マインド

 クロウは覚悟を決めて隣りの部屋に入る。薄暗い部屋。中を見てぎょっとした。十人ほどの男や女がソファーに座ったり床に寝転んで、みなキセルで何かを吸っていたのだ。


(やはり阿片窟か)


 クロウは鼻がもげそうになるニオイで口をふさぐ。目が慣れてくると奥の上等そうなソファーに腰掛けた一人の男が見えた。


「お前がシェルラか」


「名前など意味がない。みなからはマインドと呼ばれている。どうだ、一服?」


 眉をひそめるクロウ。


「吸うわけないだろ! タバコも吸わないのに」


「ふん。まぁ、いい。お前らの狙いはアウカトラズの殲滅だろう。しかしナンバー2には俺がいる。残念だったな、俺の異能は見抜けず死んでいくのみだ」


「見抜けない?」


「見抜けない?」


 クロウは絶句した。自分が言おうとしたセリフをほんのコンマ0.5秒早くマインドに言われたからだ。


「……お、お前のその異能……俺と……同じ……」


 マインドは口の端を上げ、ニヤつく。


「分かっていると思うが俺にはすべての攻撃は無意味だ。ものごとに意味などいらない。捨ててしまえクロウ。俺の右腕として働かないか?」


 歯ぎしりするクロウ。


「ほう、俺は人の心が読める。マジで揺るぎない正義感の持ち主のようだな。それがお前を苦しめている。なになに?母と妹をギャングに殺され……」


「やめろー!!!」

 

 

 

「いまクロウが叫んだ!ヤバい。早く助けに行かないと」


「あたしがドアを開けるわ! 下がってスピード」


 ズズが大きな玉を出す。それをドアにぶつけると大きな穴があいた……とみなが思った。


「なにー!?」


 ドアはそのままだった。スピードがノブをガチャガチャ回すがどうしても開かない。


 じっと見ていたロードがなわしろを出す。


「ドアが思念体のようだ。ズズの黒い玉は実物にしか使えない。俺のなわしろでどうにかしてみよう」


 にゅるるるるる


 なわしろがドアの端をたどっていく。下に到達した時、ロードが眉を上げる。


「あった。隙間だ」


「いけそう?」


「やるしかない」


 ドアの内側を探っていくロード。しばらくしてにやりとする。


「あった。鍵穴だ」


 ロードが鍵穴になわしろを突っ込む。


 ガチャ


「あいた」


「よし、俺がいく!」


 スピードがドアを開け中に入る。何も考えずにマインドに突進する。


「エイヤー!」


 バギィ!


 マインドが吹っ飛んだ。そしてどたりとあおむけに崩れる。


「ぐっ。来たな単細胞が」


「うるせー。めちゃくちゃにしてやる!」


 しかしマインドは余裕の表情だ。


「くらやみ」


「ん?なんだ真っ暗だ。何も見えねー」


 ズズとロードも入ってきた。阿片を吸っていた奴らはみな避難した。


「くらやみ」


 マインドがロードに異能を使う。しかしロードに異能は効かない。


「へへ、残念……」


 バカァ!


 マインドが超速でロードの所に行き素手で殴りつけてきた。もの凄い突きにロードが倒れてしまった。


「無効」


 ロードが気絶しそうになったところでスピードのくらやみをとく。


「サンキュー、ロード」


 ふっと消え、マインドの横に現れたスピード。ストレート三連打をマインドは軽く避ける。


 スピードが左の上段回し蹴りを放つと、マインドはその足を肩に抱えて投げを打つ。


「なにっ!」


 ごきっ


 マインドがねじりながら投げたので足首が折れてしまった。容赦なく床にたたきつけられたスピード。


「なんだその技。くそっ!」


「お前、自分を超える格闘家などこの世にいないと思っているだろう。俺は天才だとな。笑えるぜ。その天才を超える者には無力だという事を教えてやろう」


 座ったまま後づさりをするスピード。マインドが足を狙った蹴りを打つ。


 容赦ない足技がスピードの足をヒットする。顔をゆがめるスピード。


「俺はな、七つの頃から我が家直伝の拳法をならわせられた。そして十になるころには門下生に教える腕になった。本当の天才とは三年で不倒の拳を身につけるものだ」


 その時スピードはマインドの両足を挟み込む。そのまま足で投げを決める。


「ちったーやるじゃねーか」


 その隙にズズがマインドに向かって黒い玉を放つ。しかしマインドにことごとくよけられる。


「くらやみ」


 ズズの目が見えなくなった。


「うぇーん。なにこれー。ロードどうにかしてー」


 しかしロードは気絶している。


 スピードがなんとか立ち上がった。右足を引きずりながら。


「お前は物心ついた時から空手を習わされ、結局その道に進もうとしている師匠の犬だ。人生を決められそのレールに乗っているただのバカだ。人生ってのはな、おのが道を切り拓くところに醍醐味がある。犬には分かるまい。勝ち取った人生の素晴らしさなど!」


「なにっ!それでギャングの道を歩んでいるのか」


「そうだ。人は殺し放題、女は抱き放題だ。あり得ないほどの金を見せれば女なんかすぐになびく下等生物にすぎん。ふっふっふ」


 マインドが三連打するもスピードが中段払いでことごとく受ける。


「俺はな、自分の意思で空手家になったんだ。それが俺のいしぶみだからだ!」


 一歩引いたマインドに、スピードの見えない左拳が飛ぶ。





 

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