彼岸花

花火大会から1週間が経ち、かなは部活のために学校に来ていた。

薄く開かれた窓から風に乗って聞こえてくる運動部の掛け声に耳を澄ませ、熱くなった廊下を歩く。

「失礼します」

部室を鍵を返しに職員室に入ると、担任教師と目があった。

「おお!神山、部活か?」

「はい」

(何か、ヤな予感)

担任の隣を見れば、知らない女の子が立っていた。

転校生だろうか、他校の制服を着ている。

赤みがかった髪と瞳、記者な体格はまるで彼岸花のようだった。

(わぁ…綺麗)

思わず見惚れそうになりながら、かなはハッと我に帰る。

「初めまして、1年の神山かなです。あなたは、転校生ですか?」

「私も1年なので、タメ口でいいよ。岸本ひかりです」

「岸本は、夏休み明けからうちのクラスに転校してくることになってるんだ」

「そうなんですね。よろしくね、岸山さん」

2人で職員室を出て、昇降口へ向かう。

靴を履き替えて何気なく部室棟のほうを見ると、背の高い男子がこちらに歩いて来ている。

「あ…」

維澄だった。スポーツバックを肩にかけている。

「神山さん。また、夏休み明けにね」

「えっ?ええ。またね」

笑みを浮かべたひかりが正門を出て行くのを見送ってかなも歩き出す。

「かなちゃん」

「浅村くん」

ひょこっと顔を覗かせた維澄に鼓動が高鳴る。

対する維澄は気にする風もなく、ニコニコとしている。

「いま帰り?」

「うん。浅村くんも?」

「部活終わりだからね。そういえば、さっきの子は?」

「転校生だって」

「夏休みに?」

「ううん。新学期からだよ」

「へー」

並んで歩きながら、何気なく見上げると維澄がムッとしたような表情を浮かべていた。

(あ、あれ?)

何か、気に障るようなことをしてしまったのだろうか。

ドクッと心臓が嫌な音を立てる。

「あのっ」

「……俺だって、話したいのに」

「「えっ?」」

同時に口を開いたのに、内容が全く噛み合ってない。

「………?」

「…………」

ピタリと足が止まり、お互いに顔を見合わせる。

そして、どちらからともなく笑い出した。

「何?話したいって、私と?」

「そっ、そうだよ!…羨ましいなって」

「えっ……」

速度を落としていた鼓動が、また早鐘を打ち始めた。

再び歩き出した維澄の顔は見えないけれど、その耳は赤くなっている。

(そんなこと言われたら……)

かなはギュッとスカートを握りしめて維澄の隣に並ぶ。

大きく息を吸い込んで、目線を少しあげた。

「……別に。いつでも、話そうよ。私は、話ができるなら嬉しいよ?」

「……っ!……それは、ズルくない?」

上目遣いに覗き込むと維澄はグッと拳を握り締めた。

目は泳いでいて、顔は真っ赤になっている。

「うん?何が?」

「……そういうとこだぞ」

片手で口を押さえて、ジロリと睨んでくる維澄に緩んだ頰が抑えられない。

(そんなこと言われたら、期待しちゃうじゃん)

ドキドキと高鳴る鼓動を聞きながら、家路についた。



「ふーん……」

駅の近くで、かなと維澄を見ていたひかりはゆっくりと歩き出した。

改札を通り、ホームへ降りる。

やって来た電車に乗り込み、窓際の席に座った。

(あの2人って、付き合ってるのかな?)

先程見た2人は、とても仲がよさそうに見えた。

少なくとも、男子の方はかなに気があるらしい。

「……結構タイプなのにな」

残念と笑いながら、最寄駅で降りた。

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