懺悔のロード
クロウが寝汗をかいている。それをじっと見つめるロード。
「はっ?!……ふう夢か。もう少しで殺られるところだった……」
クロウが起き上がり水差しの水をコップにいれ飲み始めた。
重苦しい顔をしているロードも起き上がる。
ロードがクロウに話しかける。
「これからハードな闘いが待っている。その前に俺の話を聞いてくれ」
水を飲みベッドに腰掛けるクロウ。
「俺の本当の名前はケンレンだ。お前がおババと呼んでいるあの老婆に与えられた名だ。お前は知らないかもしれないが、水虎の俺に人間の体を与えてくれた、とてつもない高尊なお方の魂だ。その名も『シャーキャ、ゴータマシッダールタ』」
クロウが水にむせ、咳き込む。
「聞いた事ある名前だそ。確かお釈迦様の本名じゃねーか!」
「そうだ。お釈迦様は今の暴力と略奪に支配されたこの世を大変嘆いておられる。そんな俺に使命を与えてくれたのがお前だ。お釈迦様はこうも言っておられた。クロウの異能は一見他の異能より劣ってみえる。しかし最後には最強の異能となる。旅をする者達の道しるべ。クロウ、いや『ゲンジョウ』について行けとな」
「俺の本当の名を知ってるとはその通りなんだなと思う。お前はどんな業を背負っているんだ?」
鈍い笑いをしながら白髪の老水虎に変化するロード。翡翠色の目が光る。
「俺はな、クロウ……これまで300人以上の人間を殺している。異能欲しさにな。なんの罪もない幼子まで……殺しの現場を見ている者は復讐の火を心に宿す。その芽を根こそぎ摘むためにな」
やり切れない気持ちのクロウ。救いを求め手を合わせる。
「子どもを手にかけると何とも言えない罪悪感で気が狂いそうになる。殺した子どもを涙ながらに見ていると、ある一人の老婆が現れこう言ったんだ。『その子を念力で小さくし数珠にせい。そして西に向けて旅をせよ。やがて仲間が現れる。修行僧のような格好をした者じゃ。名前はクロウ。何も話さずただ付いてゆくがいい。立ち上がるのじゃケンレンよ!』……とな」
「それで人間の体を与えられたと」
「俺は西へと旅に出た。しかし旅費がなく、仕方なしに富豪の用心棒をしてた訳さ。そしてみなが現れた。その老婆の導き通りに……」
深く頷くクロウ。
「俺はもう殺人鬼だった頃の俺じゃねぇ。これからはこの腐った世界を浄化すると決めた。だからお釈迦様からもらった経本を読んでいる。これだが」
クロウに経本を渡すロード。
「なかなかに難しく、何を書いているのか分からないところも多いのだが」
「どれどれ」
クロウが経本を開くと「大方広仏華厳経」の文字が。
「学がねえ俺にはちっとハードルが高い」
クロウはその経本に興味をもった。
「できるところまで読んでやろう」
「読めるのか?」
本に見入るクロウ。
「梵字か。なんという事もない。そう言えば俺の履歴を言った事もなかったな。大京大学大学院生、コンゲンジョウだ。専門は東方哲学、仏教、道教、朱子学、孔孟思想などだ」
「ならば仏教を知っているのか」
「あらかたな。でも当てにするなよ。この華厳経には『縁起』について書いてある。俺も中身を読むのは初めてだ。じっくり紐解いていこう」
ロードの目から涙が。
「俺は師を見つけた……まさかこんなに身近にいようとは!」
「師とは大げさな。まぁ、将来は学者になるつもりだからな。予行演習と思って読み進めてみるよ」
バタンッ!
ロードがベッドに倒れこけた。
やっと眠れたのだ。
それから三日間、こんこんと眠り続けた。
五人の美しい裸婦がデウスの全身を舐めている。
この世の春を謳歌するデウス。
やがてその中の一人の手を取った。
「お前には飽いた」
そう言うと掴んだ腕を握りしめる。
「イレイス」
女は掻き消えた。
「ヒウマノ」
白い光を発しながらまた別の美女が現れる。
「なかなかにいい女じゃないか」
ニヤつきながら女をたぐりよせる。
これがデウスの本来の異能。人間を作り出す事ができるのだ。
悪魔の力がないと、魔力不足で力を発揮できない異能「ヒウマノ」。
デウスの正体は地獄から抜け出した悪魔。
果たして悪魔と闘えるのか。
それすら知らずにクロウたちはデウスの居場所を探索中である。
静かに、静かに、決着の日が迫っている。
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