新しい関係
「颯汰くん!早く早く!」
「待ってよ、はな」
はなに手を引かれて、颯汰は屋台の間を駆けていく。
祭りの熱気が籠った会場には、人が多いけれどはなは器用に避けていた。
「次、どうする?」
「何か食べるか?」
「ええ〜?さっき食べたじゃん!お腹空いてるの?」
「おう」
「珍しいね!颯汰くんがそんなにお腹空かせてるの」
「そうか?」
「そうだよ!それならさ、あれ食べない?」
「美味しそう。行こうか」
すぐ近くにあった屋台に並び、焼きそばを買う。
「はな」
焼きそばのパックを手に、反対の手で彼女の手を取る。
驚いている彼女を連れて、少し離れた位置にあるベンチに座る。
「はい」
「ありがとう。……あの、颯汰くん。手…」
「え?……あー、人が増えてきたから。それに…」
言葉を止めて、上目遣いにはなを見た。
キョトンとする彼女に笑い、「はなと、繋ぎたかったから」と言うと彼女の顔が赤くなる。
「へっ……!?えと……その。……〜っ!私もっ繋ぎたい!」
「ふっ……ありがとう、嬉しい」
頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った。
その笑顔に、心臓がひときわ大きく跳ねた。
「あっ…」
焼きそばを食べようと箸を持った手を止めて、はなが声を上げた。
彼女の視線は、何をみているのか釘付けになっている。
「どうした?」
「あそこにいるのって…。かなちゃん?」
「え?」
彼女の指さす方には、確かにかながいた。
そして、彼女は1人ではなく維澄と一緒だった。
「おおっ」
(ちゃんと誘えたんだな)
夏休み前、かなを花火大会に誘おうと悩んでいた維澄の姿が脳裏をよぎる。
あまり積極的に話しかけることを躊躇していた維澄が、かなと花火大会に来ている。
「あの男子は、かなちゃんの彼氏?」
「いや、違うよ。でも、もうすぐそうなるかも」
「わぁ!そうなったら素敵だね。すっごくお似合いじゃない?」
焼きそばを食べながら、はなはニコニコとしている。
彼女がこんなにも嬉しそうにするのは、維澄と一緒にいるのを見たからだけではないはずだ。
(だって、あいつ…。しばらく、恋はしないって言ってたもんな)
それが今、久しく見なかった表情で維澄を見上げている。
2人の間に友情とはまた違ったものが芽生え始めている証拠だろう。
「射的やりたいな」
「行こうか」
同時に立ち上がり、かなたちとすれ違う。
すれ違いざまにチラリと見れば、彼らは楽しそうにかき氷を分け合っていた。
ー頑張れよ、維澄。
「………あれ?」
花火が始まる直前、目の前をある男女が通り過ぎた。
思わず目で追うと恭介の背中が目に入り、ゴクリと喉が鳴る。
同時に、ドクン、ドクンと心臓が暴れ出した。
隣にいるのは、誰なのだろう。
マナと姫名、どちらだろうか。
痛いくらいに脈打つ胸を抑えて、精一杯に首を巡らせる。
ドォン、ドンドン!花火が打ち上がる。
花火の光に照らされた瞬間、颯汰は息を飲んだ。
恭介の隣にいたのは、姫名だった。
そして何より驚いたのはー。
(手を、繋いでる……)
ずっと自分の気持ちがハッキリしないと言っていたのに、彼女と手を繋いでいるのは逸れないためだろうか。
だが、花火が始まった今、隣にいる彼女と逸れる心配はない。
(まさか、本当に…?)
チラリと右隣に視線を向けると、はなは花火に見入っていた。
近くにいる恭介たちには気がついていないようだ。
維澄とかな、恭介と姫名。
彼らの関係が、大きく動き出している。
颯汰は直感的にそう感じた。
(維澄は問題ないだろうけど、恭介は…どうだろうな)
花火に視線を移して変わりはじめた新たな関係に戸惑う鼓動を聞いていた。
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