、案外、応援してくれているのだろうか。

「よし!今日は思い切り話そうぜ!颯汰もな」

「おお!いいね!颯汰〜、告白の話し聞かせろ!」

「ファミレスで話したじゃん」

「サラッとだろ」

「ほらほら。俺も話すから」

「あー…わかったよ」

「よし!」

静かな家に響かないよう、顔を寄せて3人で沢山話をした。

その夜は、ここ最近で1番楽しかった。

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