真理とは

 バカッ!


 スピードの強力な右拳がマインドの顔面に決まる。ガクッとその場に崩れ膝をつくマインド。大量の鼻血がぼたぼたこぼれマインドのシャツを真っ赤に染めていく。


「お前の負けだ。覚悟を決めろ」


 低い声で死の宣告をするスピード。だがマインドはスピードに掴みかかる。


「犬に負けるわけにはいかないんだよ。くらやみ!」


 またスピードの目が見えなくなる。


「俺がつかんだ人生の真理を知りたいとは思わないか?」


 しばし心が揺れるスピード。何も成していない自分と、成し得たマインド。真理を聞きたくなった。


「人生の真理だと…なんだ。言ってみろ」


「スピード、奴の術にハマるな。心理戦を仕掛けてるんだ。早く息の根を止めろ!」


 気絶から起き上がったロードがスピードを止める。しかしスピードは動こうとはしない。


「俺はな、14の時アウカトラズに入った。最初の頃はいろいろやらされたよ。借金の取り立て、ギャングどうしの出入り、そしてヒットマン。この腕をフルに使って俺は上に這い上がっていった。上がるたびに視線が高くなる。そして俺はこう思うようになった。政治家、役人、富裕層のジジィ。こいつらは下層の奴らから税金を容赦なくむしり取り、自分のふところに入れている。こいつらのやっている事と俺らがやっている事の何が違ってるんだとな。そうは思わねーか、セイテンとやら」


 スピードが狼狽し手で汗をぬぐう。


「なぜ俺の名を……そうか、心が読めるんだったな。そんなギャングの言い訳などいい。真理を聞いてるんだ!」


「一つ、この世に生まれてできる事は一つしかねぇってことだ。」

 

 

 

 センリが水晶を覗きながら険しい顔をしている。


「意外にもマインドが不利のようですぞデウス様」


「ほう、あの拳法をもってしてもか」


「想像以上にスピードの拳が強いかと」


 デウスが槍を手にとる。


「俺の所まで来そうか」


「五分五分かと」


「そうか。ならば迎え討つまで」


 デウスは武道場に向かった。


 

「できる事は一つか。ならばこそ武術を極めるのみ!」


 突然のマインドの攻撃。しかしスピードは目が見えずとも避け、かすりもしない。


「東方の国では道を極める事を『極道』と言う。ギャングの道を極め、必ず頂点に登りつめてやる。俺にはその選択肢しかないからな」


「お前より強い奴がいるのか?」


 クロウが尋ねる。


「でなかったらナンバー2じゃないだろ」


 一気にクロウに向かうマインド。スピードの拳が飛び、マインドの背中を突く。


「ぐわっ!」


 ロードがそのすきにスピードの目と足を治す。


 復活したスピードがマインドの前に出る。


 ガツ、ガツ


 お互い譲らない拳の応酬が続く。


 ブンッ


 スピードの左回し蹴りがマインドの後頭部にヒットする。どうっと倒れるマインド。


 マインドが突っ伏して動けなくなる。


「真理が分かった。そこは礼を言う。だがお前はもうここまでのようだ。正直に言えばこれほど強い奴と俺は初めて戦った。天に感謝する。これほどの拳士を俺に遣わせた事を」


 マインドは延髄にダメージを受け、もう動けない。覚悟を決めて目をつぶる。


「そうか……光栄だ。これほどの拳の使い手に殺られるなら本望だ。俺の夢は父を殺した憎きデウスを葬る事。お前達で成し遂げてくれ……」


「父を……」


「情けは無用だスピード。こいつはただの殺人鬼だ。お前が殺らなきゃ俺がやる」


 ロードが無情にもなわしろをマインドの首にかける。


「待てロード。俺が決着をつける」


 スピードが足を高くあげ、マインドの頭を踏みつける。


「来世では復讐に生きるな、マインド。復讐は身を滅ぼす……」


 見えない手を合わせるスピード。


「あのセリフ言わないのか? 勝利宣言しないとコイツの異能は身につかないぞ」


「ふふ。コイツの異能はいらない。俺は自分の拳があればいい」


 目を閉じ口の端で笑う。クロウはスピードの男気にあらためて惚れ直す。


「ちょっと何も見えないわよ!どうなったの!?」


 ズズを忘れていた一同は鼻をこすりながら笑った。








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