そばにいたから。
鈴代京介と神山かな。昔からの幼馴染。
彼らとは小学校からの付き合いで、腐れ縁だった。
それは高校に入学して2週間経った今でも変わらない。
「あ、青栁先輩からだ」
「連絡先交換したんだっけ?最近仲良いんだね」
騒がしい昼休みの教室で、弁当を食べながら恭介がスマホを見ていた。
隣に座るかなが楽しそうに覗き込んでいる。
「青栁先輩って、近所の?」
「そう。すっごく綺麗な人。俺、中学で同じ委員会だっんだ」
「姫名先輩のほう?」
「そうだけど。姫名のほうって何?あの先輩、妹がいるの?」
「あれ、恭介知らないの?」
「何が?」
「あのね、青栁姉妹ー」
かなが言いかけた時、運悪く昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「青栁姉妹?がどうした?」
「……いや、何でもない」
「?そうか?」
かなと颯汰が立ち上がり、自分の席に移動する。
恭介は、首を傾げたままだった。
「ごめん、好きな人がいるから。君とは付き合えない」
放課後の喧騒から離れた旧校舎2階。
颯汰は相手に丁寧に頭を下げた。
「そっか……。その人って、どんな人なの?」
「……俺を、照らしてくれる人。太陽みたいに明るく照らしてくれて、落ち込んでいても元気になれるんだ」
「ありがとう、教えてくれて。……素敵な人だね」
「うん…。俺の知ってる中で1番だよ」
向かい合う少女にもう一度頭を下げて、そばに置いていたカバンを取り上げる。
階段を降りて昇降口を出ると、横から腕を掴まれた。
「遅い」
「ひどいなぁ、約束してたわけでもないのに」
無表情のかなが颯太の腕を離す。
その瞳は混乱と心配に揺れていた。
「昼休みの話?」
「……何で、言わなかったの」
「……言わなくてもいいと思ったから」
ゆっくりた歩き出すと、背後で息を呑むような音が聞こえた。
「言わなくてもいいって、恭介が2人と会ってるかもしれないからでしょ?確証がないじゃない」
バンっと颯太の背中を叩き、かなが隣に並ぶ。
「まぁ、そうだけど。ていうか、痛い」
「知らなーい」
パッと手を広げて、かなが歩いていく。
(そんなに嫌だったのか?)
かなのことだから心配しているだけだろう。
最も本人が素直じゃないために、誤解されやすいのだが。
(自覚ないんだよなぁ。これが)
颯汰は苦笑を浮かべて彼女の後を歩く。
よくも悪くも恭介に姫名たちのことを話さないで正解だったはずだ。
今話しても、覚えていないだろうから。
「ねぇ、颯汰」
「うん?」
いつの間にか立ち止まっていたかなが、こちらを振り返る。
颯太が隣に立つと、かなはスマホを見せてきた。
「……っ!これって……」
「はなちゃんから。颯汰と話したいんだって。確かトークは持ってたよね?いい加減、話しかければ?」
「そ、そうだな。ありがとう!」
ニヤニヤと笑う彼女から顔を背けて、手で口元を覆う。
『青野くんと、会いたいんだ』
かなが見せてきたトーク画面に書かれた文字。
藍田はなー颯汰の、好きな人だ。
まさか、彼女も同じことを思っていてくれたなんて。
嬉しくて、頰が緩むのを抑えられない。
(……帰ったら、絶対連絡しよ)
すぐ隣にいるかなは、楽しそうに笑っていた。
「応援、してるからね」
「ありがとう」
ニコニコと柔らかく微笑む彼女は、あの頃よりも優しかった。
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